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シリーズ「免疫毒性研究の若い力」13
神経細胞におけるマンガン蓄積に対する炎症性サイトカインの影響
藤代 瞳
徳島文理大学薬学部衛生化学
藤代 瞳

私は亜鉛(Zn)やマンガン(Mn)などの金属の動態と毒性に対する炎症性サイトカインの役割を検討しています。この機会をお借りして研究の一部をご紹介いたします。

私たちはこれまでMnおよびカドミウム(Cd)の細胞内輸送にZn輸送体のZrt, Irt-related protein 8(ZIP8)とZIP14が重要な役割を果たすことを見出し、研究を行ってきた1,2)。CdもMnも金属結合タンパク質であるメタロチオネイン(MT)を誘導することが知られている。しかし、IL-6ノックアウトマウスにMnを投与してもMTが全く誘導されないことを見出し、MnによるMT誘導がIL-6の産生に完全に依存していることを明らかにした。また、Mnは肝臓でIL-6を誘導することにより、Zn輸送体のZIP14の発現を亢進させ、肝臓へのZnの流入を促進することも明らかにした3)。ZIP14はIL-6によって誘導される唯一の金属輸送体である。

一方、Mn中毒の症状としてパーキンソン病症状と類似した神経症状が報告されている。職業的Mn曝露は減少したが、現在日本では高齢化社会に伴い、認知症やパーキンソン病などの脳変性疾患の増加が社会問題となっている。近年、一部の原発性パーキンソン病患者ではMnや鉄(Fe)の脳内への蓄積が見られたり、アルツハイマーなどパーキンソン病以外の脳疾患患者でも脳内Mn濃度が高いことがあることが報告され、MnやFeの代謝異常がこれらの脳疾患の増悪因子になっている可能性が考えられる。しかし、神経細胞へのMn取り込みに関わる輸送体はDMT1および3 価のMn輸送経路としてトランスフェリン受容体のみしか検討されていなかった。そこで私たちは、ZIP8およびZIP14が脳神経系においてMn輸送に関与するかどうかを検討し、神経芽細胞腫(SH-SY5Y)においてDMT1のみならずZIP14を発現抑制するとMn取り込み効率が低下することを見出した4)

ZIP14はIL-6に応答して発現上昇することが知られているが、様々な脳神経系疾患の進展に伴って、ZIP14の発現が変化するのかどうかは不明である。近年、様々な脳変性疾患において炎症性サイトカインの上昇が報告されており、脳におけるIL-6などの炎症性サイトカインの役割が注目されている。SH-SY5Y細胞をIL-6に曝露し、金属輸送体の発現への影響を調べた結果、ZIP8およびZIP14の発現がIL-6によって上昇することが分かった。また、IL-6曝露後のMnの取り込みおよび蓄積を調べた結果、Mn蓄積が約2.5倍に上昇した。一方、近年Mnの輸送に関与する可能性が知られているZn輸送体のZnT10に対するIL-6の影響を調べた結果、ZnT10の発現がIL-6によって低下することを見出した4)。そこで、SH-SY5Y細胞をIL-6に曝露した時のMnの排泄効率について調べた結果、Mnの排泄効率がIL-6によって発現低下することが分かった。以上の結果より、SH-SY5Y細胞をIL-6に曝露することによって起こるMn蓄積の上昇は、ZIP8およびZIP14の発現上昇によるMn取り込みの上昇とZnT10の発現低下によるMn排泄効率の低下の両方が関与している可能性が示唆された。

さらに、脳変性疾患の炎症性病変で上昇が報告されているIL-6以外の炎症性サイトカインであるTNF-αおよびIL-1βによる金属輸送体発現とMn蓄積への影響について解析した結果、IL-6と同様に、TNF-αとIL-1βもMn輸送体の発現を変化させ、Mn蓄積を増加させることが明らかになった。近年、様々な脳変性疾患での炎症性サイトカインの役割が報告されている。今後、これらの炎症性サイトカインがMnなどの金属代謝を変化させ、脳疾患の悪化を引き起こす可能性についてさらに検討していきたい。

<参考文献>

  1. Fujishiro, H., Okugaki, S., Nagao, S., Satoh, M., Himeno, S. Characterization of gene expression profiles of metallothionein null cadmium-resistant cells. J. Health Sci. 52(3), 292-299, 2006.
  2. Fujishiro, H., Doi, M., Enomoto, S., Himeno, S. High sensitivity of RBL-2H3 cells to cadmium and manganese: an implication of the role of ZIP8. Metallomics 3(7), 710-718, 2011.
  3. Kobayashi, K., Kuroda, J., Shibata, N., Hasegawa, T., Seko, Y., Satoh, M., Tohyama, C., Takano, H., Imura, N., Sakabe, K., Fujishiro, H., Himeno, S. Induction of metallothionein by manganese is completely dependent on interleukin-6 production. J. Pharmacol. Exp. Ther. 320(2), 721-727, 2007.
  4. Fujishiro, H., Yoshida, M., Nakano, Y., Himeno, S. Interleukin-6 enhances manganese accumulation in SH-SY5Y cells: Implications of the up-regulation of ZIP14 and the downregulation of ZnT10. Metallomics 6(4), 944-949.2014.
 
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