ImmunoTox Letter

第23回学術年会学生・若手優秀発表賞
キメラ型HLA遺伝子導入マウスを用いた免疫の関与する特異体質薬物毒性評価モデルの構築

薄田 健史
千葉大学大学院 薬学研究院 生物薬剤学研究室

薄田健史さん
薄田健史さん

 この度、第23回日本免疫毒性学会学術年会において、栄誉ある若手優秀賞に選出されたこと、大変光栄に存じます。選考委員の先生方に、心より御礼を申し上げます。

 私が所属している生物薬剤学研究室では、医薬品やその候補化合物の体内動態と有害作用について研究をしております。研究室配属当初は、薬物性肝障害のメカニズム解明やスクリーニング法に関する研究がトレンドとなっており、「免疫」というワードは一言たりも出てこないような雰囲気だったと記憶しております。私自身も、学部3年次から修士時代を経て博士課程1年次までは「薬物性肝障害リスク薬物を網羅的に判定可能なin vitro 毒性試験系の構築」という研究課題が与えられ、薬物とトランスポーターの相互作用に伴う毒性発症メカニズムの解明や、より高精度な毒性発症予測法の構築に関する研究に従事しておりました。そんな中、転機が訪れたのが博士課程2年次に進級する年の1月1週目、上述の研究内容が国際学術誌にアクセプトされ、「さて次は何をしよう?」と思案していた時期でした。私は本学博士課程教育リーディングプログラムである「免疫システム調節治療学推進リーダー養成プログラム」に博士課程1年次から所属していた縁もあって、「免疫」が関与する特異体質薬物毒性について興味が湧いておりました。そして幸運なことに、今回発表した研究課題に従事する機会をいただくことができました。

 上記の経緯の通り、免疫学に足を踏み入れてからまだ1年足らずの新参者でしたので、今回が初めての免疫関連の学術学会への参加となりました。どのような質疑応答が展開されるか全く予想できずに戸惑うことがばかりでしたが、有益な御指導・御助言を多くの先生方より賜ることができ、今後の研究の進行に関する方向性を見定めることができる有意義な機会となりました。恐縮ながらもこのような栄えある賞をいただくことができ、益々研鑽しなければと身が引き締まる思いです。
 それでは拙文ながら、受賞を頂きました研究内容に関しましてご紹介させていただきます。

 本研究は、マウス体内で機能しうるヒト白血球抗原 (HLA) 遺伝子を導入したマウス(キメラ型HLAトランスジェニック(Tg)マウス)を作出し、薬物とHLA遺伝子との相互作用により免疫応答が惹起され発症する特異体質薬物毒性を評価可能か検証したものです。これまで、特異体質薬物毒性の発症リスクにHLA多型が関係することはゲノムワイド関連解析より示唆されていましたが、特定の薬物・組織で毒性が発現する詳細なメカニズムについては未だ不明でありました。そこで本研究では、抗HIV薬であるアバカビルとHLA-B*57:01遺伝子との相互作用により免疫応答が惹起され発症する「特異体質性のアバカビル過敏症(皮膚毒性)」に焦点を当て、作出したTgマウスにアバカビルを曝露した後の免疫応答を評価しました。その結果、HLA-B*57:01遺伝子を導入したTgマウスにおいて、アバカビルの曝露によってリンパ節重量の増加やリンパ球の増殖といった免疫反応の亢進が認められました。その一方で、リッターメイト野生型マウスやHLA-B*57:03遺伝子(2アミノ酸のみ異なる陰性対照)を導入したTgマウスにおいては、アバカビルの曝露による免疫応答は認められませんでした。これらの結果から、特異体質薬物毒性の評価において、本研究で用いたキメラ型HLA導入Tgマウスが有用となることが示唆されました。

 本評価モデルマウスは、特異体質薬物毒性を前向きに再現できることから、詳細な発症メカニズムの解明に応用可能となることが特徴です。さらに、導入したキメラ型HLAタンパク質がマウス全身に発現していると示唆されたことから、組織特異的な毒性発現の原因の究明にも繋がりうると期待しています。HLAの関与する特異体質毒性に関する研究は端緒についたばかりでありますが、本研究が種々のHLA多型分子における特異体質毒性評価に応用する上での試金石となれるよう、今後もより一層研究に励みたいと思います。

 最後に本研究を遂行するにあたり、終始御懇切なる御指導・御鞭撻賜りました当研究室の伊藤晃成 教授、青木重樹 助教、ならびに御協力いただいた藤森惣大さん、向後晃太郎さんをはじめとした学生の皆様にこの場を借りて深く御礼申し上げます。