immunotoxicology.jpg
title1.jpg
Non-category (寄稿・挨拶・随想・その他)
毒性学研究と学会活動
平野 靖史郎
(国立環境研究所環境リスク研究センター)

理事就任に当ってニュースレターに寄稿するようにとの学会事務局からの依頼があり、「微力ながら学会の発展のため努力させていただく所存」的に書こうかと思ったが、もともと襟を正す感覚に乏しい人格なので、本稿では、日本免疫毒性学会だけでなく毒性学分野が関係している学会に関して、最近感じていることを雑感として書かせてもらうことにしたい。

免疫毒性学会がスタートした頃は、炎症性サイトカインを測定することが毒性学分野ではまだ斬新に感じられる時代で、ELISA キットも高くサイトカインの測定にも労を要していたと思う。筆者も、好中球浸潤の研究に関連して、血清中TNFα濃度をL-N細胞を用いたバイオアッセイ法によって定量し、その結果を本学会で発表してから論文にまとめた記憶がある(Am. J. Physiol., 270,L836-L845, 1996)。その後は当学会にほとんど貢献していないので少し心苦しいが、免疫毒性学会スタート当時の研究活動をすこし振り返ってみたい。その頃、自分の師・上司の年代に当たる戦中・戦後生まれの先生方はまだ現役最中であったが、私にはこの年代の研究者はおよそ異次元の存在に見えたし、今もまだそのように感じている。それは、この世代の研究者が経済的にも厳しい少年少女時代を過ごし、学生運動の中で青春時代を過ごしてきた闘志を持ち合わせていたからだと考えている。また、自分自身この世代の方々に多々薫陶をうけたことを、今更ながらとても感謝している。しかし、「学会に参加する前に、必ず発表内容を論文として投稿しなさい」と教えられてきたはずが、ほとんど実行してこなかった。論文を投稿してからとなると、学会発表に出かけるまでのハードルはかなり高くなってしまう。学会発表を、若い人あるいは大学院生の発表練習の場と考える向きもあるので、ハードルを高くすることが適切であるかどうか分からない。

近年は、学会参加のエントリー数も減少気味で、演題募集の締切りも延長するのが当たり前になった。したがって、期限までに演題登録を完了しなければいけないといった緊迫感も希薄になりつつある。また、どの学会も若手不足で、奨励賞をはじめとしたご褒美を用意して、若手研究者を繋ぎ止めるのに懸命の努力をしているようにも見える。一般演題に、新しくかつ面白い研究成果が多く集まらない学会あるいは研究会では、議論も熱くならないであろうし、また若く優秀な研究者も残ってくれないであろう。若手の活性化だけでなく、シニアの賦活化も併せて必要な時代になったのかも知れない。

 
index_footer.jpg