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新理事就任にあたって
木 邦明
(静岡県立大学薬学部衛生分子毒性学)

 2010年10月より、日本免疫毒性学会理事を仰せつかりました静岡県立大学の木 邦明と申します。このたび、ご推薦頂きました諸先生に深く感謝申し上げます。微力ではございますが、本学会の発展のために尽力したいと考えております。よろしく御願い致します。

 はじめに、自己紹介をさせていただきます。私の免疫との関わりは、卒業研究が「ホスホリパーゼA2インヒビターの免疫化学的解析」というテーマからでした。今でいうところのアネキシン(リポコルチン)を牛血清から精製後、ウサギ抗血清を作製し、免疫電気泳動他で分析していました。修士では、「糖脂質に対する抗体の特異性を改善するアフィニティークロマト法の開発と、各種抗糖脂質抗体によるマクロファージの分化段階解析」がテーマでした。当時(1979-1981年頃) はBAT(Brain Associated T cell)抗原研究の流れから、NK細胞のマーカーとしてシアル酸含有糖脂質を脱シアル化したGA1が注目される時期でした。修士修了後、モノクロナール抗体の作製やハプテンーキャリアをin vitro T-B co-cultureで解析する手法などを、東大医学部血清学教室で修得しました。博士課程は、京大胸部疾患研究所でマクロファージ系細胞の分化をテーマに、マクロファージの動的機能発現で関与する分子として、新たなアクチンゲル化因子(リポコルチン)を単離し特異抗体調整後、免疫電顕等で解析しました。

 免疫と環境や毒性との関係は、1986年に静岡薬科大学産業衛生学教室に移ってからとなります。当初、鉛や窒素酸化物によるマウス抗体産生系やマクロファージへの毒性発現などを分析していました。しかし、その過程でin vitro secondary の抗体産生時にマクロファージが一酸化窒素(NO)産生することを発見し、免疫応答系での自己産生窒素酸化物の影響等も研究対象としました。また、この時期からモノクロナール抗体だけでなく遺伝子組み換え抗体作成も着手し、ファージ抗体やファージペプチド調整などを行ってきました。

 一方、1993年に静岡県から海洋深層水とアトピー性皮膚炎の関係についての研究依頼があり、海水の深度に伴うエンドトキンの分布変化を報告しました。手法としては、先ずマクロファージによるバイオアッセイとポリミキシンBによるアフィニティーブロッティング法を使い、深度に伴ってエンドトキシンの糖鎖が短くなることを糖分析とLipid-AのWesternblottingで解析しました。しかし、海洋療法のような自然療法によるアトピー性皮膚炎の症状改善には、メンタルの部分が大きく関与することから、1996年からはストレス評価系の研究も手懸けてきました。

 以上のように、的を絞れず雑駁に研究してきた私ですが、2004年からは研究対象をヒトだけに限定し、ホメオスタシスの変調を検出できる新たな免疫指標の確立をテーマに研究を進めてきています。被験者を一般公募しての介入試験のため、毒性試験のようにマイナス要因を負荷することができず、被験者にとってプラス要因の体験を課し、その前後で唾液を中心に母乳、血液、頸管粘液等の体液の各種物質を分析します。そのため毒性発現というより、心的に好適環境下に移行させた時の免疫指標の変化となりますので、免疫毒性学会ではpsychoimmunologyはマイナーな発表となるかも知れません。しかし、2005年にCohen博士はアメリカではneuroendocrine-immunologyが活発に研究されていることを講演され、また、澤田理事長の「本学会は多彩な分野の対象物質に関する免疫毒性を広い領域に亘る研究者が参加して議論しうる特色ある学術団体であります。」という御挨拶を胸に刻んで、今後も、環境健康影響の予防・軽減・治療への応用をめざし、研究、教育、社会活動等を進めていく所存です。今後とも日本免疫毒性学会の諸先生方の御指導、御鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。
 
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