ImmunoTox Letter

第23回学術年会学生・若手優秀発表賞
HLA遺伝子導入マウス由来ケラチノサイトを用いた特異体質薬物毒性メカニズムの解析

藤森 惣太
千葉大学大学院 薬学研究院 生物薬剤学研究室

藤森惣太さん
藤森惣太さん

 この度、第23回日本免疫毒性学会学術大会において学生若手優秀賞を賜り、誠に有難うございます。審査委員の先生方に心より御礼申し上げますと共に、日頃よりご指導いただいております諸先生方にこの場をお借りして御礼申し上げます。拙文ではございますが、受賞を頂きました研究の内容に関しましてご紹介させていただきます。

 医薬品の安全性を考えるうえで、販売後に発覚することの多い特異体質薬物毒性の前臨床における予測は、医薬品の研究開発における重要な課題であるといえます。近年ゲノムワイド解析の発達により、ある種の特異体質薬物毒性の発症とヒト白血球抗原(HLA)の遺伝子多型との関連が数多く報告され、先達の先生方の研究によりHLAによる薬物抗原の提示が毒性発症の原因となることが解明されました。しかし、この種の毒性の発症リスクを適切に評価できる系は存在していないのが現状です。私は、評価系が確立されない理由として、この種の毒性の詳細なメカニズムが不明である点が挙げられると考えました。

 「特定多型HLAを発現した抗原提示細胞とT細胞を原因薬物存在下で共培養すると、薬物抗原特異的なT細胞応答が生じる」という現象は過去に多く示されており、これが毒性の直接的なメカニズムとなります。しかし、この応答は全身性で生じうる一方、特定多型HLAの関与する特異体質薬物毒性は組織特異的に発症することが知られております。そこで私は、「発症組織における特異的な原因薬物への応答が、組織特異的なT細胞応答ひいては組織特異的な毒性を生じさせる」という仮説の元、研究を進めることといたしました。

 私が研究対象とするHLA-B*57:01多型がリスク因子となるアバカビル薬剤性過敏症は皮膚症状が多く報告されております。皮膚表皮の組織構成細胞であるケラチノサイトは免疫応答能が高く、皮膚免疫に強く関与することから、このケラチノサイトのアバカビルに対する応答が皮膚選択的なT細胞応答を惹起するのではないか、という仮説を立てました。その上で、当研究室で作製したHLA-B*57:01トランスジェニックマウス(B*57:01-Tg)及び、アバカビル抗原を提示しない多型であるHLA-B*57:03トランスジェニックマウス(B*57:03-Tg)由来のケラチノサイトを初代培養し、アバカビルに対する免疫応答を評価しました。

 アバカビルの曝露によりB*57:01-Tg由来ケラチノサイト(B*57:01 KC)特異的に活性化マーカー(KRT16)及び、IFN-γ, IL-1β等のサイトカインのmRNAの発現上昇が確認されました。また、この細胞においてHLA多型特異的にHLA-B*57:01の細胞膜発現量の上昇が確認され、さらに、この応答はアバカビルと同様の逆転写阻害型の抗HIV薬のジドブジンにおいては確認されなかったことから、B*57:01 KCにおいてHLA多型特異的な免疫応答が生じたことが示唆されました。

 これらの応答が組織内で生じた場合、樹状細胞を中心とする免疫担当細胞の機能を亢進させる可能性は大いにあると考えられます。今後はin vitroにおけるケラチノサイトと樹状細胞の共培養実験やin vivo実験を通し、これら細胞のインタラクションを解析する予定であります。また、組織構成細胞の薬物に対するHLA多型特異的な免疫応答は、過去にあまり例のない現象であるため、メカニズムを明らかにしたいと考えております。

 私は修士課程一年の身であり、本学会での発表が初めての口頭発表でありましたが、このような身に余る賞を賜り、大変光栄に存じます。今回の受賞を機に、医薬品の安全な使用に少しでも貢献できるよう、より一層精進し研究に取り込んでゆく所存でございます。最後になりますが、本研究に取り組むにあたり、ご指導頂いております、伊藤晃成教授、関根秀一講師、青木重樹助教、そして本学会においてご指導いただいた諸先生方に厚く御礼を申しあげると共に、今後ともご指導・ご鞭撻を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。