ImmunoTox Letter

第25回日本免疫毒性学会学術年会報告

野原恵子(国立環境研究所環境リスク・健康研究センター)

 

 2018年9月18日、19日の2日間にわたり、第25回日本免疫毒性学会学術年会をつくば国際会議場で開催させていただきました。多くの皆様がたのご協力・ご支援をいただき年会を開催できましたことを心から感謝申し上げます。

 今回は第25回、すなわち本学会の活動が四半世紀を迎えたという記念すべき年会でした。この節目を迎えるにあたり一昨年度に将来検討ワーキンググループが設置されました。本会ではそのメンバーからもアイディアをいただき、「徹底討論!免疫と環境」というテーマのもと、2日間にわたって文字通り盛んな質疑応答や議論が繰り広げられました。

 招待講演では、免疫学の分野において現在まさにホットな課題であり、会員の関心も高い「がん免疫」および「腸内細菌」に関するセッション、および他分野では大きな進展を見せていますが、本会ではこれまでほとんど議論されていない「エピジェネティクス」に関する講演を企画しました。これらはいずれも各分野で研究をリードされている先生方にご講演をお願いすることができ、深い見識に裏打ちされた大変に迫力のあるお話を伺うことができました。

 まず第1日目に、教育講演で吉村昭彦先生(慶応大学)に「制御性T細胞のエピジェネティク改変による免疫疾患制御」についてご講演をいただきました。それに続くシンポジウム「腸内細菌と免疫疾患-免疫毒性学研究における新たな視点-」において、柳澤利枝先生(国立環境研)、下条直樹先生(千葉大学)、澁谷彰先生(筑波大学)、竹田潔先生(大阪大学)に、それぞれ腸内細胞と環境化学物質との関連や、小児アレルギー、アレルギー・炎症、自己免疫疾患との関連についてのご講演をいただきました。

 第2日目の特別講演では、B. Paige Lawrence先生(University of Rochester, USA)に、化学物質の妊娠期曝露によるT 細胞機能への継世代的な影響、という新知見をお話しいただきました。Lawrence 先生は、米国毒性学会免疫毒性専門部会(SOT ITSS)と日本免疫毒性学会で行っている交流プログラムの派遣者という形でご講演くださいました。さらにSOT ITSSからは昨年度に引き続きPresident のDr Jamie Dewitt (East Carolina University)およびPostdoctoral representativeのDr Alessandro Venosa (University of Pennsylvania),  Student representativeのDr Alexa Murray (The State University of New Jersey)の祝辞ビデオをいただきました。

 また試験法ワークショップにおいて、「がん免疫療法の開発と免疫チェックポイント剤の安全性評価」というタイトルのもと、珠玖洋先生(三重大学)、田口和彦先生(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)、佐藤実先生(産業医科大学)にそれぞれ免疫療法開発のガイダンス、臨床・非臨床試験、および自己免疫疾患発生予測についてご講演いただきました。

 その他今回新たに試みたインターナショナルセッションでは、Khaled Hossain先生(University of Rajshahi, Bangladesh)とMyint Myint Nyein先生(University of Medicine 1, Myanmar)に、それぞれ自国でのヒトを対象とした研究をご紹介いただきました。

 一方、一般発表は口頭発表10題、ポスター発表17題で、また若手セッションは9題でした。若手セッションの方には持ち時間5分の口頭発表とポスター発表の両方を行っていただき、また今回ポスター発表は2日とも発表を行っていただきました。

 そして一般発表から年会賞を、若手セッションから若手優秀発表賞を選考しました。厳正な審査の結果、年会賞は北海道大学の室本竜太先生、若手優秀発表賞は大阪大学博士課程の衛藤舜一さんと静岡県立大学の堤正人さんが受賞されました。今回はどの演題も力作で甲乙つけがたい状況でした。特に若手優秀発表賞は、同点で最高得点の上記のお二人に決まりましたが、実は3位の方もごく僅差という激戦でした。

 また今年度の日本免疫毒性学会学会賞を受賞された手島玲子先生(岡山理科大学)および奨励賞の串間清司先生(アステラス製薬)の受賞講演も2日目に行われました。手島先生は女性初の学会賞受賞者で、また串間先生は学会賞・奨励賞を合わせて産官学の産からの初の受賞者です。串間先生は現在アメリカに赴任中で、インターネットを使ってご講演をされましたが、これも本学会の年会での初の出来事でした。

 この他に初日の夜は懇親会を開催し、皆様にご歓談いただきました。つくば市イメージキャラクターのフックン船長のお出迎えがあり、会の中盤には鈴木武博先生(国立環境研)のバイオリン演奏と、黒川修行先生(宮城教育大学)と「一夜限りの免疫毒性ダンサーズ(4名)」によるChoo Choo TRAINが披露され、会を盛り上げていただきました。

 今回の年会では、将来検討WGの提案で、初回に限り会員にならずに年会で発表をしていただける、という新制度を試行しました。また招待講演のセッションは、オーガナイザーの先生方のご尽力で時宜にかなった企画が実現されました。また将来検討WGのメンバーが中心となってより広い分野の方に積極的にお声掛けをしてくださいました。そのようなおかげももちまして130名を超える方々にご参加いただくことができました。会の運営にあたりましては行き届かない面が多々あったことと思いますが、皆様のご理解とご協力によって進行ができましたことを感謝申し上げます。また本会に貴重なご支援をいただき、会の実現にお力添えいただきました企業や法人の皆様にも、心から御礼申し上げます。

 今回の年会を振り返りますと、免疫に関わるごく基礎的な事象から、毒性評価や臨床の課題まで、実に多様な研究がいずれも熱心に討論されていました。免疫反応は環境とも密接に関係し、免疫学の対象が広くなるのは当然のことと思います。それらの課題を親密に議論できる場として、本会が新たな四半世紀に向かって歩み出していることを年会の中で感じることができました。皆様の今後ますますのご活躍を祈念して、ご報告を終わりたいと思います。