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第13回日本免疫毒性学会学術大会(JSIT2006) 報告書
大槻剛巳(年会長、川崎医科大学 衛生学)

 2006年の夏は、長雨・豪雨の7月、一転猛暑の8月を経て、異常気象の「異常」が「通常」かとも想われるような日々で過ぎて行き、また9月に入ってからは、停滞する秋雨前線の影響で、山陽路も降り続く雨でした。今年度の学会を仰せ付かった身と致しましては、遠路お越しいただく会員の皆様へのご不便を鑑み、非常に心配しておりました。しかし、会員諸氏のなんと日頃の行いの素晴らしいことか、大会当日は、爽やかな晴れ間と青い空が覘き、地域も天候も皆様への歓迎の気持ちを表しているかのようでした。
 平成18年9月14日(木)と15日(金)の2日間に亘りまして、第13回日本免疫毒性学会学術大会は倉敷市芸文館ホールにて開催させていただき、滞りなく終了することが出来ました。偏に会員の皆様の多大なご協力の賜物と感謝しております。加えて、協賛してくださいました日本衛生学会・日本薬学会・日本毒性病理学会・日本トキシコロジー学会、学術集会開催に助成をしてくださいました八雲環境科学振興財団・川崎医学医療福祉学振興会・岡山医学振興会、さらに講演要旨集に記載させていただきました賛助企業の諸団体には、多大なご支援を頂戴いたしました。ここに改めて深甚なる感謝の意を表させていただきます。

 さて、今回は第13回目、昨年度大沢年会長の下に東京で行われました際には第12回ということで一巡という意味合いから、これまでの免疫毒性研究を確認し新たな研究展開へのステップアップを期する会という設定をされてらっしゃいました。今回は、その潮流を踏まえながら、学会自体の運営委員会あるいは学術大会の実行委員会にて企画を検討する中で「テーマ」の掲示を申し付かり、「病態形成と免疫毒性」とさせていただきました。これは、私自身が元来内科医で、種々の疾病に苦しまれる方々を診てきたこと、その中で、血液領域を選び専門として診療研究をしてきていたのですが、その際に、いろいろな
偶然が重なって多発性骨髄腫という形質細胞の腫瘍化と考えられる疾患とその腫瘍細胞の細胞生物学的研究に従事していたこと、B細胞系とはいえ、免疫病態にも深くかかわる細胞の疾病であったので、免疫というキーワードが日々の研鑽の中で重さをましていたのでした。その後、これも紆余曲折はありましたが、現在の川崎医科大学衛生学に所属させていただき、本学会の理事もお勤めになられていらした植木絢子教授の下で、珪酸やアスベストの免疫影響を観察するにつけ、内科医時代に想定もしていなかったいろんな病態の影に多くの免疫異常〜あるいはそれが生活や職場の環境中の物質であるならば、謂わば「免疫毒性」と捉えても構わないような影響が、多く認められることに、驚愕もし、また、興味を惹かれて現在に至っている次第であることに拠ります。
 日本免疫毒性学会は、私たちのように環境からの免疫毒性研究を主体に係っている領域の方々と、新規薬剤を中心に化学物質等の免疫毒性を検討されていらっしゃる方々、あるいは、病態の中に潜む免疫異常の解明に邁進されていらっしゃる方々が一同に介してその理解を深め、それぞれの知見を検討する会となっているように感じております。ある意味で裾野の広い領域をカバーしておりますので、今回も昨年度を踏襲し、基調講演という形でその年度の学術大会の色合いを紹介できる企画をすることも一つのナビゲーションになって良いのではと考え企画もさせていただきました。その中では、植木教授の頃から教室をあげて取り組んできました珪酸・アスベストのヒト免疫系に対する影響の概略を紹介することで、「病態形成と免疫毒性」の検討に関する一つのアプローチを提示させていただきました。

 学術大会全体の企画としましては、今回は第48回日本産業衛生学会「アレルギー・免疫毒性研究会」との同時開催も行うことになっておりましたので、第1日目の午後に特別講演2題、招聘講演2題を集めて、この同時開催プログラムとさせていただきました。それ以外に、特別講演3を第2日目の午後に、そして、シンポジウム、ワークショップを其々第2日目の午前、午後に設けさせていただきました。加えて、両日ともにランチョンセミナーの御協賛を得ることが出来、開かせていただきました。また、一般演題も口演とポスターでの御発表とさせていただきました。第1日目には総会も催しました。

 参加者は、全体で約160名、加えてスタッフよりの参加が約10名、更に同時開催プログラムにも30名弱の方の参加を頂きました。また、非会員の参加者も54名でした。昨年度のご報告にもありましたが、非会員の方が今回も50余名参加してくださったことは、嬉しいことであり、このようなご参加の方々が今後会員として活動くだされば、本学会の将来構想のためにも良い兆候ではないかと感じました。

 特別講演1は、米国コロラド大学のNewman教授にベリリウム肺の免疫毒性と題してご講演いただきました。ベリリウム肺は昨今ではハイテク工場や宇宙工学のような現場でも使用されている金属でありますが、肺に肉芽腫様病変を形成することが知られております。Newman 教授のご講演では、免疫担当細胞とベリリウムの接点を分子免疫学的視点から解説され、非常に示唆に富む内容を紹介していただけました。特別講演2は、米国ミネソタ大学のRegal教授によります化学物質起因性肺アレルギーのモデルとその発症機序ということで、実験的なモデルと網羅的な遺伝子解析を取り混ぜて、種々のアレルゲン其々の検討の重要性と、また、おそらくいくつかのキーとなる遺伝子が存在することを説明されました。更に特別講演3では、カナダのチャールスリバー社研究所のKhalil博士による治療薬と免疫系の相互作用についてのご講演で、薬理作用、免疫毒性、そして免疫遺伝学的解析をサルの実験モデルの紹介も加えて、ご報告いただきました。
 招聘講演1は、国立環境研の高野博士(環境研究領域・領域長)によります炎症と環境因子の総説であり、これも昨今問題となっています肺や気道を中心としたアレルギー疾患とアレルギー性炎症とディーゼル排ガスなどの環境因子の相互作用、あるいはナノ粒子の影響までも言及してくださり、肺における免疫病態の重要性を改めて認識させられる内容でした。そして、招聘講演2では、北里大学坂部教授によりますシックハウス症候群の最新動向のご講演で臨床から心理面、脳科学や遺伝子解析まで含めた広汎な内容を分かりやすくご説明いただきました。

 シンポジウムでは、繊維状・粒子状物質研究と免疫毒性と題して4名の演者の先生に、繊維状物質の有害性評価について、アスベストのNK細胞への影響について、ナノ粒子の肺組織透過性について、そして、もう一方は、ナノ粒子の医療応用面からの話題提供ということでDrug Delivery Systemとしてのナノ粒子について、それぞれ精度の高い実験研究の結果をご提示いただくことで内容の濃厚なご発表いただき、活発な討論がなされました。また、ワークショップでは、医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインが今年制定されたことによるその進め方と試験法について専門の先生方からの実践的なご発表と、ここでもオランダからPennninks博士に来ていただいて、欧州の動向のご紹介もしていただきました。非常に現実に向き合った内容で日々の研究でこのテーマに携わる研究者には、有用な内容であったばかりでなく、環境中物質の健康影響を検討するにも、基盤は同じものと考えられるため、すべての参加者に感銘を与える企画となりました。
 更に、ランチョンセミナーも2日間、海外からの演者を招いて1日目はチャールスリバー社のJacob博士に免疫毒性の評価について、2日目はハンティンドン社のWing博士にサイトカインやモノクローナル抗体に関連する講演を頂戴しました。

 一般演題については口演16題、ポスター13題の応募を頂きました。会員の皆様の熱意が伝わってくる演題数でもあり、そのためにポスターセッションは、2セッションに分けて、同時進行とさせていただかざるを得ず、ご参加の皆様にはご迷惑をお掛けしたと存じます。深謝いたします。それぞれの演題は、その発想も内容も素晴らしいもので、また、発表後の質疑応答も全く活発なものがあり、本学会の伝統である個々の演題についてお互いが真摯に向き合って納得が行くまで討議を深めるという姿勢を今回も充分に継承できたのではないかと思っております。今回、スタッフとして参加いただきました上、発表にも応募してくださった川崎医科大学の私共とは別の教室の先生が、「なんとこの学会は真面目な学会か!進行セッション以外の場所には参加者は全く居ないし、質疑応答もゼミのように熱を帯びて活発である!」と感心されてらっしゃいました。

 また、今年度も年会賞・奨励賞ともに演題投稿時に演者より応募の意志を確認させていただいて13題の応募を頂きました。厳正なる一次審査、二次審査を経て、今年度は以下のように決定いたしました。

年会賞: 辻川和丈先生
(大阪大学大学院薬学研究科細胞生理分野)
演題名: 神経ペプチドCGRPのRAMP1/CL受容体を介した樹状細胞機能制御
奨励賞: 浜野宝子先生
(三菱ウェルファーマ株式会社創薬研究本部安全性研究所)
演題名: 薬剤によるアナフィラキシー様反応のインビトロ予測系
 
 おめでとうございます。学術大会最後のプログラムとして授与式を行わせていただきました。両受賞の先生には、その活力を本学会の発展のためにも如何なく奮っていただきたく思いますし、本ImmunoTox Letterへの受賞内容紹介や、次年度の御発表もお願いして行くことになると思いますが、宜しくお願いいたします。

 総会は第1日目の午後最初に行いました。事務報告もあるとは思いますが、各種委員会からの報告、会計等に関する審議が行われました。会計に関する変更点に関しての討議、そして、ホームページやメーリングリストの利用などの含めた将来構想については、多くの時間を割いて活発な議論がなされたこと、ここに記載しておきたく思います。

 昨年度は、編集委員会から、その年度の学術大会及び学会全体についてのアンケートが設置され、多いとは云えないまでも回答が得られ、本ImmunoTox Letterでも紹介されました。今回も同様のアンケートを記名台に置かせていただき、ご参加の皆様にご回答いただきました。2年目となったためか、多くの回答も寄せられ、これはまた編集委員会や運営委員会での検討の上で、会員の皆様へのご報告がなされるとは存じます。勿論、このようなアンケートに寄せられた意見を、即時に、次の学術大会へ反映させるということは、大会の準備期間を考えるとなかなか難しい面もあるかと想われますが、それでも、学会の運営や学術大会の企画などについても、大いに参考とさせていただけるご意見もあったかと思われます。オープンな形での学会運営という意味合いも含めまして、アンケートにご回答くださいました参加者の皆様には深謝いたします。尚、今回の学術大会については、概ね温かいご意見を頂戴いたしたように(欲目でしょうが)読ませていただきました。「産業衛生的な内容が多すぎた」というご意見につきましては、本報告の冒頭でも記させていただきましたように「病態形成と免疫毒性」というテーマ設定の中で、どうしても環境や作業現場に在る物質からの免疫毒性という観点がクローズアップされたのかも知れません。それは、年度毎にそれでも主催する年会長の研究に携わる姿勢というか色合いが出てしまうものでもあろうかと存じますので、ご容赦いただければと思います。それぞれの学術大会の色合いが3年分、5年分積み重ねられることで、学会全体の方向性や潮流が、改めてそこで見えてくるものではないかとも思っております。それと「スケジュールが少々タイトすぎた」「2日目は17時過ぎには終了してほしい」というご意見は、本当に済みませんでした。今回、企画を欲張った訳でもなかったのですが、準備の経緯の中で、企画自体が自発的な印象でそれぞれが膨れ上がる様相を呈するようになってしまいました。一般口演の間の休憩も5分とか、確かに、最終も18時を過ぎるということになってしまいました。特に関東を初め遠方にお帰りの参加者の方々には交通機関の面で、最後まで残れなかったとのお話も聞かせていただきました。これも企画運営の不手際でしかありません。深くお詫び申し上げます。

 さて、会場でありました倉敷市芸文館は、倉敷の観光名所であり大原美術館などもあります「美観地区」に隣接した位置にありました。タイトなスケジュールと真面目な学術大会へのご参加で、宿泊先から会場へ来られる際くらいにしか美観地区を堪能していただけなかったかも知れません。済みませんでした。その替わりと申しますと少しおかしなニュアンスですが、懇親会はもう一つの倉敷観光名所であります「チボリ公園」内のアンデルセン・ホールで行うことにさせていただきました。1日目最後のプログラムから、それでも充分な移動時間を設けたつもりだったのですが、エントランスから公園の一番奥にありますアンデルセン・ホ−ルまでの道行きのみをお楽しみいただくくらいの時間しかなかったかも知れません。これも、もう少し配慮できればよかったのにと、反省しております。しかし、懇親会には非常に多くの方々が参加して下さいました。部屋の規模とかお食事の量の面でも、ご迷惑をお掛けいたしたかも知れませんでした。重ねてお詫びいたします。

 尚、今回は学術大会をお引き受けするにあたって、少し「手作り感」を出したいと思いました。そこでポスターや要旨集の表紙、会場内のセッション外の時間のプログラム案内スライドなどに、結構、我儘なデザインや写真を使わせていただいたりしました。そして、この我儘放題のとどめとして、懇親会では自作自演による主題歌披露という暴挙をさせていただきました。偶々、外国からのお客様も6名来られることにもなっておりましたし、英語の歌詞として、昔の杵柄を埃を叩いて持ち出してきて作詞作曲、今回、発表もしてくださった川崎医科大学生化学教室の岡本先生ご夫妻がViolinの名手であるお話を聞いていましたので、初めてViolin譜を書いて・・・実際には、8月下旬に1回、9月初旬に1回、そして当日というタイトなスケジュールだったのですが、名手のご夫妻のお力でなんとか拍手をいただけるような主題歌披露になりました。お恥ずかしい限りでしたが、これも余興、少しでも記憶に残る学術大会になればという年会長としての想いとお感じになっていただいて、それでも聴いて頂けたと思っております。まことにありがとうございました。歌詞のみ此処に再掲させていただきたく思います。それでも免疫毒性研究に対する私の想いとお感じになられてお読みいただければ幸いです。

SONG FOR THE 13TH JSIT

This is a song for the 13th JSIT
We meet together to explore
The mechanisms underlying the occurrence
of immunotoxicity

This is a song for the 13th JSIT
We talk together to develop
The strategies to overcome the impairments
from immunotoxicity

All of us have the scientific minds
And with these forces we can open door
Let’s join and listen to the sounds of truth
We’ll see a novel world
    
With sincerity, with respect
And with honesty we believe in forever
 
 ちなみに、川崎医科大学衛生学教室のホームページ(URL:http://www.kawasaki-m.ac.jp/hygiene/、もしくは検索エンジンで「川崎医科大学衛生学」と入れていただけますとヒットするはずです)にアクセスしていただきますと、トップページの写真の上に「2006 JSIT」という箇所がクリックできるようになっております。クリックしていただきますと、今回の学術大会の様子をご紹介するサイトが開きます。スクロールして下の方に辿っていただけましたら、いくつかの写真があり、其々の写真をクリックしていただけますと、会場の様子やポスター発表の様子、あるいは懇親会のスナップにも辿り着ける(恥の上塗りで主題歌も見えて聴けるようにしております)様にしておりますので、是非、アクセスしていただけましたら幸いです。

 最後になりますが、本当に会員の皆様、参加してくださいました皆様には、不慣れなスタッフであったため、何かとご不便やご迷惑をお掛けいたしました。改めてここに陳謝いたします。その上で、滞りなく会を終えることが出来ましたのも、本当に皆様の日頃の免疫毒性研究に対する熱情の賜物と深く感謝いたします。本当にありがとうございました。
 以上、感謝を込めて、学術大会の報告とさせていただきました。ありがとうございました。
 
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