ImmunoTox Letter

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Short talks on the shoulders of giants
Th2細胞とIgEの意外な関

黒田悦史
(医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センター)

黒田悦史先生
黒田悦史先生

 アレルギー関連の研究に従事している方の中には「Th2の応答は高いのにIgEが高くないな〜」とか、逆に「T細胞からの抗原特異的なIL-4はさほど高くないのにIgEが高いな〜」といった経験をお持ちの方も多いかと思います。出張中の飛行機の中でふとそういう経験を思い出し、このエッセイを書きはじめました。エッセイですので肩の力を抜いて気楽によんでいただければと思っています。浅い知識ではありますが、今回は濾胞ヘルパーT細胞(follicular helper T cell: Tfh cell)について思いのままに書いてみました。

 TfhはヘルパーT細胞のサブセットの一つであり、細胞表面マーカーとしてマウスではCXCR5およびPD-1が陽性であることが知られています。Tfhは他のヘルパーT細胞とは異なり、主にリンパ節の中のB細胞濾胞に存在しますが、これはTfh 上に発現しているCXCR5とケモカインであるCXCL13の相互作用によりTfhがB細胞濾胞に引き寄せられるためだと考えられています。B細胞濾胞においてTfhは胚中心(germinal center: GC)の形成やB細胞のクラススイッチなど、B細胞の活性化を補助する役割を担っています。ここまで書くとお気づきだと思いますが、私たちが教科書などで読んでいた「ヘルパーT細胞とB細胞が相互作用することでB細胞を活性化する」というのは実はTh1やTh2ではなくTfhであることが明らかになっています。実際にマウスにおいてTfhがB細胞活性化や抗体産生に重要であることが示されています。ヘルパーT細胞サブセットはそれぞれ特徴的な転写因子を発現しており、Th1ではT-bet、Th2ではGATA3などが知られています。Tfhは転写因子としてbcl-6を高発現しており、このbcl-6の作用で先に述べたCXCR5が誘導されると考えられています。そのためCD4+T細胞特異的にbcl-6を欠損(CD4-cre bcl-6flox/floxマウス)させることによりTfhが存在しないマウスを作成することができ、このマウスは抗原で免疫してもリンパ節内でGCが形成されないので、抗原特異的な抗体がほとんど誘導されないことが報告されています。
 さて、Tfhのもう一つの特徴としてIL-4とIL-21を産生することが報告されています。そうです、IL-4を産生するんです。IL-4やそのシグナル伝達体のSTAT6はTh2の分化やIgEの誘導に必須のサイトカインとして知られています。そのためIgEの誘導にはTh2の活性化によって産生されたIL-4が重要であると考えられておりました。そうなると、B細胞のクラススイッチ、特にIgEの誘導にはTfh由来のIL-4が関与するのか?はたまた、IL-4はこれまでの理論通りTh2細胞由来なのか?という疑問が湧いてくるわけです。この答えとなる(私にとって)衝撃的な論文が2012年に2報同時に発表されました(参考文献1, 2)。これらの論文では、Th2由来のIL-4は正常に誘導されるがTfhではIL-4が誘導されないマウスが作成され、そのマウスではIgE抗体が低下することが示されました。すなわち、IgEのクラススイッチで重要なのはTfh由来のIL-4であること示しているのです。更に非常に興味深いのはTfhを欠損したマウスでもTh2は正常なので、IL-5依存性の好酸球性炎症は正常に起こることも示されています。私たちの実験でもTfh欠損マウスではIgEやIgG1の抗体価は低下しますが、リンパ節や脾臓の抗原特異的なT細胞由来IL-5やIL-13は正常であることを観察しており、Th2応答とIgE誘導とは全く別経路なんだな〜と改めて実感しています。

 「いやいや、そもそもTfhはIL-4を誘導するわけだから、Th2から分化誘導されてるんじゃないの?だったらある意味Tfh=Th2だよね?」と皆さんからの質問メールが送られてくるような気がします。当然の疑問です。これまではTfhはナイーブT細胞から誘導されてくると考えられていましたが、Th2をT細胞欠損マウスに移入することでIgEが誘導されるという報告も存在するため、一概にTh2がTfhのソースになっていることは否定できません。しかしながら一方で、Th2分化に障害があるOX40リガンド欠損マウスではアレルゲンによるTh2応答は減弱するものの、IgE誘導は正常であることが示されており、必ずしもTfhがTh2由来ではないことも示唆されています。このあたりは今後も詳細に調べられていくと思います。

 研究をやっていると、自分の専門分野において衝撃的な研究報告がオリンピックのように4年に一回ぐらいの頻度(もっと高頻度?)で見受けられます。最近ではリンパ濾胞に存在する制御性T細胞である濾胞制御性T細胞(follicular regulatory T cell: Tfr)がIgEの誘導に深く関与することも示されて衝撃を受けました(参考文献3)。リンパ濾胞に存在するマイナーポピュレーションの解析など細かいこともやっていかないとな〜。。。と老眼が入りかけた目で奮闘する毎日です。