≪免疫毒性試験プロトコール 13≫

マスト細胞MCP-1のイムノアッセイ及びRT-PCRによる定量

2000; 5(2), 9-12


奥貫 晴代,手島 玲子,澤田 純一
国立医薬品食品衛生研究所 機能生化学部

A.解説

 抗体産生や,感作リンパ球の誘導等の直接免疫に関与している免疫担当細胞には,単球,マクロファージ,リンパ球などがある。ここでは特に,アレルギー性炎症反応に深く関与するマスト細胞に着目し(1),後期炎症性シグナルであるケモカインMCP-1(Monocyte Chemoattractant Protein-1)のマスト細胞からの産出量及びMCP-1 mRNA発現量の測定法について述べる(2,3)

 サイトカインの測定法としては,イムノアッセイが一般的であり,Biosource,Genzyme-TECHNE,BD PharMingen等でキットが市販されている(4)。これらを用いることによって簡便な定量的測定が可能である(図1)。また,各種サイトカイン特異的mRNAを測定するためには,組織もしくは細胞から効率よくTotal RNAもしくはmRNAを抽出する必要がある。首尾良くRNAが調製出来た後は,サンプルが少量の場合,ELISA方式の96wellマイクロプレートを用いたmRNA定量測定キット,またはRT-PCR法によって,発現量を測定することが出来る。ここでは,マウス及びラットのMCP-1特異的配列をカバーしているプライマーを設計し(図1),通常のRT-PCRを行うことで特異的遺伝子発現量変化を観測した例(図2)を紹介したい(2)。さらに迅速,かつ高精度にPCR産物の定量を行う方法として,TaqManTMPCR法がある。PCR反応をリアルタイムで検出出来るABI PRISMTM 7700 Systemを用いMCP-1 mRNA発現量を定量した例(図3)もあわせて紹介する(5)









B.実験材料

1.細胞

1)RBL-2H3(Rat Basophilic Leukemia 2H3 cells)の調製

RBL-2H3細胞を37℃ CO2 インキュベーター内で10% fetal calf serum(FCS)-Dulbecco's MEM (DMEM)5mLを含む培養フラスコ(T-25, Corning #430372)を用いて培養する。10%FCS-DMEMを用いて2x104 cells/mLになるよう3日に1回継代を行う。

2)BMMC(Bone Marrow-derived Mast Cells)の調製

Balb/cマウス(雌,10-20週齢)を頚椎脱臼し,70%エタノールで全身を消毒した後,両足の大腿骨を無菌的に採取し,肉片を取り除く。両骨端を切り取り,2%FCS-DMEM中で23Gの注射針を用いて骨髄細胞を押し出す。1500rpmで5分間遠心分離し,細胞を集めた後,有核細胞を測定し,2x107 cells/10mLになるように5ng/mL IL-3を含む10% FCS-DMEMで懸濁し,10cm直径の培養プレート(Falcon #3003)で培養する。5-7日の間隔で培養液を加え,この操作を一ヶ月間繰り返すことにより,均一なBMMCを調整する。

2.試薬と製造元

 以下の試薬を使用した。
MCP-1 Immuno Assay Kit (Biosource),M-MLV reverse transcriptase (RNase H) RT-PCR high (東洋妨),TaqManR Reverse Transcription Reagents (PE Biosystems),TaqManTM PCR Core Reagent Kit (PE Biosystems),TaqManTM probe (PE Biosystems),DTBHQ (2,5-di(tert-butyl)-1,4-hydroquinone) (Sigma)

C.実験操作

1.マスト細胞の化学物質による活性化と細胞の調製

1)RNA調製用BMMCの調製

 あらかじめ,1x106個BMMCを5ng/mL IL-3を含んだ10%(v/v)FCS-DMEM 10mL中,37℃ CO2 インキュベーター内にて7日間培養する(最終細胞密度1x107 cells/10mL)。7日後,培地に3μM DTBHQを加え,0.5-6時間刺激を加える。各刺激時間後,細胞をピペッティングにて回収し,1500rpmで5分間遠心する。次いで,細胞をPBSで1回洗浄する。

2)MCP-1 タンパク測定用 BMMC

 24 well flat-bottom microtiter plate (Coster #3524)に最終細胞密度2x105 cells/wellになるようにBMMC懸濁液10%(v/v) FCS-DMEM 1mLを加え,37℃ CO2インキュベーターにて16時間培養する。3μM DTBHQを加え0.5-6時間刺激を与えた後,上清を分取する。

3)RNA調製用RBL-2H3細胞

 5x106個のRBL-2H3細胞を,10%(v/v)FCS-DMEM20mLに懸濁し,培養フラスコ(T-75,Corning)中37℃にて16時間培養を行う(最終細胞密度1x107 cells/20mL)。16時間後,3μM DTBHQを加え1-3時間刺激を与えた後,細胞を回収して1500rpmで5分間遠心を行う。細胞はPBSでさらに1回洗浄する。

4)MCP-1タンパク測定用RBL-2H3細胞

 24 well flat-bottom microtiter plate (Coster #3524)に最終細胞密度1x105 cells/wellになるようにRBL-2H3懸濁液10%(v/v)FCS-DMEM1mLを加え,37℃ CO2インキュベーターにて16時間培養する。3μM DTBHQを加え1-3時間刺激を与えた後,上清を分取する。

2.MCP-1のイムノアッッセイ

培養上清100μLを使ってMCP-1 Immuno Assay Kit (Biosource)を用いたサンドウイッチELISA法にてMCP-1放出量を測定する。

3.Total RNAの調製

それぞれの細胞にTRIZOL Reagent (Gibco BRL)1mLを加え,ピペッティングをして細胞を破壊し,エッペンドルフチューブに移す。5分間室温で放置した後,0.2mLのクロロホルムを加え15秒間激しく手で振る。3分間室温で置いた後,4℃,12000rpmで15分間遠心する。新しいチューブに水相を移し,0.5mLイソプロパノールを加え室温で10分放置する。4℃,12000rpmで10分間遠心し,70%エタノールでRNAの沈殿を洗った後,さらに15000rpmで5分間遠心する。RNAの沈殿は,風乾させた後RNase-free waterで溶解し,260nm及び280nmで吸光度を測定してRNA量を測定する。

4.RT-PCR法

調製したTotal RNA 500ngを,25 pmol polyA primer, 1 mM dNTPs,10 U RNase inhibitor, 20 U RNase H, RTase buffer 20μL(M-MLV reverse transcriptase RT-PCR high)に溶解し,GeneAmp PCR system 9600(Perkin Elmer)を用いて30℃ 10分,42℃ 20分,99℃ 5分インキュベートする。合成されたcDNA産物を,1x Plus buffer (rTaq), 2.5 U rTaq DNA polymerase, 1 μmol/L MCP-1合成プライマー(Table 1)もしくはβ-actinプライマー(Stratagene)で100μLにし,94℃3分間の熱変性及び60℃5分間のインキュベートの後,72℃ 90秒,94℃ 45秒,55℃(MCP-1)もしくは60℃(β-actin)45秒を1サイクルとして35サイクル繰り返し反応させる。それぞれの反応液10μLをアガロースゲル電気泳動し,エチジウムブロマイドで染色後,画像解析装置等を用いて解析する。コントロールとしてβ-Actin Primer Set for RT-PCR (Stratagene)を用い,同様の反応を行う。

5.TaqManTMRT-PCR法

調製したTotal RNA 500ngを,oligo(dT)プライマー等を含んだTaqManR Reverse Transcription Reagentsに溶解し,GeneAmp PCR system 9700(Perkin Elmer)を用いて25℃ 10分,48℃ 30分,95℃ 5分インキュベートする。合成されたcDNA産物は,ABI PRISM 7700 Sequence Detector System を用いて定量する。cDNAはTaqManTM PCR Core Reagent Kit及び独自に合成させたMCP-1プローブとプライマー(Table 1)もしくはGAPDHプローブとプライマー(PE Applied Biosystems)で終用量50μLにし,50℃ 2分,95℃ 10分のインキュベーションの後,95℃ 15秒,60℃ 60秒を1サイクルとして40サイクル繰り返し反応させる。内標準としてTaqManR Rodent GAPDH Control Reagents (VICTM Probe)(PE Applied Biosystems)を用いて同様の反応を行い,それぞれの産出量を求めた後,GAPDHに対するMCP-1の産出量の比率を計算する。

D.判定

1.MCP-1 Immuno Assay Kit及び,RT-PCR法による測定結果の例
RBL-2H3,BMMC両細胞ともDTBHQ存在下,顕著なMCP-1分泌,及びmRNA産生が見られた(図1,図2)。

2.TaqManTM RT-PCR法による測定結果の例
定法のRT-PCRと同様の結果が得られ,より正確なデータとして処理出来た(図3)。

E.留意事項

TaqManTM RT-PCR法を用いる場合,データのばらつきを極力抑えるため,同時に1サンプルにつき3-4回繰り返すことが必要である。又,定量RT-PCRの主な変動の要因であるRNAの純度を補正する内部標準として,GAPDHなどのコントロールを用い,検量線を作成する必要がある。

F.参考文献

1)Gordon, J.R. Monocyte chemoattractant peptide-1 expression during cutaneous allergic reactions in mice is mast cell dependent and largely mediates the monocyte recruitment response. J. Allergy Clin Immunol. 106, 110-116(2000)
2)Teshima, R. et al. Effect of Ca2+-ATPase inhibitors on MCP-1 release from bone marrow-derived mast cells and the involvement of p38 MAP kinase activation. Int. Arch. Allergy Immunol. 121, 34-43(2000)
3)Onose, J.et al. Ca2+-ATPase inhibitor induces IL-4 and MCP-1 production in RBL-2H3 cells. Immunol. Lett. 64, 17-22(1998)
4)Luo, Y. et al. Serologic analysis of the mouse βchemokine JE / monocyte chemoattractant protein-1. J. Immunol. 153, 3708(1994)
5)Shibata, M. et al. Quantitative polymerase chain reaction using an external control mRNA for determination of gene expression in a heterogeneous cell pupulation. Toxcol. Sci. 49, 290-296(1999)