≪免疫毒性試験プロトコール 9≫

Local Lymph Node Assay


2000; 5(1), 10-12


畑尾 正人
株式会社資生堂 基盤研究センター 薬剤開発研究所

A. 解説

 Local Lymph Node Assayはマウスを用いた接触感作性試験法で,感作誘導時のリンパ節細胞の抗原特異的な増殖反応を評価する方法である。Kimberらによって1989年に発表されて以来,様々な検討がなされてきた (1,2)。その後,1992年にOECDガイドラインにマウスを用いたスクリーニング方法として収載されたが (3),1998年には米国National Institute of Environmental Health Sciences (NIEHS) / National Institute of HealthのNational Toxicology Program主催で科学的妥当性評価会議が行われた結果,スクリーニング試験としてではなく独立の感作性試験 (Hazard Identification Test) としての評価を得るに至った (4)

 Local Lymph Node Assayは従来の感作性試験であるGuinea Pig Maximization Testと比較して,試験期間が短い,3H-thymidineの取り込みにより定量的なデータが得られる,着色性の化学物質に対して適用できる,動物に対する負荷が低い等の長所がある一方で,放射性同位体の使用,感度がやや低い,交差反応を評価できない等の短所がある (5)。放射性化合物により汚染された動物の廃棄の問題から,ex vivoでの方法やサイトカイン産生を評価する等の他のend pointを用いた方法が提案されているが (6,7,8),公式に認められている方法はin vivoでの増殖活性を評価するLocal Lymph Node Asssayだけである。

 本標準試験法は1998年の前記会議にて評価パネル (Peer Review Panel) により合意が得られた条件を基本として作成したものである (4)

B. 実験材料

1. 動物

   試験に用いられるマウスは原著では雌のCBA/CaあるいはCBA/J系統のものが使用 されている。他の系統のマウスあるいは雄のマウスについては総合的な検討がなされて系統差,雌雄差がないことが確認されるまでは用いない。動物は個体識別ができるように飼育し,試験開始時および終了時に体重を測定する。
 
2. 試薬

1) 溶媒

溶媒として用いられる例を以下に示す。アセトン/オリーブオイル4:1(v/v),アセトン,メチルエチルケトン,メチルエチルケトン/パラフィンオイル4:1(v/v),ジメチルスルフォキサイド,N,Nジメチルホルムアミド,プロピレングリコール,生理食塩水,50%アセトン生理食塩水。

2) 放射性化合物

3H-methyl thymidineはPBSにて80Ci/mLの濃度に使用時に調製する。希釈後の
濃度についてはβ-シンチレーションカウンターにより確認する。

3) その他

リン酸緩衝生理食塩水 (PBS),トリクロロ酢酸 (TCA),シンチレーションカクテル

C. 実験操作手順

1. 実験デザイン

 第1日:被検物質溶液を調製し,マウス両耳介に適量を塗布する。
 第2日:被検物質溶液を調製し,マウス両耳介に適量を塗布する。
 第3日:被検物質溶液を調製し,マウス両耳介に適量を塗布する。
 第5日:3H-methyl thymidine溶液250μLをマウス尾静脈から投与し,5時間後にマウスをCO2により屠殺,耳介リンパ節を切除する。マウスごとにリンパ節細胞の単細胞浮遊液を調製,トリクロロ酢酸を添加し,終夜でインキュベートを行う。
 第6日:リンパ節細胞を回収し,β-シンチレーションカウンターにて放射活性を測定する。

2. 被検物質の調製と塗布

・被検物質の溶解性によって適切な溶媒を選択し,以下に示す濃度域の3ないし5連続濃度域について被検物質溶液を調製する。

100%,50%,25%,10%,5%,2.5%,1.0%,0.5%,0.25%,0.1%

 最大濃度は溶解度および刺激性を考慮して,刺激性がなく,毒性を示さない最大濃度を用いることが望ましい。刺激物質は擬陽性を生じる可能性があり,毒性を示す物質は擬陰性を生じる可能性がある。被検物質の調製については使用時に調製することが望ましいが,安定性の良好で溶解性も良好な物質についてはその限りではない。また,溶解の際の熱処理についても熱安定性を考慮する必要がある。

・ 被検物質溶液および溶媒対照は片耳あたり25μLを両耳の耳介の背側に1日1回の頻度で塗布する。使用する動物数は統計処理が可能となるよう3匹以上とする。

3. 細胞浮遊液の調製

切除したリンパ節はプランジャーを用いてPBS中に懸濁させた後にステンレスゲージ (200 mesh) を通して単細胞浮遊液にする。細胞浮遊液はPBSを加えて,4℃,10分間,190gで遠心処理を行う操作を2回繰り返して洗浄する。その後,高分子を沈殿させるため,5%トリクロロ酢酸を3mL加えて4℃で終夜インキュベートする。インキュベートの終わった細胞浮遊液は4℃,10分間,190gで遠心処理を行って回収し,再度5%トリクロロ酢酸1mLに再懸濁させた後,放射活性の測定を行う。

4. 放射活性の測定

再懸濁させた細胞浮遊液をシンチレーションバイアルに移した後,10mLのシンチレーションカクテル (Optiphase mp) を加え,約30分後にβ-シンチレーションカウンターで放射活性を測定する。

D. データ処理

 データ処理についてはマウスの個体ごとに測定した放射活性データの統計処理を行い,有意差検定を行う。感作性の基準としては被検物質の誘導する放射活性が溶媒対照の3倍以上のもの (SI≧3) を陽性とするが,放射活性の被検物質濃度依存性も考慮にいれる。

E. 留意事項

 1.NIEHS科学的妥当性評価会議での合意事項
  ・ マウスは雌のCBA系統を用いる。
  ・ 動物は個体識別ができるようにしておく。
  ・ 試験の開始前後で体重を測定する。
  ・ リンパ球の増殖活性は個体ごとに測定する。
  ・ 統計解析を行う。
  ・ 中程度の感作性を示す物質を陽性対照として用いる。
  ・ 増殖性の評価には3H-methyl thymidineまたは125I-iododeoxyuridineを用いる。
  ・ 判定基準は被検物質の示す放射活性が溶媒対照の3倍以上 (SI≧3),統計的有意差
被検物質の濃度依存性を考慮する。
・ 被検物質投与部位から考えた,採取すべき所属リンパ節の説明図をプロトコールに加える。

 2. 操作上の留意点
  ・ 放射性化合物および放射性化合物に汚染された動物,器具等については安全性に留意
    して取り扱い,法的に定められた方法により処理を行う。
  ・ トリクロロ酢酸は危険物であるため,取り扱いには防護具を使用する。

F. 参考文献

 1. Kimber, I., Hilton, J. and Weisenberger, C., The murine local lymph node assay for
identification of contact allergens: A preliminary evaluation of in situ measurement of lymphocyte proliferation. Contact Dermatitis, 21, 215-220 (1989)

2. Basketter, D. A., Roberts, D. W., Cronin, M. and Scholes, E. W., Comparison of the local lymph node assay with the guinea pig maximization test for the detection of a range of contact allergens. Fd. Chem. Toxicol., 30, 65-69 (1992)

3. OECD Guideline for Testing of Chemicals No. 406, Skin Sensitization, Adopted by the Council on 17th July 1992, Organization for Economic Cooperation and Development, Paris (1992)

4. The Murine Local Lymph Node Assay: A test Method for Assessing the Allergic Contact Dermatitis Potential of Chemicals / Compounds. NIH publication No.99-4494 (1999)

5. 畑尾正人 感作性試験. Altern. Animal Test. Experiment. 5, 284-290 (1998)

6. Hatao, M., Hariya, T., Katsumura, Y. and Kato, S., A modification of the local lymph node assay for contact allergenicity screening: measurement of interleukin-2 as an alternative to radioisotope-dependent proliferation assay. Toxicol. 98, 15-22 (1995)

7. Hariya, T., Hatao, M. and Ichikawa, H., Development of a non-radioactive endpoint in a modified local lymph node assay. Fd. Chem. Toxicol. 37, 87-93 (1998)

8. Shibata, M., Hariya, T., Hatao, M., Ashikaga, T. and Ichikawa, H., Quantitative polymerase chain reaction using an external control mRNA for determination of gene expression in a heterogeneous cell population. Toxicol. Sci. 49, 290-296 (1999)