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学生若手優秀賞
ヒスタミンH4受容体拮抗薬JNJ7777120のアトピー性皮膚炎に及ぼす作用
諏訪映里子、山浦 克典、上野 光一
(千葉大学大学院薬学研究院高齢者薬剤学研究室)

背景
 ヒスタミンはヒトにおいて最も重要な起痒物質の1 つであり、その受容体にはH1〜H4の4 つのサブタイプの存在が知られている。H4受容体(H4R)は2000年に新規同定された受容体であり、胸腺や脾臓などの免疫組織での発現が多く、またTリンパ球、樹状細胞、単球、マスト細胞、好中球などの免疫系細胞においても発現が認められている。その機能については未だ不明な点が多いが、近年、喘息や掻痒性疾患などの免疫・炎症性疾患へのH4受容体の関与が明らかにされつつある。そのような中、H4受容体拮抗薬が掻痒性疾患モデルに有効性を示すことが報告されており、我々もヒスタミン及びサブスタンスP誘発掻痒において、H4受容体拮抗薬が有効性を示したことを報告している1)。これらの研究から、H4受容体は特に抗炎症薬、抗アレルギー薬、抗掻痒薬の標的分子として期待が持たれている。一方で、現在繁用されている抗ヒスタミン薬は、H1受容体(H1R)拮抗薬であるが、急性蕁麻疹以外の多くの慢性掻痒性皮膚疾患の痒みに対して、奏効率が低いとされている。また、アトピー性皮膚炎患者の治療薬としては、現在主に各種合成ステロイド及びタクロリムス等の外用薬が使用されている。しかし、長期に渡るステロイドの使用は、感染症や副腎皮質機能抑制、眼合併症、リバウンド現象などの副作用が、タクロリムスは感染症や発がん作用などの重篤な副作用が懸念されるため、いずれも安全性の面で問題を抱えている。

 そこで、有効な鎮痒薬の開発が急務となっている本疾患における、H4受容体拮抗薬の有効性を明らかにすることを目的として、モデルマウスを作成し、検討を実施した。

方法
 雌性ヘアレスマウス(Hos:HR-1)背部に、ハプテンである2, 4, 6-Trinitro-1-chrolobenzene(TNCB)溶液を週3 回8 週間にわたり塗布し、Th2タイプの慢性皮膚炎とそれに伴う掻痒を惹起した。その後、TNCB反復塗布と並行して、各薬物を5 週間にわたり連日経口投与し、有効性の検討を行った。薬物としては、H4受容体拮抗薬としてJNJ7777120(10 and 30 mg/kg)、H1受容体拮抗薬としてfexofenadine(60 mg/kg)、またステロイド系抗炎症薬としてdexamethasone(3 mg/kg)を用いた。掻痒の抑制の有無については、マウス後肢による掻破行動を、MicroAct(ニューロサイエンス)を用いて測定・定量化し、「痒み」の指標として用いた。皮膚炎については、4項目の評価基準(浮腫、発赤・出血、擦傷・組織欠損、痂皮形成・乾燥)について4 段階の評点化を行い、総計を皮膚炎スコアとした。また、血清IgEレベルの測定をELISA法にて行い、試験終了時に皮膚を採取し、各種染色、マスト細胞数のカウント、RT-PCR法によるmRNA発現の検討を行った。臓器重量測定は、犠殺したマウスより脾臓および胸腺を採取し、体重で除して評価した。

結果・考察
 TNCBの反復塗布により、経日的に掻破行動並びに皮膚炎スコアの増加が認められた。ハプテンの反復塗布モデルにおいては、慢性掻痒を伴う皮膚炎の他に、血清IgEの上昇、Th2サイトカインの上昇、マスト細胞数の増加など、ヒトにおけるアトピー性皮膚炎急性期の特徴を示すモデルを作成することができるとされている。モデルの完成後、これらの評価項目も加えて、薬物の抗掻痒・抗炎症作用の検討を行った。

 JNJ7777120(30 mg/kg)及びdexamethasoneは、掻破行動に対して、連日投与により有意な抑制作用を示した。一方で、fexofenadineは抑制作用を示さなかった。皮膚炎スコアについては、JNJ7777120(10 and 30 mg/kg)投与群において改善作用が見られたが、dexamethasone及びfexofenadine投与群においては改善作用が見られなかった。NCB塗布による血清IgEレベルの上昇は、各薬物の連日経口投与により抑制された。また、Th2サイトカインであるIL-4 mRNA発現の増加は、JNJ7777120(30 mg/kg)およびdexamethasone投与群において、減少傾向が認められた。マウス皮膚内のマスト細胞数の有意な増加は、JNJ7777120(30 mg/kg)投与により有意に抑制された。これまで、皮膚炎モデルを用いた複数の文献において、H4受容体拮抗薬がIL-4やIL-6などのTh2サイトカインを抑制し、IFN-γなどのTh1サイトカインは抑制しないこと、H4受容体作用薬はTh1誘導因子であるIL-12を抑制したことなどが報告されている。これらの報告から、H4受容体拮抗薬にはTh1/Th2バランスの調節機能を持つことが推測でき、今回の検討においても、JNJ7777120の連続投与によりTh2への局在化が抑制されたことが、皮膚炎症状の改善につながったと考えられる。また、dexamethasone投与群においては、脾臓や胸腺の重量減少といったステロイドによる免疫毒性と推測される影響が認められたが、JNJ7777120及びfexofenadine投与群においては、影響は見られなかった(表1 )。

表1   アトピー性皮膚炎様慢性掻痒モデルにおける各薬物の効果及び毒性発現

結論
 以上の結果より、H4受容体拮抗薬であるJNJ7777120は、Th2タイプのアトピー性皮膚炎モデルにおいて、抗掻痒効果と皮膚炎改善効果を示し、その効力は、H1受容体拮抗薬fexofenadine及びステロイド系抗炎症薬dexamethasoneと比較し強力だった。実際のアトピー性皮膚炎患者の病態は複雑であり、マウスモデルに見られる単純なTh1/Th2コンセプトのみで説明できるものではなく、さらなる研究が必要となるが、アトピー性皮膚炎の新たな治療薬としてのH4受容体拮抗薬の有用性が示唆された2)

謝辞
 本研究発表が、第18回日本免疫毒性学会学術大会学生・若手優秀発表賞に選ばれたことを、大変光栄に思います。今回初めて本学会に参加させて頂きましたが、本研究に
対して様々なご助言を頂きました諸先生方に心より感謝いたします。また、H4受容体拮抗薬JNJ7777120をご供与下さいましたヤンセンファーマ株式会社、及び掻痒測定装置MicroActをご貸与下さいました帝人ファーマ株式会社に心より御礼申し上げます。

1 )Yamaura K, Oda M, Suwa E, Suzuki M, Sato H, Ueno K. J Toxicol Sci. 34: 427-431 (2009)
2 )Suwa E, Yamaura K, Oda M, Namiki T, Ueno K. Eur J Pharmacol. 667:383-388 (2011)
 
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