第8回日本免疫毒性学会学術大会報告


学術大会 会長 香山不二雄
2002; 7(1), 1-2

 平成13年度9月17日18日に,宇都宮市総合文化会館にて開催された第8回大会は,日本免疫毒性研究会が学会となって初めての学術大会であった。これまでの会員各位のご活躍とご支援とにより,免疫毒性学がImmunologyとToxicologyとの橋渡しをする学問として認知されて来た。近年のToxicologyの発展は主要なものは,免疫学,分子生物学の発展に基盤をおいている。この今後とImmunotoxicoloy分野の重要性は増しており,学会としてのさらなる活動の発展が期待される。

 また,第8回大会は,平成10年大阪で開催された第5回大会と同様に,産業衛生学会第38回アレルギー免疫毒性研究会と共催で行われた。研究領域の重なるアレルギー免疫毒性研究会と共に大会を開催することにより,さらに研究者の交流を深めこの分野の発展に繋がることを目指した。

 今回の学術大会の特徴は,「今世紀のバイオ食品,バイオ医薬品の展望」というテーマで開催した。時代の要請に応じてバイオ食品・医薬品の安全性に関してシンポジウムを行った。バイオ医薬品使用の歴史はすでにかなりあるが,近年,遺伝子組換え技術を食品に応用され,バイオ食品の問題点に関して議論が盛んになされている。

 学術大会初日には,導入遺伝子の蛋白に対するアレルギーの危険性に関して,CodexおよびOECDで日本政府代表をしている(独)食品総合研究所,一色賢治先生から,安全性評価の国際的取り決めに関して詳しく情報を得ることができた。また,千葉大学医学部 河野陽一教授からは,食物アレルギーの臨床に関して,特に診断基準や確定診断時のアナフィラキシーショックをいかに予防するかについて,詳しい報告があった。国立医薬品食品衛生研究所・機能生化学部,手島玲子室長からは,遺伝子導入食品の導入蛋白のアレルゲン性試験において,in vivoおよびin vitroでの抗体産生増強およびアレルギー増強作用に関して検討が行われたが,特に増強は見られなかったと報告があった。シンポジウムでは,今後,情報公開の重要性とポストマーケット・サーベイランスの難しさが話題となったが,アレルギー患者の血清の備蓄をしてスクリーニング調査をするなどいろいろな試案が議論された。

 また,特別講演では,オランダ Wageningen 大学研究センターのDr. Harry A.Kuiperから遺伝子組換え食品の安全性評価に関する戦略について,講演があった。米国など遺伝子組み換え食品に寛大な国とくらべ,EUの極めて受け入れにきびしい環境での,最新の研究の進展の状況を把握することができた。

 また,製薬協における医薬品の免疫毒性評価手順を検討するための共同研究に関して,例年通りワークショップを行った。今年は,膝窩リンパ節測定法による感作原性試験,フローサイトメトリーの利用,血液,病理学的所見と特異抗体産生能の相関に関して,投与期間の比較など多彩な共同研究の成果が発表された。

 会期は短期間でも内容は大変盛りだくさんであった。約150名の参加者であったが,もう少し多ければと感じられる会場の混み具合であった。

 最後に,日本免疫毒性学会の会員ならび幹事の皆様,寄附を頂いた関係諸団体に深謝の意を表し,拙文を終わりと致し,ご容赦頂きたい。


第8回日本免疫毒性学会学術大会報告

幹事 牧 栄二
2001; 6(2); 1

平成13年9月17,18日の両日,免疫毒性研究会から日本免疫毒性学会となって初めて開催される第8回学術大会が,香山不二雄(自治医科大)大会会長の運営により,栃木県総合文化センターにて,121名の参加者の下に,「今世紀のバイオ食品,バイオ医薬品の展望」をテーマに開催された。

今回の海外からの招待講演は,オランダよりWageningen University& Research Center のHarry A. Kuiper教授をお招きし,現在最も感心のある遺伝子組換え食品の安全性評価の方策について,それらの持ち合わせる抗原性の評価も含めご講演頂いた。

ご講演は,先ず諸外国における遺伝子組換え作物の安全性評価の法的規則の現況について報告があり,次いで新しく発現したタンパクの安全性評価,引いては全遺伝子組換え食物の安全性評価について言及され,更に遺伝子組換えによる意図しない作用の検出とその特徴,遺伝子組換え作物の抗原性の検出方法,最後に組換え植物のマーカー遺伝子のヒトや動物の消化管微生物への移入について考慮すべき点が述べられ,今後の検討課題も含めて意義のある講演であった。

シンポジウムは学術大会初日に「遺伝子組換え食品とアレルギー」と題して行われ,先ず組換え食品の安全性確保に関する国内外の規制当局の動きについて,事例を交え詳細な発表があり,食物アレルギーの臨床では,臨床症状の発現と食物摂取の関係について報告があり,食物アレルギーの治療における難しさと易しさが示された。

シンポジウムの最後は,遺伝子組換え食品のアレルゲン性試験について,その詳細が報告され,聴講者においては食品アレルギーの全貌が理解でき,得るところの多いセッションであったと思われる。

ワークショップは昨年と同じく「医薬品の免疫毒性評価手順を検討するための共同研究」と題して,製薬協における共同研究の成果が報告された。

最初は低分子化合物の抗原性試験としてマウス膝窩リンパ節試験についての報告があり,引き続き昨年病理・血液学的所見と免疫機能との関連性を調べ,医薬品の免疫毒性評価におけるそれぞれの試験の位置付けを行ったが,今年は得られている成績を再評価し,病理学的所見とフローサイトメトリー,血液・病理学的所見と特異抗体産生能,フローサイトメトリーと特異抗体産生能のそれぞれの相関性について報告され,更に被検物質の投与期間についての考察も行われた。

今回の製薬協における共同研究の成果は,今後の医薬品開発における免疫毒性試験法の検討に貴重な情報を提供し得るものと考える。

一般演題は21題の応募があり,いずれの演題においても活発な討議が行われ,当学会の趣旨に沿うものであった。


座長のまとめ

 今回は、第8回日本免疫毒性学会の一般講演について座長を務められた各先生にまとめと称して、免疫毒性学の問題点とこれからの展望の参考になるような点を含蓄したご意見をいただきましたので以下に紹介します。

座長:大槻剛巳(川崎医科大学)
OP 1-3
 本セッションは、薬剤免疫毒性評価における、抗原性、骨髄毒性、ならびにNK細胞活性の検討について、新規法の開発を試みた研究結果の報告であった。OP-1(日本ロシュ褐、究所 井上ら)では、従来、抗原性評価にかかる期間を短縮する、目的で、実験系における抗原提示細胞の機能を増強することへの検討が紹介された。目標としては、マウス樹状細胞をin vitro抗原性評価系において増殖・分化させ、抗原提示細胞として薬剤の抗原性評価において定常的に使用する系を確立することであり、今回の報告は、前段階としてのマウス樹状細胞の増殖に関するサイトカインの効果を検討したものであった。演者らはGM-CSF、IL-4、TNFα、IL-6、Flt-3 ligandを組み合わせて用いることにより、特にGM-CSFとTNFαによってIa陽性、CD40陽性の樹状細胞の増殖を得られたと報告した。骨髄細胞より誘導される樹状細胞は、ミエロイド系やリンホイド系、また形質細胞様などの区分があり、誘導するサイトカインもその別があるようで、目標に向けての条件設定には多くの課題もあるであろうが、今後の発展性を感じる報告であった。OP-2(塩野義製薬 永田ら)は、従来、形態学により細胞を分類し、薬物による骨髄毒性を検討していたものを、フローサイトメトリーを利用することにより、分化マーカーのみならず機能マーカーによる評価も加えての発表であった。演者らは塗抹標本観察に遜色ない結果を報告され、加えて、使用する抗体によっては、今後、一層の詳細な検討も可能になるように感じられ、更なる解析が望まれた。OP-3(塩野義製薬 金アら)ではNK細胞活性の測定において従来の51Cr標識からDiOC18色素による標識に変更することにより、ラジオアイソトープ不要の糸を確立し、同時にフローサイトメトリー解析で行うことにより、細胞数や細胞の生死の判別も併用できる利点を応用する試みが紹介された。本法の確立には、従来法との比較等の問題は残されているものの、限られた検体での最大限の情報を得られるための試みは大きく評価されるものと思われた。これら3題は、薬剤の免疫毒性評価の将来に向けて、迅速、正確、かつ精度高くまた応用範囲を拡げることを目標とした試行であり、将来への発展性が示唆されており、残された検討課題克服後の報告も期待したいものであった。

座長:野原恵子(国立環境研究所)
OP4-6
 ここではリンパ球幼若化反応を利用した環境化学物質の免疫毒性評価(OP-4 摂南大 坂崎ら)、SRBC免疫ラットの免疫グロブリン濃度及びリンパ系器官に対するindomethacin及びcyclophosphamideの影響(OP-5 帝国臓器製薬 久田ら)、Popliteal lymph node assay (PLNA)の実施における薬物の溶媒についての検討(OP-6 日本バイオリサーチセンター 山田ら)の3題が発表されました。後2題は免疫毒性のin vivo 試験法に関連する研究で、帝国臓器製薬グループの研究では、昨年製薬協主催の共同研究で行われたindomethacinの抗体産生への影響に関して、他のグループと異なる傾向を認めたことから追加検討が行われました。結果は抄録に譲るとしてこの稿では感想を述べさせていただくと、このようにin vivo実験で異なる結果が得られた場合、やはりメカニズムの裏づけが重要になると感じました。日本バイオリサーチセンターグループでは、被験物質を溶かした溶媒のPLNAへの影響を明らかにする目的で検討が行われましたが、用いる披験物質によって溶媒の効果も異なる可能性を考える必要があると思います。一方最初の演題はin vivo試験に関するもので、BまたはT細胞マイトジェンによるマウス脾臓細胞の幼若化反応に対する影響を、それぞれ255種類の環境化学物質について調べた結果が発表されました。この研究は非常に多くの化学物資の影響を明らかにした力作でしたが、このようなin vitro試験で検出された影響がin vivoの免疫毒性とどの程度関連を持つのか、今後の課題として大変に興味がもたれました。さらに最近スタートしたトキシコジェノミクスの手法も取り入れ、今回報告されたような細胞レベル、生体レベルでの知見と遺伝子・タンパクレベルでの知見を統合していくような取り組みも必要と思います。

座長:日下幸則(福井医科大学) 
OP 7-9
 OP-7(国立感染症研 小西ら)は、哺乳時のトリブチルスズ(TBT)曝露が細菌・真菌感染抵抗性に及ぼす影響をマウスを用いて調べたものである。リステリア感染でもCandida albicansによる真菌感染でも出産直後に15ppm以上の塩化トリブチルスズを飲水で3週間哺乳させられた群で、宿主抵抗性に強く影響が見られた。哺乳を通しての曝露が感染抵抗性に影響を及した。また5ppmでは無影響量であることを報告した貴重な発表である。OP-8(静岡県立大 鈴木ら)は、有機スズ化合物による胸腺細胞のアポト−シス誘導機構の解析を、ラットにトリブチルスズ含有飼料を1週間投与して行ったものである。摘出した胸腺からDNAを抽出し電気泳動を行ったところ、DNAの断片化が観察された。active gel法で調べたところ18kDaのDnaseが活性化されていた。またカスパ−ゼ活性の上昇及びFasLの発現量の増加が見られ、トリブチルスズによる胸腺のアポトーシスの誘導はFas/FasLを介して起こり18kDaのDnaseによりDNAの分解が起こる、と報告されたOP-9(日本医大 李ら)は、有機リン農薬のDDVPを用いてYT細胞(human NK cell)、PBL(peripheral blood lymphocyte)、human LAK細胞の活性が抑制されるのは、5種類のGranzyme活性を介して起こることを報告した。今後、有機リンがヒトNK細胞に対して最も作用が強いメカニズムを研究する必要があると思われる。

座長:荒川泰昭(静岡県立大学)
OP 10-13
 OP-10(福井医科大学 佐藤ら)では医師の職業性アレルギーの素因あるいは先行因子としてラテックス、ホルマリンなどによる感作を取り上げ、医学生を対象に観察した研究である。アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などの既往のある医師の多くが職業性アレルギーを経験しており、医学生時代のラテックス、ホルマリンなどへの感作が将来における医師の職業性アレルギーの素因あるいは先行因子となる可能性があることが示唆された。OP-11(北里研究所 坂部ら)では化学物質過敏症としてシックハウス症候群を例に取り上げ、環境化学物質の長期微量暴露による中毒あるいは病態生理を免疫(毒性)学的にプロファイリングした研究である。化学物質過敏症の誘因として室内空気汚染によるものが全体の約60%を占め、小児アトピー性疾患の既往歴があるもの(約40%)ではその約半数が化学物質過敏症を発症後にアトピー性疾患を再発した。Tリンパ球のサブクラス、末梢単核球のDNAヒストグラムなどにおいて有意の異常が認められ、免疫(毒性)学的プロファイルの有用性が示唆された。OP-12(大阪大 辻田ら)では分泌型IgA(sIgA)とアレルギー症状発現との関連性の有無を調べるために、アレルギー症状有訴者を対象にしてスギ花粉、ダニ等のアレルゲンに対する唾液中の特異的IgAならびに血清中のIgE濃度を測定した研究である。喘息様症状のある被験者のみにアレルゲン特異的IgAの増加が見られたが、皮膚、鼻、眼でのアレルギー症状発現には(従来からIgEクラスの抗体産生に由来する免疫応答(T型アレルギー)(遺伝的制御の関与あり)が主に関与すると言われているが)、粘膜免疫(とくに局所免疫)系における分泌型IgA産生は関与しないことが示唆された。OP-13(旭川医科大 吉田ら)では生活環境、大気汚染などの環境リスク評価のために設定した種々の免疫指標(抗麻疹抗体価、総IgE抗体価、抗原特異的IgE抗体価、IL-4/IFN-γ mRNA発現比率)について、その有効性を検証するために今回は東京都多摩地区の東久留米および多摩保健センターにおける3歳児健診の幼児を対象にして、調査票、大気汚染常時測定局のデータなどを参考にしながら、検討した研究である。抗体産生応答、抗麻疹抗体価、mRNA発現比率などにおいて生活環境因子による有意の変動が確認され、環境リスクの有無を評価する指標としては期待されるが、その特異性や感受性などにおける免疫指標としての有効性や再現性についてはさらに検証が必要であろう。切望されている分野だけに今後の追加検証を期待したい。

座長:坂部 貢(北里研究所)
OP14-17
 第2日目演題14〜17を担当した。担当したセッションでは、主として未だ不明な点が多い内分泌撹乱作用を有する化学物質の、免疫毒性作用について、興味ある報告と議論がなされた。OP-14(千葉大 上野ら)では、医療現場で日常的に使用されている血液バック、点滴セットなどから溶出することが確認されているフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)が、胎仔期・授乳期に母体を介してF1に移行し、成熟後のF1の細胞性免疫機能を低下させる等、マウスを用いてDEHPの継世代的免疫毒性作用について興味ある報告を行い、医療製品からの内分泌撹乱化学物質曝露の危険性について新たな警鐘を鳴らした。OP-15(国立環境研 野原ら)ではマウスを用いてダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibennzop-dioxin)の抗体産生抑制のメカニズムについて報告し、ダイオキシンにより脾臓における胚中心の形成が阻害されることを明らかにした。さらにTh2細胞からのIL-5産生の低下を確認し、ダイオキシンによるTh2細胞の分化抑制が抗体産生の低下に関与する可能性を示唆し、ダイオキシンの免疫毒性作用の理解に興味ある知見を提供した。OP-16(国立感染症研  小西ら)ではマウスを用いて、代表的な内分泌撹乱化学物質の一つであるビスフェノール(BIS)投与が、大腸菌感染に対する非特異的な生体防御機構にどのような影響を与えるかについて検討した。その結果、BIS投与は、好中球の殺菌機能に影響を及ぼし、腹腔における大腸菌クリアランス機能が低下すること、さらに常在性マクロファージの機能にも影響を及ぼす可能性を示唆した。OP-17(ポーラ化成工業 廣川)では、分化ステージの異なる各種B細胞株を用いて不明の点の多いB細胞系の女性ホルモン感受性機構、即ち代表的な女性ホルモンであるエストラジオール(E)に対する感受性を受容体(R)・転写因子の分子生物学的解析手法を用いて明らかにした。その結果、B細胞の分化ステージにおけるE感受性には、ERβが深く関与していることが示唆され、これらの結果は女性ホルモンのB細胞系に対する作用機構を知る上での重要な基礎的知見であるばかりでなく、多くの内分泌撹乱物質がエストロゲン作用を有することからも、興味ある報告であった。

座長:井上智彰(日本ロシュ褐、究所)
OP18-21
 OP-18(川崎医科大 大槻ら)では、樹立骨髄種細胞株を用いたThalidomide(Thal)の骨髄細胞増殖動態への効果について発表された。細胞株の増殖率が高いほどIL-6Rの発現が高く、TNFαの発現が低い傾向にあった。また、Thalにより増殖抑制がかかる細胞株では、TNFαに対するantisense oligonucleotides(AON)、Thalにより増殖促進がみられる細胞株では、IL-6Rに対するAONによりそれぞれThalの作用が無くなった。これらの結果から、臨床応用に当たって、Cytokines 等の作用を含めて、よりメカニズムに応じた検討が必要であることが示唆された。OP-19(残留農薬研 林ら)では、ジフェニルヒダントインによるマウス胸腺でのapoptosis誘導について発表された。胸腺の重量および細胞数は、高用量の80mg/kg/dayにおいて低下し、20および40mg/kg/dayにおいて胸腺細胞のapoptosisが認められた。Apoptosisの検出は、一般毒性試験、従来からの免疫毒性試験では行われておらず、新しいパラメーターであるが、実際の免疫毒性評価にどのように取り入れるか、今後の検討が期待された。OP-20(塩野義製薬 日野ら)では、出生前のラットへの薬物投与による仔の特異抗体産生能への影響の評価法について発表された。生後のSRBC免疫によるPFC反応は、9日齢で全例に出現し、その後増加し、28日齢以降プラトーに達した。Dexamethasoneの妊娠7から20日までの投与で、生後14日齢でPFCの低下が認められており、28日齢では回復している。

極わずかな低下を示す場合、免疫系が発達途中である時期に低下がより明確に認められているようである。今後のデータの蓄積により、より的確な次世代への免疫毒性評価に貢献するものと考えられる。OP-21(千葉大 上田ら)では、マウス加速型馬杉腎炎モデルにおける免疫抑制剤の糸球体病変治療効果と尿細管間質病変に与える影響について発表された。家兎IgGを免疫したマウスに抗GBM家兎血清を投与することによって作製した腎炎モデルに免疫抑制剤を投与し、腎病変に与える影響について調べられた。シクロスポリン、タクロリムスにおいては、糸球体病変は改善したが、血清BUN、Creがより上昇し、尿細管間質病変も悪化した。これらの薬物の糸球体腎炎への臨床応用には、解決すべき問題があることが示唆され、より個々の病変に応じた治療の可能性について示された。


ワークショップ報告

「医薬品の免疫毒性評価手順を検討するための共同研究」


(記:幹事・澤田幹事)

 当ワークショップは昨年に引き続き「医薬品の免疫毒性評価手順を検討するための共同研究」と題して、日本製薬工業協会医薬品評価委員会基礎研究部会(製薬協)が低分子化合物の抗原性試験法として検討を行ってきたマウス膝窩リンパ節測定(PLNA)法を使用する際の問題点と今後の課題について成績を交え報告し、更に、製薬協が化学物質等安全性試験受託研究機関協議会(安研協)と共に実施した医薬品の免疫毒性評価手順を検討するための共同研究の成果が報告され、討議された。

 先ず、PLNA法については、次のようなプロトコールで実施されている。即ち、Th2型指向性マウス(A/J系もしくはBALB/c系)の両後肢足蹠皮下に被験物質もしくは溶媒のいずれかを投与し、7日後に膝窩リンパ節を採取してcellularity indexを算出する。更に、一部の動物においては初回投与10日後に初回投与の1/10濃度の被験物質ならびに溶媒で2回目の投与を行い、その2日後に膝窩リンパ節を採取し、二次応答を調べる。また、それぞれの測定時にフローサイトメトリーによるリンパ球サブセット解析を行い、リンパ節の組織学的検査を行っている。今回の報告では、35種の薬剤について検討し、ヒトにアレルギー性副作用が認められている薬剤とPLNA反応との間に良好な相関性があることを示した。またアレルギー性副作用を示す薬剤では、一次応答に比べ二次応答が高応答を示したが、刺激性物質ではこのような応答は認められなかった。リンパ球サブセット解析の結果、アレルギー性副作用を示す薬剤では二次応答時にB細胞の比率が上昇しているが、刺激性物質では明確な変化は認められていない。さらに、組織学的検査によりアレルギー性副作用を示す薬剤の投与では膝窩リンパ節に胚中心の形成が認められた。以上の報告内容について討議した結果、PLNA法は低分子化合物の抗原性試験法として利用できると考えられた。しかし、本法においては、代謝物が抗原性を示す本体である場合、検出できないことが予測され、今後の検討課題として残された。また、刺激性物質においては類似の反応を示すことから、刺激性との兼ね合いで濃度設定にも考慮を払う必要があると結論された。

 次に、医薬品の免疫毒性評価手順の検討は、昨年、動物の免疫系に対して何らかの影響を及ぼすことが知られている薬剤(塩酸プロメタジン、インドメタシン、5−フルオロウラシル、塩酸ノルトリプチリン、ハロペリドール、プロプラノロール、ジフェニルヒダントイン)を用いて病理、血液学的所見と免疫機能との関連性を調べ、医薬品の免疫毒性評価における各種試験の位置付けを行ったが、今回は既に得られている成績を再評価し、病理学的所見とフローサイトメトリー(FCM)の相関性、血液・病理学的所見と特異抗体産生能の相関性、FCMと特異抗体産生能の相関性について報告され、更に被検物質の投与期間(14日間と28日間の比較)についての考察も行われた。

 最初に、病理学的所見とFCMの相関性については、重量変化が著しい脾臓と胸腺では、低・中用量においてFCMの変化が認められ、最大耐量(MTD)の高用量においてFCMの変化と共に病理学的変化が発現することが示された。また、これらの臓器においてCD3+、CD4+、CD8+細胞の減少に伴ってNK-PIA+細胞の減少も認められていることから、病理学的変化が認められている場合、NK細胞の減少の可能性も考慮する必要があることが考察された。

 血液・病理学的所見と特異抗体産生能の相関性については、特異抗体産生能に抑制が見られる場合、脾臓においても病理学変化が現れるが、病理学的変化があっても必ずしも抗体産生能の変化に結びつかないことが示された。また、胸腺のみの変化では、抗体産生能の低下には至らないと考えられた。血液学的検査においては、抗体産生能との相関性を示唆する成績は得られなかった。

 FCMと特異抗体産生能の相関性については、脾臓および胸腺の各リンパ球サブセットと特異抗体産生能が比較されたが、相互の関連性は見いだされなかった。従って、脾臓および胸腺の各リンパ球サブセットの減少が免疫機能の一つである特異抗体産生能の抑制を必ずしも示唆するものではないと考えられた。

 被検物質の投与期間(14日間と28日間の比較)については、使用した薬剤により異なり、28日間投与でのみ免疫毒性所見が得られる薬剤や、14日間投与においてより顕著に免疫毒性所見を示す薬剤があり、投与期間については一定の結論を出すには至らなかった。被検物質の投与期間については、28日間投与が推奨されているが、臨床における予想投与期間等も考慮する必要があると考えられた。

 今回の製薬協における共同研究の成果は、今後の医薬品開発における免疫毒性試験法の検討に貴重な情報を提供し得るものと考えられた。