ImmunoTox Letter

第23回日本免疫毒性学会学術年会報告

森本 泰夫
産業医科大学

 皆様、このたびは、台風の直撃にもかかわらず、第23回日本免疫毒性学会学術年会のご参加いただきありがとうございました。無事、成功裏に終了し、皆様のご協力 心から御礼申し上げます。簡単に報告させていただきます。平成28年9月5日(月)から7日(水)にかけて北九州市の国際会議場で開催しました。なお、過去22回開催されておりますが、今回が初めての九州開催でした。学術年会のテーマは、“社会に実践する免疫毒性学”としました。従来のテーマのように新たな研究分野の開拓とは異なり、実社会での有用性に根差したテーマを選びました。

 まず、年会に先立って9月5日に市民公開講座を行うことを企画しました。公開講座のテーマは、低炭素社会の実現に向けた試みとして、「工業用ナノ材料の有害性評価手法の開発」としました。これは、経済産業省のプロジェクトとして行われており、幅広い特性により様々な用途に使用されることが期待されている工業用ナノ材料の有害性評価として比較的簡易に行えるスクリーニング検査手法として気管内注入法が有用であることを報告しました。この試験法は、社会において実践性を有する試験であることが示唆されました。

 また、シンポジウムのテーマも本学会テーマに即した、「社会還元や社会実践を目指した微細粒子の生体影響評価等の研究」としました。医薬基盤・健康・栄養研究所の水口賢司先生から「データベース、バイオインフォマティクスから呼吸器疾患へ」、川崎医科大学の西村泰光先生から「アスベスト曝露と悪性中皮腫に関わる免疫学的特徴の解析とスクリーニングデバイスの開発」、大阪大学の黒田悦史先生から「微細粒子による肺の炎症とアレルギー」、産業医科大学の和泉弘人先生から「工業用ナノ材料の有害性スクリーニング法の開発:気管内注入試験」と題したタイトルで講演し、これらの研究成果がどのように社会還元するか、または社会還元につながるかも提示していただきました。

 特別講演では、Burleson Research Technologies. Inc.のDr. Victor J. Johnsonが「Inhaled Nanoparticles: Consequences of Exposure and Approaches for Hazard Identification」と題したタイトルで、吸入性ナノ粒子の免疫毒性モデル、有害性特定のアプローチなどを講演しました。カーボンナノチューブや金属ナノ粒子を用いた吸入ばく露試験や気管内注入試験を行い、肺や脾臓における免疫毒性の報告を自験例を中心に講演しました。

 教育講演に関しては、産業医科大学第1内科 齋藤和義先生から「膠原病における免疫抑制剤の副作用(易感染性・腫瘍形成)とその機序」、産業医科大学呼吸器内科 矢寺和博先生から「薬剤性肺障害とその機序」について実臨床での課題などを中心に、産業医科大学成人老年看護学 佐藤実先生から「アジュバンドによる自己免疫」について動物モデルや臨床報告など講演されました。

 試験法ワークショップに関しては、あすか製薬株式会社の久田茂先生のご尽力で「有害性転帰経路(AOP)と免疫毒性」を企画し、国立医薬品食品衛生研究所の小島肇先生、東北大学皮膚科学分野の木村裕先生、第一三共株式会社の伊藤志保先生、アステラス製薬株式会社の串間清司先生からAOPの概念、事例、作成の留意点などの講演をし、AOPを免疫毒性の視点でどのように展開するかを示していただきました。

 学会賞は、残留農薬研究所 試験事業部の小坂忠司先生が受賞し、「農薬の免疫毒性作用」というタイトルで講演しました。有機塩素系やリン酸系農薬が、次世代への影響を及ぼすこと、呼吸器アレルギーモデルやアトピー性皮膚炎モデルを介してアレルギー反応の増悪化をみいだし、農薬の様々な免疫への影響が示唆されました。奨励賞は、北海道立衛生研究所生活科学部の小島弘幸先生が受賞し、「環境化学物質による核内受容体を介した免疫毒性作用」というタイトルで、IL-17の制御に係わる核内受容体の関与を講演しました。

 口頭発表、ポスター発表も活発な質疑応答があり、大いに盛り上がりました。口頭発表は、10演題、学生・若手発表 2演題、ポスター発表 14演題でした。この学生・若手発表の2演題は、口頭とポスターの両方で発表し、学生・若手優秀発表賞の選考、それ以外の発表から年会賞を選考しました。年会賞は、産業医科大学医学部免疫学・寄生虫学の吉田安宏先生、学生・若手優秀発表賞は、千葉大学大学院薬学研究院 生物製剤学研究室の薄田健史さん、藤森惣太さんが受賞しました。

 今回は会員からのリクエストであった市民公開講座の開催と無料の無線LAN(FreeWi-Fi)の使用にも対応させていただきました。特に無料の無線LANに関して、ご利用している会員が多く見受けられました。

 懇親会は、6日夜に近隣のレストランで行い、洋食を中心にバラエティのある料理を用意させていただきました。会場では、会話も弾み、楽しんでいただけたのではないかと感じております。また、学会参加者の懇親会参加率が非常に高いことにも驚きました。

 3日間、特に大きな問題も生じること無く、比較的順調に進行したことに安堵しております。これも、関連する法人、企業、個人の方々、そしてご参加いただいた多くの方々のご支援・ご協力の賜であります。この紙面をかりてお借りして、厚く御礼申し上げます。さらに、今後の学会及び学術年会の進展を祈念して私のお礼の言葉に代えさせて頂きます。