第2回日本免疫毒性研究会報告


香山不二雄 産業医科大学・衛生
1996; No.2, p 1-2

第2回免疫毒性研究会報告

 平成7年9月29日(金)午前9時より昭和大学医学部上條講堂にて,第2回免疫毒性が,全国より191名の参加者数を得て,開催された。内訳は一般会員148名,非会員43名であり,現在の総会員数が232名であるので7割近くの会員が参加したことになる。

 特別講演では,米国NIH (National Institute of Environmental Health Sciences) のEnvironmental Immunology and Neurobiology部門の長であるDr. Michael I. Lusterから,"Immunotoxicological Evaluation of Chemicals and Therapeutics: An Update Perspective"というタイトルで,免疫毒性学における検査方法とリスクアセスメントに関する最新の動向に関して発表があった。これはNIHのNational Toxcology Programで,種々の免疫機能検査をマウス,ラットなどの実験動物とヒトで行われた検査法を比較検討した膨大な研究成果の総括であった。今後,日本でも本研究会で進行中の免疫毒性試験法の検討に非常に示唆に富む発表であった。

 ワークショップでは,"免疫毒性試験法−ラットを用いる免疫毒性試験法−"に関して,今年度,複数の研究施設で行われた共同研究の成果が,4施設の代表研究者から発表があった。これまでにはない共同研究のスタイルに,今後の免疫毒性研究会の発展と方向性をしていると考えられた。

 午後の総会の後には,「リスクアセスメント指標としての免疫毒性学」の題のもとに,ミニ・シンポジウムとして3題の発表があった。その他,一般演題では,検査法の基礎研究から病態生理におけるサイトカインまでの広い範囲の研究に関して,18題のが発表された。活発な質疑応答がなされ,質の高い有意義な研究会であった。全体的に,発表時間および質疑応答時間が短く,もう少し自由に討論の時間を取りたかったという意見が聴かれた。次回は会期が2日間の予定であるので,その点はかなり改善されるものと考えられる。

 懇親会は,付属病院内17階のレストランにて盛大に行われた。Dr.Lusterを囲んで,いろいろな情報交換はもとより,大きな親睦の輪が広がった。

 最後に,本研究会を開催するにあたってご尽力して頂いた世話人の方々,特に会場を準備して頂いた,昭和大学,吉田武美先生ならびに教室の皆さんに深く感謝いたします。


座長まとめ (第2回免疫毒性研究会・演題OP15〜16)

大沢基保 帝京大・薬
1996; No.2, p 3

 担当の2演題は,重金属化合物の免疫毒性機作に関する興味ある内容であった。

 OP-15:有機錫の胸腺萎縮による免疫不全とその耐性発現について(村田純子,荒川泰昭<静岡県立大>,中島晴信<大阪府立公衛研>): 演者らの一連の有機錫の免疫毒性研究の一環として,ジアルキル錫の長期暴露による胸腺萎縮の回復すなわち耐性発現の機作について検討している。ラットへのジブチル錫 (DBT) 連続投与により胸腺萎縮は回復してくるが,このときDBTの大半は代謝されずに胸腺内に存在することを示し,組織内のDBT結合物が耐性に関与するものとしてその分画を試み,メタロチオネインと異なる二つの画分の増加が耐性の発現と相関することを報告した。DBTの胸腺毒性の活性本体がDBTかその代謝物なのか,また投与条件は胸腺に選択的な毒性を示す条件なのか,討議時間の制約のため明らかではないが,生化学的なアプローチとして今後の進展が期待される。

 OP-16:マウス免疫応答系に及ぼす金属毒性発現機構主としてマクロファージとT細胞の鉛化合物による機能変化 (高木邦明,兼松雅博,川辺丈史,祐田泰延 <静岡県立大>):鉛の多様な免疫毒性を,新たなメディエーターである一酸化窒素 (NO) に注目して説明を試みた研究である。細胞培養実験にて硝酸鉛がマクロファージのNO産生とT細胞のインターフェロンγ産生を抑制することを示し,NO産生抑制を介した鉛の免疫毒性機作を推測した。インターフェロンγ産生抑制は間接的にNO産生抑制に関与するとの見解は今後の証明を待つべきであるが,血管内皮細胞のNO産生も鉛で抑制されることが報告されており,メディエーターの視点による新しい毒性機作の解析として注目される。


免疫毒性研究会の座長をして

藤巻秀和 国立環境研究所,環境健康部
1996; No.2, p 3

 第2回の免疫毒性研究会の座長を引き受けて感じたことは,十分な討論の時間がなかったことであった。演者の先生には座長より不満が残されたかもしれない。本来,研究会が学会と異なるところは,学会が学術上の会合であるのに対して,研究会は研究について深く考えるための会合であり,この考える時間の長さの違いであると思う。したがって,理想的には20分間の口演,10分間の討論ぐらいは必要な発表時間と考える。

 免疫毒性学という学問自体がまだ途上の学問であり,日本でこの分野に関連する研究者が集まって討論するときには,たぶん個々の研究者がこの分野の研究に興味をもたれたり,参入された動機はまちまちであると思われるので,よく研究内容を理解してもらうためにも討論時間は十分欲しいものである。

 幸いにも,来年度は研究会が2日間にわたって開催される予定なので,プログラムを検討の際には上記のことに配慮していただきたい。

 現在,学会と名のつくものには6つほど参加しており,学会運営についてはそれぞれの学会の特徴がみられ善し悪しについては一言では言い表せない。免疫毒性研究会については,あくまでも現在は研究会であり,若い学問分野でもあるので大いに若い研究者の意見が自由に述べられる研究会になってもらいたい。近い将来,国際的な免疫毒性研究会,あるいは学会も設立されるであろうし,その時の中枢に日本の研究者が多くいられるように早く若手の研究者が育っていってもらいたい。