≪免疫毒性試験プロトコール 10≫

マウスを用いるPopliteal Lymph Node Assay (PLNA)


2000; 5(1), 12-14



間 哲生,木村 努
三共株式会社 安全性研究所

A. 解説

PLNAは,マウスまたはラットの膝窩リンパ節(PLN)における局所反応によって化合物の免疫毒性を検出する試験法である。足蹠皮下への投与によって免疫学的副作用 (自己 免疫・アレルギー) を誘発する多くの化合物がPLN細胞の増加を引き起こすことが知られている。また,投与が1回で済み,1週間程度で結果が得られる簡便さがPLNAの利点として挙げられる。

殆どの陽性化合物の場合,PLN細胞数のピークが投与6〜8日目であることから通常,投与7日目に判定を行う (図1)。評価の指標としては,PLN重量を基にしたWeight indexまたは細胞数を基にしたCellularity indexが主に用いられるが,一般にはCellularity indexの方が高感度である。ここでは,マウスを例にPLN cellularity indexを用いる評価法について述べる。



B. 実験材料等

1. 細胞浮遊液および洗浄液

1) 10%ウシ胎児血清 (FCS) 添加PRMI 1640 Medium
2) リン酸緩衝生理食塩液 (PBS, pH7.2〜7.4)

2. 実験器材

1) 24穴平底プレート (3047, FALCON)
2) 35×10mm culture dish (3002, FALCON)
3) セルストレイナー (2350, FALCON)
4) 血球計算盤あるいはセルカウンター

C. 実験操作手順

1.被験物質の投与

  1) 保定者はマウスの背側の皮膚をつかみ,投与者に腹側を向ける。

  2) 27G注射針の針先をマウス後肢のかかと側から挿入し,被験物質の溶液50μlを足蹠皮下へゆっくり注入する。片方の後肢には被験物質を投与し,もう一方の後肢は溶液 (50μl) 投与あるいは無処置として対照にする。 

2. 膝窩リンパ節 (PLN) の採材

1) 投与7日目に頸椎脱臼によりマウスを安楽死させ,すぐにハサミで腋下静脈を切断して放血する。 

2) 背側を上に向け,後肢のかかと裏から,肢と平行にハサミを入れ,皮にV字型に3mm程度の切れ込みを入れる (図2-1)。

3) 切れ込み部分の皮をつかんで,皮膚を裏返すように,尻部へ向けて皮をはがす (図2-2)。

4) 膝関節を伸ばすと膝部の窪みからPLNが露出するので,先曲りピンセットで,つまむようにして取り出す (図2-3)。うまく露出しないときは,有鈎ピンセットでPLN周辺の組織を切開して取り出す。なお,採材後のPLNに余分な脂肪や筋肉組織が付着している場合があるので,それらをピンセットで丁寧に取り除きPBSですすぐ。




3.細胞浮遊液の調製およびセルカウント

1) 24穴プレートの各穴に,あらかじめ10%FCS-RPMI液を500μlずつ入れておく。

2) 採材したPLNを個別に,各穴に入れ,ディスポーザブル注射筒 (1ml) のピストン部分を用いて,よくPLNを押しつぶす。

3) 浮遊液をセルストレイナーに通して濾過し,35×10mm culture dishへ移す。この際,細胞のロスが出ないように移した後の穴を10%FCS-RPMI液 (500μl) で2回程度洗い,それらをセルストレイナーを通してculture dishへ移すとよい。

4) 得られた個別の細胞浮遊液を適宜希釈して,血球計算盤またはセルカウンターで細胞濃度を測定し,PLN 1個当りの細胞数を算出する。
 
 4.判定

   得られたPLN細胞数から,個体毎に,以下のPLN cellularity indexを算出する。
            
PLN cellularity index = 
  [被験物質投与側のPLN総細胞数]/[溶媒投与 (または無処置) 側のPLN総細胞数]


 投与群の平均index 2以上が陽性判定の目安となっている。また,溶媒のみを投与した対照群とindexを比較して有意差の有無を検討することも重要である。

 陽性反応が得られた場合,フローサイトメトリーによるリンパ球解析を行い,投与により増加した細胞群を同定することは,結果を考察する上で意義があると思われる。フローサイトメトリーの手法については,ImmunoTox Letter Vol.4 No.1 (1999).「免疫毒性試験プロトコール」第1回Aラットリンパ組織および末梢血白血球のフローサイトメトリー (中村和市著) を参考にされたい。

D. 留意事項

1. 膝窩リンパ節の位置を確認しづらい場合は,一度,被験物質の代わりに低濃度のエバンスブルー溶液などを足蹠に投与し,30分後に採材して要領をつかむとよい。

2. 被験物質の溶媒としては可溶な場合は生理食塩液を,不溶な場合はdimethyl sulfoxide (DMSO) を用いるのが一般的である。しかし,DMSOは単独で,非特異的な細胞増加を起こすので,使用する際には50%以下の濃度に抑えるのがよい。この場合,被験物質を投与しない側の足は無処置としてindexを算出し,片足にDMSOを単独投与した対照群とindexを比較して判定する。

E. 参考文献

1. Bloksma, N., Kubicka-Muranyi, M., Schuppe, H.C., Gleichmann, E. and Gleichmann, H. (1995) Predictive immunotoxicological test systems: Suitability of the popliteal lymph node assay in mice and rats. Crit. Rev. Toxicol. 25, 369-396
2. Descotes, J. (1992) The popliteal lymph node assay: A tool for studying the mechanisms of drug-induced autoimmune disorder. Toxicol. Lett., 64/65, 101-107.
3. Kamm?ller, M.E., Thomas, C., De Bakker, J.M., Bloksma, N. and Seinen, W. (1989) The popliteal lymph node assay in mice to screen for the immune disregulating potential of chemicals - A preliminary study. Int. J. Immunopharmacol. 11, 293-300
4. Hurtenbach, U., Gleichmann, H., Nagata, N. and Gleichmann, E. (1987) Immunity to D-penicillamine: genetic, cellular, and chemical requirements for induction of popliteal lymph node enlargement in the mouse. J. Immunol. 139, 411-416
5. Aida, T., Kimura, T., Ishikawa, N. and Shinkai, K. (1998) Evaluation of allergenic potential of low-molecular compounds by mouse popliteal lymph node assay. J. Toxicol. Sci. 23, 425-432
6. Shinkai, K., Nakamura, K., Tsutsui, N., Kuninishi, Y., Iwaki, Y., Nishida, H., Suzuki, R., Vohr, H.W., Takahashi, M., Takahashi, K., Kamimura, Y. and Maki, E. (1998) Mouse popliteal lymph node assay for assessment of allergic and autoimmunity-inducing potentials of low-molecular-weight drugs. J. Toxicol. Sci. 24, 95-102