≪免疫毒性試験プロトコール 8≫
モルモットMaximization Test
2000; 5(1), 7-10
金澤 由基子
(財)食品薬品安全センター秦野研究所 安全性試験室
A. 解説
モルモットを用いる皮膚感作性試験として,最も広く行われている方法がMagnusson and Kligmanによって開発されたMaximization testである1)。この試験方法は,動物を用いた遅延型アレルギー反応を調べるものとして,国内「医薬品毒性試験法ガイドライン」2),「医療用具及び医用材料の基礎的な生物学的試験のガイドライン」3)や,ISO基準「医用材料の生物学的評価」(10993-10) 4)等に掲載されている。
ガイドラインによって投与検体の調製法などに違いがあるが,ここでは,医薬品ガイドラインの内容を基本に置いて述べる。
B. 実験材料等
1. 動物
通常500g以下の健康な若齢白色モルモット (1〜3ヶ月齢) が用いられる。雌雄どちらでも使用可能であるが,雌を使用する場合は,妊娠していない未経産のものを用いる。
2. 動物数
通常,被験物質投与群に10匹,陰性 (溶媒) 対照群に5匹用意する。国内の申請資料として用いる場合には,陽性対照群
(5匹) を設定する必要がある。
3. 陽性対照物質
陽性対照物質として,次のような物質が用いられている。
1-chloro-2,4-dinitrobenzene (DNCB, CAS No.97-00-7),potassium di-chromate
(CAS No.7778-50-9),p-phenylenediamine (CAS No.106-50-3),neomycin culfate
(CAS No. 1405-10-3),nickel sulfate (CAS No. 7786-81-4)。
4. 試薬
1) Freund's Complete Adjuvant (FCA)
2) 蒸留水 (局方注射用水)
3) 10%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)のワセリン軟膏:ワセリンを加温融解したところに1/10量(w/w)のSLSを加え,均一な軟膏とする。
4) 被験物質溶解用溶媒 (感作投与用と惹起投与用)
5. 器具
1) ルアーロック付きガラスシリンジ (10mL) をポリエチレンチューブでつないだもの:2組 あるいはホモジナイザー
2) 皮内投与用ガラスシリンジ (1〜2mL) およびディスポシリンジ
3) 感作貼付用パッチ:FRPフィルムなどで裏打ちしたろ紙 (約2×4cm) を動物数分
4) 惹起貼付用パッチ:FRPフィルムなどで裏打ちしたリント布( 約1.5×1.5cm) あるいはフィンチャンバー (内径8mm) を必要数
5) 粘着性伸縮包帯
6) 動物用バリカン
7) シェーバー
8) マイクロピペット,チップ
C. 実験操作手順
1.投与試験液の調製
1) 蒸留水とFCAとの1:1の油中水型(W/O)乳化物の作製
蒸留水を入れたガラスシリンジと等量のFCAを入れたガラスシリンジをフランジを介してポリエチレンチューブで接合し,一方から他方へ交互に混合液を往復させる操作を繰り返す。この操作により,液の粘稠度が高まり,内筒を押すのに抵抗が生じ,かつ液が白濁してくる。水に一滴たらして,拡散しなければ混和は完全である。ガラスシリンジの代わりにホモジナイザーを用いても良い。
2) 被験物質溶液を調製
予め被験物質を溶解するための溶媒を検討しておく。感作皮内投与のためには,蒸留水や生理食塩液,オリーブ油など刺激性の少ないものを,惹起投与のためには,揮発性が高く,かつ刺激性のない溶媒
(エタノール,アセトンなど) を選択する。溶媒には,それ自身が感作性を有するものもあるので,感作用と惹起用の溶媒は別種にした方が良い。予め予備試験を行い,それぞれの溶媒および投与経路において,被験物質溶液が刺激性を示さない最高濃度を調べておく。予備試験によって決定した濃度
(皮内投与によって刺激性を示さない最高濃度) の被験物質溶液を調製する。
3) 被験物質とFCAとの混合物の調製
2)で調製した被験物質溶液の2倍濃度の溶液とFCAの等量混合乳化物を調製する。2)の溶媒が水系でない場合には,単に混合しただけの均一な溶液のままでも良いが,その混合液に蒸留水を少し加えて,乳化物を作製しても良い。
2. 感作
1) 皮内投与の前日に肩甲骨上部皮膚の毛を刈っておく。2×4cmの区画を3つの部位
(図参照) に分け,下記に示した試験液をそれぞれ0.1mLずつ,左右対称に皮内投与する。
2) 感作皮内投与の7日後,あらかじめ剪毛および剃毛しておいた皮内投与部位に10%SLS軟膏を開放塗布する。翌日,SLSを拭き取った後,下記に示した試験液をそれぞれ0.2mLずつ,感作貼付用パッチおよび粘着性伸縮包帯を用いて48時間閉塞貼付する。
感作貼付用試験液 1) Aの溶液
3. 惹起
感作貼付開始日から2週間後に,あらかじめ剪毛および剃毛しておいた左右側腹部あるいは背部に,以下に示した試験液
(段階希釈溶液と溶媒対照) をそれぞれ0.1mLずつ惹起用パッチに吸収させて24時間閉塞あるいは開放適用する。
惹起用試験液
刺激性を示さない最高濃度から段階希釈した被験物質溶液および溶媒対照液
D. 評価
開放適用後,24時間および48時間,閉塞適用の場合は貼付物剥離後24時間および48時間における各塗布部位の皮膚反応を観察し,以下に示したDraizeの判定基準に基づいて判定する。
皮膚反応の分類
反 応 | 評点 |
紅斑および痂皮形成 | |
紅斑なし | 0 |
ごく軽度の紅斑 | 1 |
明らかな紅斑 | 2 |
中〜強度の紅斑 | 3 |
強い紅斑〜痂皮形成 | 4 |
浮腫形成 | |
浮腫なし | 0 |
ごく軽度の浮腫 | 1 |
明らかな浮腫 | 2 |
中等度の浮腫 | 3 |
強度の浮腫 | 4 |
各惹起濃度ごとに評点1以上を示した動物を陽性として,陽性率および平均評価点を次式から求める。
陽性率(%):(群の陽性動物数/群の動物数)×100
平均評価点:群の評点の合計/群の動物数
E. 留意事項
1. FCAと蒸留水との乳化物はできにくいので,最初に,FCAを必要量入れ,蒸留水をその2/3程度にして乳化を行うとしっかりした乳化物ができる。それに残りの蒸留水を加えて乳化すると比較的うまく調製できる。
2. FCAと被験物質溶液との混合物の調製では,水系溶媒でない場合に無理に水を加えて乳化させなくても,単に混合物の状態で皮内投与しても,感作性の強度に大きな差がないことを経験している。
3. 動物の毛刈りには,動物用バリカンを使用しているが,ヒト用でも問題ない。また,二次感作および惹起の際には,毛刈りに加え,シェーバーで剃毛しているが,脱毛剤で処理する場合もある。その場合は脱毛剤の刺激性や残留性に注意する。
4. 皮内投与の際,投与位置を一定にするために,10cm角の厚紙の中心を2×4cmに切り抜き,左右の縁にマジックインキで点
(6点) を打ったものを使用するのも一法である。
5. FCAの入っている試験液では,ディスポシリンジのゴムが劣化し,内筒が動かなくなるので,ガラスのシリンジを使用した方が良い。
6. 粘着性包帯はあまりきつく巻き過ぎると動物が呼吸困難となり,弱ってしまうことがあるので注意する。
7. 惹起適用において,背部を用いる場合,開放適用の方が閉塞適用より多くの適用部位を確保できるので開放適用の方が有用だと言われているが,両側腹部を用いると閉塞適用でも8点確保できる。開放適用より閉塞適用の方が反応が強く表れるので,皮膚感作性があるかどうかを調べるような試験では,閉塞適用の方が適していると思われる。
8. 惹起適用を開放で行う場合には,直径1.5cm程度のプラスチック製の円筒を検体数分用意し,スタンプインクで適用部位に丸い輪をスタンプしておく。その部位にマイクロピペットで0.05〜0.1mL塗布する。試験液が流れない様,円筒を当てたままで塗布しても良い。適用後,ドライヤーの冷風で乾燥させる。
9. 惹起後の判定では,伸びてくる毛が判定の障害となるので,赤くならない程度に適宜シェーバーをかける。
10. 評価には種々の考え方があるので,目的に応じた評価を行うことが望ましい。例えば,感作性の強度を他の物質と比較するためであれば,最低感作濃度を求めることが有用である。(最低感作濃度とは,感作濃度を多段階設定し,惹起濃度を一定にして実験を行い,陽性反応を示した最も低い感作濃度を意味する。)
しかし,そのためには,動物数が多大となることから,代わりに最低惹起濃度を求める方法がある。(最低惹起濃度とは,感作濃度を一定にし惹起濃度を多段階設定して実験を行い,陽性反応を示した最も低い惹起濃度を意味する。)
最低惹起濃度は最低感作濃度と必ずしも一致しないが,指標となり得る。また,平均評価点が1に近い値を示した惹起濃度を指標とすることもある。
被験物質を実際に使用する際に感作性を示すかどうかを調べるためであれば,実際の使用濃度一点での試験で十分である。
11. 陽性対照物質のDNCBを0.1%オリーブ油溶液で感作,0.1%エタノール溶液を閉塞適用で惹起したとき,惹起開始48時間目での判定では,陽性率100%,平均評価点4〜7を示した。
F. 参考文献
1. Magnusson, B. and Kligman, A.M.: The identification of contact allergens
by animal assay. The guinea pig maximization test. J. Invest. Derm. 52:
268-276 (1969)
2. 医薬品毒性試験法ガイドライン (1989) 薬審1第24号
3. 医療用具及び医用材料の基礎的な生物学的試験のガイドライン (1995) 薬機第99号
4. International Standard ISO 10993-10 (1995), Biological evaluation of medical devices- part 10: Tests for irritation and sensitization