ImmunoTox Letter

第25回日本免疫毒性学会 学術年会 学生・若手優秀発表賞
接触性皮膚炎におけるトリアシルグリセロールの皮膚感作促進作用

堤 正人(静岡県立大学薬学部免疫微生物学分野)

 

 この度、第25回日本免疫毒性学会学術年会において、学生・若手優秀者賞を賜り、誠にありがとうございます。審査委員の先生方に心より御礼申し上げると共に、私の発表に足を運び、時間を割いて下さった方々に厚く感謝致します。私は、静岡県立大学薬学部免疫微生物学分野に所属し、日々研究に取り組んでおります。それでは、賞を頂きました研究の内容に関しまして、背景を踏まえて紹介させていただきます。

 近年先進国を中心としてアレルギー患者数は増加の一途を辿っており、日本においても平成28年の厚生労働省の調査報告書より、人口の約5割に及ぶ人々が何らかのアレルギー疾患を有するという実態が明らかとなりました。アレルギー患者数増加の原因の1つとして、生活環境中で接触する化学物質が増加していることが挙げられます。特に、化学物質の中でも自身は抗原にならない一方で、抗原性を増強し免疫反応を促進する物質のことをアジュバントといいます。アジュバントは自身が抗原とはならないことから発見が困難であり、現状パッチテストのような簡便なスクリーニング方法は確立されていません。

 当研究室では、fluorescein isothiocyanate (FITC) をハプテンとした、FITC誘導接触性皮膚炎マウスモデルを用いて、アジュバントを同定してきました。このモデルでは抗原としてFITCを用いて感作を行いますが、溶媒にdibutyl phthalate (DBP) を添加して初めて感作が成立することから、DBPが皮膚感作促進作用 (アジュバント作用) を有することが明らかにされており、DBPの代わりに被験物質を加えることでその物質のアジュバント作用を評価することが出来ます。我々はDBPなどのアジュバント作用と、神経上に発現するtransient receptor potential ankyrin 1 (TRPA1) の活性化作用が正の相関性を示すことを明らかにしてきました。また、アジュバントの構造的特徴の解析を進める中で、triacylglycerol (TAG) の1つtributyrinがアジュバント作用を持つことを発見しました。TAGはエネルギー源として体内に貯蔵され、また様々な植物油に含まれることから、日常的に接する機会の多い脂質です。特にグリセロールに短・中鎖飽和脂肪酸の結合したTAGは、経口摂取による抗がん作用や肥満予防作用等、有益な報告が挙げられています。その一方で、TAGの一部は化粧品に使用されていますが、TAGの皮膚感作における影響は明らかではありません。また、TAGは含有する脂肪酸の種類により、化学的また物理的性質が異なります。そこで、私たちは含有する脂肪酸の異なるTAGについてアジュバント作用を検討致しました。結果、炭素数6、8及び10の短・中鎖飽和脂肪酸を含有するTAGであるtricaproinやtricaprylin及びtricaprinにアジュバント作用が確認されました。また、フローサイトメーターを用いた解析により、tricaproin、tricaprylin、tricaprinによりFITCを取り込んだ樹状細胞 (FITC+DC) の所属リンパ節への遊走が促進されるということが明らかになりました。

 一方、ω 9 (18:1) 不飽和脂肪酸を持つtriolein添加条件では、アジュバント作用が確認されませんでした。また所属リンパ節へ遊走したFITC+DCの割合は、tributyrin添加条件よりも低く、さらにT細胞の活性化に重要な共刺激分子であるCD86陽性樹状細胞の割合も低いということが明らかになりました。以上の結果より、TAGは含有する脂肪酸の種類により、皮膚免疫系に対して異なる影響を与える可能性が考えられました。

 さらに興味深いことに、単独ではアジュバント作用が認められなかったtrioleinをtributyrinと共存させて感作すると、tributyrinにより促進されたFITCへの皮膚感作が抑制されるということが明らかとなり、trioleinが皮膚感作抑制作用を有することが示唆されました。この結果から、アレルギー疾患の予防において、アジュバントへの接触機会の回避だけではなく、アジュバント作用の抑制という新たな切り口での可能性が示されました。

 今後は、更なるアジュバントの同定及び作用機序の解明に努めていきたいと考えております。そして研究を発展させることで、アレルギー疾患に苦しまれる方々の助けとなれるようにこれからも精進し続けていきたいと思います。

 最後になりますが、本研究を取り組むにあたって、日頃よりご懇切なるご指導を賜りました静岡県立大学薬学部免疫微生物学分野、今井康之教授、黒羽子孝太講師に深く感謝致します。また、研究生活における様々な面で力添えをいただきました研究室メンバー一同に心より感謝申し上げます。また、免疫毒性学会の先生方にも改めて感謝申し上げます。今後とも何卒ご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

堤 正人先生
堤 正人先生