≪免疫毒性試験プロトコール 19≫

Non-RI Local lymph node assay(Non-RI LLNA)法(BrdU法)


2004; 9(2), 8-11


武吉 正博
財団法人化学物質評価研究機構


A.解説

Local lymph node assay(LLNA)1)は従来の皮膚感作性試験とは異なり、初回抗原刺激によるリンパ球の増殖反応を指標にしているため、短期間に化学物質の感作性を推定できる新しい皮膚感作性試験法である。しかし、3H-thymidine等の放射性化合物(RI)を使用しなければならず、特殊な実施施設を必要とし、放射能汚染、廃棄物処理の問題など実施上種々の制約を有する。今回、3H-thymidine の代わりにBromodeoxyuridine(BrdU)を用いることにより放射性化合物を使用しないLLNAの変法(Non-RI LLNA法)2)について概説すると共に本法を用いた化学物質の感作性強度推定法について紹介する。BrdUはDNAを構成する塩基のひとつであるthymidineの類似物質であり、3H-thymidineと同様に動物実験或いはinvitro実験において細胞増殖に伴ってDNAに取り込ませ、標識することができる。また、DNAに取り込まれたBrdUは酵素免疫測定法(ELISA法)によって定量することが可能である。Non-RI LLNA法(BrdU法)はLLNA標準法(RI法)における3H-thymidine投与をBrdU投与に、液体シンチレーションカウンタによる放射活性測定をELISA法による比色定量に置き換えたものであり、その原理は標準法に極めて近い。本法とLLNA標準法(RI法)とのConcordance(一致率)は極めて高く、モルモットを用いた皮膚感作性試験成績との相関性も高い3)。さらに我々は化学物質のヒトにおける感作性強度を再現性良く推定する方法としてLLNA相対比較法4)を開発した。本法はヒトにおける感作性強度が既知の化学物質を比較対照物質として用い、比較対照物質と同濃度に調製した被験化学物質の反応との間で相対比較を行うことにより感作性強度を推定するものである。LLNA相対比較法を実施することにより、化学物質の感作性強度を迅速且つ効率的に分類・評価し、ヒトに対する感作性リスクを予想することが可能となる。本法は今後、感作性物質の評価において有用な方法論になるものと思われる。

B.実験材料及び方法

実施方法の概略を図1に示す。



1. 動 物

雌性マウス、8-12週令のCBA/Ca或いはCBA/Jマウスが推奨されている。

日本国内ではCBA/Caは入手が困難であり、我々はCBA/JNを使用している。免疫学実験に汎用されているBALB/cAnN、Closed colonyのCD-1及びCBA/JNを用いて感作性物質として知られているp-Benzoquinoneに対する応答性を比較した結果、CBA/JNが最も応答性が高いことが確認されている5)(図2)。



2. 化学物質の調製

化学物質の調製にはいくつかの媒体が推奨されている。最も一般的に使われるものはアセトン・オリーブ油混液(v/v=4:1、AOO)であるが、他にN,N-dimethylformamide(DMF)、methylethyl ketone(MEK)、propylene glycol(PG)、dimethylsulfoxide(DMSO)なども使用することができる。化学物質は必ずしも溶解している必要はないが、用量依存性が確認可能な濃度域で複数の用量段階を設けることが望ましい。

3. 対照群

化学物質調製に用いた媒体のみを投与する陰性対照群と試験系の感受性を確認するための陽性対照群を設けることが望ましい。我々の開発したLLNA相対比較法4)では比較対照物質として2% 2,4-dinitrochlorobenzene(DNCB)、10%isoeugenol, 50% α-hexylcinnamic aldehyde(HCA)の3物質を用いることにより、被験物資のヒトにおける感作性強度を推定することが可能である。

4. 感作

毎日ほぼ一定の時刻に、マウスの両耳介にマイクロピペッター等を用いて1耳介当たり25μlを塗布する。感作は初日をDay 0としてDay 2までの3日間連続塗布する。

5. BrdUの投与

最終感作の2日後(Day 4)にBrdU生理食塩液溶液(10mg/ml)を1匹当たり0.5ml腹腔内投与する。

6. リンパ節の採取

BrdU投与の翌日(Day 5)に動物を安楽死させた後、頸部を切開し耳の直下にある耳介リンパ節を採取する。採取したリンパ節は直ぐに測定しない場合は-20℃以下で保存可能であり、採材日以降に解凍して測定に供することも出来る。

7. BrdU取り込み量の測定

耳介リンパ節を1匹分毎にマイクロチューブ内で少量の生理食塩液と共にすりつぶし、セルストレーナ(FALCON 2350)で濾過した後、最終的に15mlの生理食塩液に分散する。この細胞分散液の0.1mlをマイクロプレートに移しBrdU取り込み量の測定に供する。測定には市販のBrdU測定キット(ベーリンガー・マンハイム社製のCell ProliferationELISA, BrdU colorimetric kit, Cat. No.1647229等)を用いる。

8. 判定方法

対照群(媒体のみ投与)のBrdU取り込み量に対して化学物質を投与した群の取り込み量の比をStimulation index(SI)と呼んでおり、OECDTG4296)やUS-EPAの皮膚感作性ガイドライン7)では実験を行ったいずれかの濃度においてSI値は3倍以上を示した場合に感作性陽性と判定することとしている。LLNA相対比較法4)ではそれぞれ同一濃度に調製した比較対照物質と被験物質との間でSI値を統計的に比較し、表1の基準によって化学物質のヒトにおける感作性強度を推定する。



C.相対比較法の実施例

LLNA相対比較法4)は感作性強度が既知のヒト感作性物質を比較対照物質として用い、被験化学物質の感作性強度を推定する方法であり、比較対照物質として2% 2,4-dinitrochlorobenzene(DNCB、強度感作性物質、Human class 1)、10% Isoeugenol(IEUG、中等度感作性物質、Human class 2)、50% α-hexylcinnamicaldehyde(HCA、弱感作性物質、Human class 3)の感作性強度の異なる3種類の物質を用いる。表2に示すヒトに対する感作性強度が既知の化学物質8)を図3のスキームに従ってNon-RI LLNAを実施し、感作性強度の推定を行った。10%調製液によるスクリーニング実験(図4)ではcinnamic aldehydeのみが比較対照物質との比較において統計的差異を認めなかったことからisoeugenolと同等のhuman class 2と判定され、isoeugenolと比較して明らかに強い反応を示したp-phenylenediamineなどの3物質は2%調製液による確認実験、isoeugenolと比較して明らかに弱い反応を示したcitralなどの5物質は50%調製液での確認試験に処された。2%調製液による確認実験の結果(図5)、DNCBと同等の反応を示したdiphenylcyclopropenoneはHuman class 1、DNCBよりも明らかに弱い反応を示したp-phenylenediamineとglutaraldehyde はHuman class 2に分類され、50%調製液による確認実験の結果(図6)、HCAと同等或いはそれ以上の反応を示したcitral、eugenol、isopropyl myristateはHuman class 3、HCAよりも明らかに弱い反応を示したpropylene glycol とhexaneはHuman class 4-5と判定され、殆どの化合物は報告されている感作性強度に分類された(表2)。







このようにLLNA相対比較法を実施することにより、化学物質をその感作性強度に従って正しく分類することが可能である。また、比較対照物質は試験系の内標準として機能するため、再現性にも優れており、本法は化学物質の感作性を迅速且つ効率的に分類、評価する方法として極めて有用な方法である。






D.参考文献
1) Kimber, I., Dearman, R.J., Scholes, E.W., Basketter,D.A. (1994). The local lymph node assay: developmentsand applications, Toxicology, 93, 13-31.
2) Takeyoshi M, Yamasaki K, Yakabe Y, Takatsuki M,Kimber I. (2001) Development of non-radio isotopicendpoint of murine local lymph node assay based on 5-bromo-2'-deoxyuridine (BrdU) incorporation. ToxicolLett. 119(3):203-8.
3) Takeyoshi M, Noda S, Yamazaki S, Kakishima H,Yamasaki K, Kimber I. (2004a) Assessment of the skinsensitization potency of eugenol and its dimers using anon-radioisotopic modification of the local lymph nodeassay. J Appl Toxicol. 24(1):77-81.
4)Takeyoshi M, Iida K, Shiraishi K, Hoshuyama S. (2004b)Novel approach for classifying dermal sensitizingpotency of chemicals with non-radioisotopicmodification of local lymph node assay, J AppliedToxicol. (In press)
5) Takeyoshi, M., Noda, S., Yamasaki, K. (2004c)Differences in responsiveness of mouse strain againstp-benzoquinone by non-radioisotopic murine locallymph node assay. Exp. Anim. 53, 171-173
6) Organization for Economic Corporation andDevelopment (OECD, 2002). Skin Sensitisation: LocalLymph Node Assay, TG-429(Adopted: 24th April 2002),Paris
7) Environmental Protection Agency (EPA, 2003), HealthEffects Test Guidelines OPPTS 870.2600SkinSensitization, Washington DC
8) Basketter DA, Blaikie L, Dearman RJ, Kimber I, RyanCA, Gerberick GF, Harvey P, Evans P, White IR,Rycroft RJ. (2000) Use of the local lymph node assay forthe estimation of relative contact allergenic potency.Contact Dermatitis. 42, 344-348