ImmunoTox Letter

第25回日本免疫毒性学会 学術年会 学生・若手優秀発表賞
非晶質ナノシリカ誘導性の肝障害が、事前曝露により獲得免疫系を介して増悪する

衛藤舜一(大阪大学大学院 薬学研究科 毒性学分野 博士前期課程2年
大阪大学博士課程リーディングプログラム・生体統御ネットワーク医学教育プログラム)

 

 この度、第25回日本免疫毒性学会学術年会において、若手優秀発表賞を賜り、大変光栄に存じます。選考委員の先生方ならびに、学術年会での発表において、厳しくも温かいご助言を賜りました諸先生にこの場をお借りして心より御礼申し上げます。

 私は、学部3年次に大阪大学薬学研究科・毒性学分野に配属され、堤 康央教授のご指導の下、ナノマテリアルの安全性研究に従事して参りました。ナノマテリアルは、近年、様々な産業で使用が拡大している素材であるものの、その革新的機能とは表裏一体に、予想外の生体影響を引き起こし得ることが懸念されております。本観点から我々は、ナノマテリアルの安全性情報、ならびにその安全性向上に資する基盤情報の収集(=ナノ安全科学研究・ナノ最適デザイン研究)を推進しています。本稿では、これら研究の中から、主に私の取り組んでいる課題より、今回の受賞に至りました研究内容を拙文ながら紹介させていただきます。

 これまでに我々は、ナノ安全科学研究とナノ最適デザイン研究に取り組む中で、金属イオンの感作投与では誘導されなかった金属アレルギー様症状が、金属ナノ粒子の感作投与により誘導されることを明らかとしました(T. Hirai et al., Nat. Nanotechnol., 2016)。これは、ナノマテリアルの獲得免疫系を介したハザード発現を示唆するものであり、単回曝露時とは異なるハザード(生体応答)発現の可能性が懸念されることから、更なるハザード解析の必要性を示すものでありました。そこで本研究では、金属アレルギー様症状を呈するイオン放出性のナノ粒子ではなく、非金属無機ナノ粒子である非晶質ナノシリカを用い、複数回曝露に着目した、獲得免疫系を介したハザードの同定を試みました。その結果、非晶質ナノシリカを耳介部皮内に事前投与しておくことで、尾静脈内より過剰量の非晶質ナノシリカを投与した際に誘導される肝障害が増悪することを見出しました。この時、免疫不全マウス(C.B-17/SCID)では肝障害の増悪が消失したことから、本現象は、獲得免疫系を介したものであることが示唆されました。さらに、事前投与を施したマウスの血清を未処置のマウスに移入しても、肝障害の増悪は確認されなかったものの、中和抗体を用いてCD8+T細胞を除去することで肝障害増悪が消失したことから、本現象には細胞性免疫が関与していることを見出しました。一方、本実験において、CD4+T細胞を除去した場合にも、限定的ながらも肝障害増悪の消失が認められ、CD8+T細胞はCD4+T細胞からの刺激を受けて活性化していると考えられました。そこで次に、事前投与を行ったマウスより、脾臓初代培養細胞を調製し、抗原刺激した際の培養上清中のサイトカイン量を測定しました。その結果、コントロール群と比較して、非晶質ナノシリカを事前曝露した群において、IFN-γ量が増加したことから、肝障害の増悪にIFN-γが中心的な役割を果たしていることが示唆されました。従って、非晶質ナノシリカの事前曝露により獲得免疫が成立した後、再曝露時にCD4+T細胞が産生するIFN-γによって活性化したCD8+T細胞が、肝細胞を傷害しているものと考えています。

 本知見は、事前にナノマテリアルを曝露することで、急性期の応答がより増悪することを示唆するものです。すなわち、ナノマテリアルを事前に複数回曝露することで、NOAEL(無毒性量)の低用量側への遷移といった深刻な影響を引き起こす可能性も否定できません。従って、使用が拡大の一途を辿っているナノマテリアル市場を鑑みると、これまでの単回曝露による急性期に着目した安全性評価のみならず、複数回曝露を想定した獲得免疫系に着目した検討、ならびに、安全にナノマテリアルを利用促進していく方針の策定が重要味を帯びてくるものと考えています。今後は、獲得免疫系を介した肝障害の増悪機序の解明を進めていくと共に、免疫系に異物として認識されないながらも有用性を損なわない、ナノマテリアルの最適デザインに資する情報収集を進めていく予定です。本研究が、持続的なナノマテリアルの利用に資するだけでなく、免疫毒性学の進展にも寄与する研究となるように、今後も尽力して参ります。

 今回の発表が、本学会での初めての発表になりますが、多くの先生方からご指導・ご助言を賜ることができ、今後の研究方針を客観的に見直し、見定めることができる有意義な機会となりました。今後は、今回の受賞を励みに、免疫毒性学領域に貢献できる研究を鋭意推進して参りたいと考えています。免疫毒性学会の先生方には、今後ともご指導・ご鞭撻を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

 最後に、本研究を推進するにあたり、終始温かいご指導・ご鞭撻を賜りました当研究室の堤 康央教授をはじめとする先生方、研究活動・私生活における良き仲間である毒性学分野の学生一同、特に本研究を遂行するにあたり多大なご協力を頂きました佐藤建太学士、越田 葵特別実習生に深謝いたします。

衛藤舜一先生
衛藤舜一先生