≪免疫毒性試験プロトコール 19≫

DiOC18色素を用いたフローサイトメトリーによるラットNK細胞活性の測定


2001; 6(2), 10-12


金ア佳世子,中村 和市
(塩野義製薬株式会社 新薬研究所)

A. 解説

 これまで,NK細胞活性は一般に51Crで標識した標的細胞を用いて測定されてきたが,ラジオアイソトープの取り扱いの問題があった。近年,ラジオアイソトープを用いず,NK細胞活性を測定する方法が数多く提唱されている。

 例えば,51Crの代わりに蛍光物質であるeuropiumを標的細胞に取り込ませ,その放出量を測定する方法1),細胞内酵素によって蛍光を発するようになる物質(calcein-AMなど)で標的細胞を標識し,その蛍光強度の変化を測定する方法2),蛍光色素で標的細胞あるいはエフェクター細胞を標識後,propidium iodide(PI)あるいは7-aminoactinomycinD (7-AAD)などで二重染色を行いフローサイトメータによって死細胞を検出する方法などである。フローサイトメトリーにおいて細胞を標識するために用いられる蛍光色素としては,PKH-2やPKH-26,3,3'-dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate (DiOC18),carboxyfluorescein diacetate (CFDA) などが挙げられる。この4種の蛍光色素のうち,PKH-26はFL2で,また他の3種はFL1で検出される。さらに,これらFL1で検出される3種の蛍光色素の中で,細胞を最も強くかつ比較的均一な蛍光強度に染色し,また非標識細胞との共培養下でも非標識細胞を染色しにくい色素はDiOC18と言える3)

 Piriouら4)はヒト等由来末梢血単核球(PBMC)のNK細胞活性について,DiOC18でK562細胞株などを標識後,死細胞を検出するためにPIを用いフローサイトメトリーで調べている。本稿では,Piriouらの方法をもとに,ラット脾臓NK細胞活性についてDiOC18でYAC-1細胞を標識後,7-AADで死細胞を検出する方法について報告する。また,このときPE標識抗ラットNKR-PIA抗体を用いればNK細胞数も同時に測れるので,併せて報告したい。

B. 実験材料等

1.試薬類

1) 3,3'-Dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate (DiOC18):DMSOで3mMに調整,遮光下4℃で保存。

2) 培養液
RPMI-1640培地(penicillin G, streptomycin, 2 mM L-glutamine含有) +10%ウシ胎児血清(56℃で30分間加温し,非働化処理したもの)

3) Hanks' balanced salt solution (HBSS)

4) 7-Aminoactinomycin D (7-AAD): HBSSで1mg/mLに調整,遮光下4℃で保存。

5) Phycoerythrin (PE)標識抗ラットNKR-PIA抗体(クローン10/78)

6) Formaldehyde

7) リンパ球比重分離液(M-SMF)

2. 標的細胞

YAC-1細胞は,上記培養液を用い継代培養を行った。継代2または3日目に標的細胞として実験に供した。

3. 器材

フローサイトメータ(Becton Dickinson ; FACScan)遠心機

C. 実験操作手順

1. エフェクター細胞の調製
 ラットを頚椎脱臼によって安楽死させ脾臓を摘出後,脾臓細胞浮遊液を一定の細胞濃度に調整する。

2. 標的細胞の標識
 YAC-1細胞を1×106 cells/mLに調製し,細胞浮遊液1mLに対し1mM DiOCを10μL添加後37℃で15分間培養する。その後HBSSによって遠心(フラッシング)洗浄を3回行う。

3. 培養

1) 脾臓細胞および標識した標的細胞を50μLずつ混合して遠心し,37℃で4時間共培養する。このとき,標的細胞数を一定にし,エフェクター細胞浮遊液の濃度を変えることで,E:T比を5:1,25:1,125:1に調整する。

2) 一部の標的細胞に対しては,formaldehydeを最終濃度3%となるように加え37℃で30分間培養し,細胞死を誘導する(このときの死細胞の割合を最大細胞死とする)。

4. NK細胞の染色

 脾臓細胞と標的細胞の共培養後,300倍希釈したPE標識抗ラットNKR-PIA抗体を100μL加え,遮光下4℃で30分間培養する。

5. 測定

 HBSSにて遠心洗浄を3回行い,100μg/mL濃度の7-AADを25μL添加してフローサイトメータにて測定する。

D. NK細胞活性の求め方

1. 標的細胞は,DiOC18で標識することで蛍光を発するようになりFL1で検出される(図1)。なお,DiOC18で標識されなかった集団についてはFSC,SSC共に強度が非常に弱く,細胞ではないことを確認している。さらに,PE標識NKR-PIA+細胞はFL2で,死細胞は7-AADを用いるので,FL3で,それぞれ検出される。

2. DiOCで標識した標的細胞はFSCとFL1のドットプロット上で認識されるので,その細胞集団に対しゲーティングを行い(図2),その領域(すなわち標的細胞)中の死細胞の割合をFL3のヒストグラムによって検出する(図3)。また,FSCとSSCのドットプロット上でエフェクター細胞が認識できるので,このエフェクター細胞(図2の色の濃いドット)群が標的細胞のゲートに入らないように注意する。

3. NK細胞活性(%)は,(エフェクター細胞と共培養した時の細胞死−自然細胞死)÷(最大細胞死−自然細胞死)×100として表わす。

4. PE標識抗NKR-PIA抗体を用いることで,1個の脾臓あたりのみならず1個のNK細胞あたりのNK細胞活性も求めることができる。さらに別のチューブで抗CD3抗体などを用い,同一脾臓細胞浮遊液中の各リンパ球サブセットの割合を求めても良い。



E. 留意事項

1. 標的細胞のバイアビリティーが低いと,エフェクター細胞やformaldehydeによって誘導される死細胞の割合が減少し,正しいNK細胞活性が求められないので注意する。

2. 脾臓細胞浮遊液の調製中に標的細胞の標識を行う。このことは,エフェクター細胞の活性低下や標的細胞の標識蛍光の減弱を抑えるのに有効である。また,細胞調製から測定までの時間も節約できる。

3. 死細胞はPIでも検出できるが,この色素はFL2領域にも蛍光強度を示すためPEあるいはFITC標識抗体と同時に用いることはできない。本法ではPE標識抗体を用いるため,FL2領域に影響を及ぼさない7-AADを用いて死細胞を検出した。

F. 参考文献

1)Blomberg K., Granberg C., Hemmila I., and Lovgren T. (1986) Europium-labeled target cells in an assay of natural killer cell activity. I.A novel non-radioactive method based on time-resolved fluorescence. J. Immunol. Methods, 86,225-229
2) Roden M. M., Lee K. H., Panelli M.C., and Marincola F.M.(1999)A novel cytolysis assay using fluorescent labeling and quantitative fluorescent scanning technology. J. Immunol. Methods, 226,29-41
3) Johann S., Blumel G., Lipp M., and Forster R. (1995)A versatile flow cytometry-based assay for the determination of short-and long-term natural killer cell activity. J. Immunol. Methods, 185, 209-216
4) Piriou L., Chilmonczyk S., Genetet N., and Albina E. (2000) Design of a flow cytometric assay for the determination of natural killer and cytotoxic T-lymphocyte activity in human and in different animal species. Cytometry, 41, 289-297