≪免疫毒性試験プロトコール 15≫

マウス脾臓細胞,胸腺細胞,リンパ節細胞の調製法


2001; 6(1), 8-9


木村 努,間 哲生
(三共株式会社安全性研究所)

A. 解説

 免疫担当細胞を調製するためには,脾臓,胸腺,リンパ節,骨髄などの器官が用いられるが,本稿では,マウスの脾臓,胸腺,リンパ節からの細胞調製法につき記す。これらの器官を無菌的に取り出し,氷冷下短時間の間に,培養液または緩衝液中で均一な細胞浮遊液を調製することが必要とされる1),2)

B. 実験材料

 1. 解剖器具等

  解剖用ハサミ,解剖用ピンセット,無鉤ピンセット (脾臓をほぐす際に使用)
  (煮沸滅菌するか,オートクレーブで滅菌したもの)
  プラスチックシャーレ,試験管 (disposable)
  駒込ピペット,ピペット (滅菌済みのもの)
  エッペンドルフピペットおよびチップ
  セルストレイナー (2350,FALCON,70μm,Nylon) またはガーゼ
  コルク板 (解剖用)

 2. 培養液

  ・10%牛胎児血清 (FCS)-RPMI-1640培養液
  ・Eagle-MEM培養液

 3. 器材および試薬類

   光学顕微鏡
   血球計算盤またはセルカウンター (コールターカウンターなどの自動血球計数器)
   トリパンブルー溶液 (0.2%w/v生理食塩水)
   T?rk液 (0.01%Gentiana Violet-3%酢酸水溶液)

C. 実験操作手順

 1. 脾臓細胞の調製

 1)マウスを頸椎脱臼により安楽死させ,ハサミで腋下静脈を切断し充分に放血する。

 2)酒精綿で消毒済みのハサミとピンセットを用いて,腹部正中線に沿って腹壁を切開する。ピンセットで脾臓を持ち上げ,ハサミで血管や結合組織を切り離す。

 3)脾臓を,培養液 (10%FCS-RPMI液) を少しいれたプラスチックシャーレ (通常氷冷しておく) 中にいれる。

 4)脾臓をピンセットで丁寧にほぐす。この操作は氷冷下で短時間の間に行う。この後の細胞浮遊液を取り扱う操作も氷冷下で行う (ただし,T細胞を除く操作等を行う時は細胞を冷やさないほうがよい。)この段階で,脾臓の結合組織・脂肪組織等が混じるので,駒込ピペットで細胞をほぐした後,セルストレイナーまたはガーゼで濾過する。

 5)細胞浮遊液をプラスチックシャーレから試験管に移し,駒込ピペットで再度細胞をほぐした後,Eagle-MEM液を用いて4℃,950rpmで8分間,2度遠心洗浄する。(赤血球を除く必要がある時は,この後溶血処理などを行う。)

 6)細胞浮遊液の一部を希釈して,セルカウンターを用いて計数する。血球計算盤を用いる時は,T?rk液で適宜希釈して (具体的には1/10,1/100等),有核細胞数を顕微鏡下で計数する。生細胞数の計数には,Eagle-MEM液で適宜希釈して,トリパンブルー溶液を1:1の割合で加え,血球計算盤を用いて顕微鏡下で行う。(生細胞数の計数に当たっては,駒込ピペットで細胞をほぐす際,泡立ててしまうとリンパ系細胞が死んでしまうのですばやく行うこと。)

 7)細胞を培養液に浮遊させ,一定の細胞濃度に調整する。

 2. 胸腺細胞の調製

 胸腺細胞浮遊液には,リンパ節細胞と血液細胞が混入しないようにする。(リンパ節を誤って摘出しないためには,0.1mlの墨汁・黒色インキ等 (生理食塩水で5倍希釈) をマウスの腹腔内に投与し,傍胸腺リンパ節の位置を予め確認しておくとよい。リンパ節は黒くなるので識別できる。)

  1)マウスの後大静脈をハサミで切断し充分に放血する。

  2)マウスを仰向けにして四肢をピン等で固定し,胸部〜腹部を酒精綿で消毒した後,皮膚正中を切開し,ついで両側前肢へとY字型に切開する。新しいハサミとピンセットを用い,先ずピンセットで剣状突起を持ち上げながら,ハサミで腹壁,横隔膜,両側の肋軟骨部の順に切り開き,胸骨を中心にした胸部前壁を取りさり,胸腔上部を露出させる。その後,胸腺を注意深く摘出する。この時,周囲の脂肪や結合組織は丁寧に取り除く。

  3)胸腺を培養液 (10%FCS-RPMI液) を少し入れたプラスチックシャーレ (氷冷しておく)中に入れる。胸腺に血液がついている場合にはすすぎ用の培養液中で充分すすぐ。

  4) 胸腺をピンセットで丁寧にほぐし,細胞浮遊液を氷冷下で調製する。駒込ピペットで細胞をほぐし,遠心分離する方法は脾臓細胞の調製と同様である。

  5) 細胞を培養液に浮遊させ,血球計算盤またはセルカウンターで細胞数をカウントし,一定の細胞濃度に調整する。

 3. リンパ節の細胞調製

  リンパ節は脂肪組織よりやや灰色〜黄色がかった色調をしており,触れるとコリコリする感じがする。まわりの脂肪組織をはがし,10%FCS-RPMI液 (氷冷しておく) 中に入れ,脾臓の場合と同様に細胞浮遊液を調製する。マウスの場合,腸管膜リンパ節が比較的大きいので使われるが,鼠蹊リンパ節,膝窩リンパ節を使うこともある。リンパ節の位置を前もって確かめるため,Freund完全アジュバントを足蹠に注射したマウスを解剖するとよい。

  1)マウスを頸椎脱臼により安楽死させ,四肢を伸ばしてコルク板にとめる。

  2)ハサミとピンセットを用い皮膚を皮下織からはがし,皮膚をコルク板にピンでとめる。

  3)リンパ節は結合組織と脂肪中に埋もれているので,ピンセットで探し出す。

  4)腸間膜リンパ節をとるには,腹腔を開け腸をつまみあげて,上行結腸の腸間膜にある腸間膜リンパ節 (mesenteric lymph node) を露出させる。

  5)膝窩リンパ節 (popliteal lymph node) をとるにはマウスをうつぶせにおき,頭を術者の向こう側になるように置く。マウス後肢の,かかとにハサミで3mm程切れ目を入れ,切れ目から皮膚を手でつかんで皮膚を裏返すように,後肢の付け根に向かって引っぱり上げる。そうすると,膝関節の裏側の膝窩が露出する。膝窩リンパ節は,膝窩の上端の筋肉組織に埋もれている。筋肉の外層を切って膝窩リンパ節を露出させる。

  6)リンパ節は培養液 (10%FCS-RPMI液) を少し入れたプラスチックシャーレ (氷冷しておく) 中に入れる。この際,余分な脂肪は取り除くこと。

  7)リンパ節をプラスチック製注射器のピストン (テルモ,1mlツベルクリン用) の背中側 (ゴムのついていない側) の平らな部分で押しつぶして,リンパ節細胞を培養液中に分散させる。

  8)解離した細胞は遠心管に入れて,5〜6分間静置し,細胞塊を沈ませる。浮遊細胞を遠心管に移して,Eagle-MEM液を用いて4℃,950rpmで10分間遠心洗浄する。細胞を数回洗い脂肪を取り去る。

  9)細胞を培養液に浮遊させ,血球計算盤またはセルカウンターで細胞数をカウントし,一定の細胞濃度に調整する。

D. 留意事項

1)脾臓細胞浮遊液を調製する際には,赤血球が混じるので放血を充分行う事が重要である。必要に応じて溶血処理を行う。また,脾臓は組織学的にリンパ様細胞以外の間質系細胞の比率が多いので,自動血球計数器で細胞数をカウントする際には,どのような種類の細胞をカウントしているのかを,血球計算盤と顕微鏡を用いてあらかじめ確認しておく必要がある。

2)脾臓細胞浮遊液に細胞塊がある場合は,よく混合し,しばらく放置した上清を用いるとよい。

E. 参考文献
1) 細菌学実習提要 (改訂5版),医科学研究所学友会編,丸善。p.337〜340。1977年
2) 細胞免疫実験操作法 (今井,川口,原田共訳),理工学社刊,p.1〜15。1982年
  Selected Methods in Cellular Immunology, Barbara B. Mishell, Stanley M. Shiigi.