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第22回学術年会学生・若手優秀発表賞

誘導型アジュバント、Hydroxypropyl-β-cyclodextrin(HP-β-CD)の粘膜アジュバントへの応用

日下部 峻斗
大阪大学大学院医学系研究科医学専攻博士課程4年・医薬基盤・健康・栄養研究所アジュバント開発プロジェクト 連携大学院生

日下部 峻斗
日下部 峻斗先生

この度、第22回日本免疫毒性学会学術大会において学生若手優秀賞を賜り、誠に有難うございます。審査委員の先生方に心より御礼申し上げますと共に、本学術学会での発表に際し、叱咤激励を賜りました諸先生方にこの場をお借りして御礼申し上げます。拙文ではございますが、受賞を頂きました研究内容に関しましてご紹介させていただきます。

経鼻型ワクチンは針を用いないワクチンであり、高い防御効果(交叉防御)が期待できる分泌型IgA抗体を誘導することから現在注目されているワクチンであります。既に欧米では弱毒生ウイルスを用いた経鼻インフルエンザワクチンが開発され接種が行われておりますが、生ワクチンであるため、より安全なワクチンとして組み換え分子やリコンビナントで構成された不活化経鼻ワクチンの開発が試みられております。しかし、このような成分ワクチンは少ない抗原量で高い抗体価の得るためにアジュバントとの組み合わせが必須であります。これまでに様々なタイプのアジュバントが開発されておりますが、実際に臨床の場で使用されているものはわずかで、粘膜アジュバントに限ると現在臨床応用されているものは未だありません。近年、私たちの研究室で水溶性アジュバントとして、2-ハイドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)を見出しました。このHP-β-CDはすでに医薬品の溶解剤や安定化剤として注射剤にも用いられており、安全性の高い物質であるといえます。そこで、私たちはHP-β-CDが新規粘膜アジュバント候補物質になりうるかを検討いたしました。すると、HP-β-CDは強いアジュバント活性を有し、皮下投与と同様に経鼻投与においても抗原特異的な抗体を誘導しました。またその効果は代表的な粘膜アジュバントであるコレラトキシンと比較してもほぼ同等程度で、全身性免疫だけでなく局所の免疫も誘導できることがわかりました。このHP-β-CDですが、投与部位において死細胞由来因子(DAMPs)と考えられるdsDNAが検出されることから、現在広く臨床で使用されているアルミニウム塩(アラム)やスクワレンなどと同様に一過的に接種部位に軽度の細胞死を誘導し、そのときに放出されるDAMPsによってアジュバント活性が誘導されると考えられます。最後に、より臨床に近い実験としてインフルエンザを抗原に用いました。その結果、インフルエンザHA抗原あるいは全粒子ワクチンにおいても、HP-β-CDを添加することで抗体価は上昇することが認められました。また、インフルエンザ感染実験においてもHP-β-CDをアジュバントとして使用することにより、感染後の生存率が有意に改善されました。以上のことから、HP-β-CDは粘膜アジュバントとして有望であると考えられます。現在は、詳細な免疫応答の作用機序やHP-β-CDの経鼻型インフルエンザワクチンアジュバントとしての有効性を検討し、実用化に向けた研究も行っております。まだまだ、課題が多い研究ではございますが、今後も研究に精進していく次第であります。また、普段は”負”のイメージである毒性のある物質もワクチン開発において適度な細胞傷害を引き起こすような物質は逆に良いアジュバントになりうる可能性を秘めております。今後も安全で効果的なアジュバントの開発に努めていきたいと考えております。

私は、本学術学会での初めての発表になりますが、このような身に余る立派な賞を受賞させていただき、喜びを感じるとともに、身の引き締まる思いであります。今後は、本賞を頂いたことを励みに、免疫毒性学の発展に貢献できるような研究に精進していきたいと思います。最後になりますが、本研究に取り組むにあたって、ご指導頂いております、医薬基盤・健康・栄養研究所アジュバント開発プロジェクト上席研究員 石井健先生、大阪大学免疫学フロンティア研究センターワクチン学准教授 黒田悦史先生をはじめとする先生方、研究生活における良き仲間である研究室の一同に深く感謝いたします。また、免疫毒性学会の先生方にも改めて感謝申し上げます。皆様今後とも何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申しあげます。

 
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