immunotoxicology.jpg
title1.jpg
Non-category (寄稿・挨拶・随想・その他)
医薬品のヒトにおける副作用発現予測と試験系の開発を目指して
斎藤 嘉朗
(国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部部長)

 2010年10月より、評議員を拝命致しました。ご推挙賜りました川崎医科大学・大槻剛巳先生および国立衛研・中村亮介先生にまず感謝申し上げたく存じます。微力ではございますが、本学会の発展のために尽力したいと考えております。

 小生は九州大学大学院薬学研究科(修士課程)を卒業し、国立衛生試験所(現・国立医薬品食品衛生研究所)の放射線化学部(寺尾允男部長)に採用されました。厚生労働省における1ヶ月の研修から戻ってきますと部名が機能生化学部に代わり、また翌年度には澤田純一先生(現・学会理事長)が部長に就任されました。大学時代の専門は生化学・電気生理学であり、免疫学に関しては全くの素人でありましたが、澤田先生の部下として20年間お世話になり、また同じ部の手島玲子先生(現・学会理事)の文献紹介・セミナー発表などを伺うにつれ、門前の小僧の様に、免疫毒性に関する知識と興味が増えて参りました。

 現在、所属する医薬安全科学部は、医薬品の臨床試験および市販後において、ヒトに発現する副作用に関する調査・研究を行っております。医薬品の副作用には、その薬理作用に基づくものと基づかないものがあり、後者は、発生頻度は非常に低いものの、予測が難しく重篤化しやすいことから問題となっています。この後者に関しては、免疫系が関与するケースが多いとも言われています。私共は4年前からは重篤な医薬品による副作用である重症薬疹「スティーブンス・ジョンソン症候群」および「中毒性表皮壊死症」を発症した症例のゲノムDNAを収集し、発症と相関する遺伝子多型・HLA型の探索を行っています。既に高尿酸血症薬アロプリノールおよび抗てんかん薬カルバマゼピンによる発症と相関するHLA型として、HLA-B*5801とHLA-B*1511をそれぞれ同定しており、本学会第15回大会の奨励賞も頂きました。重症薬疹の発症メカニズムは、いまだ不明でありますが、このような相関の発見は、メカニズムの一端を明らかにするものであり、これを手掛かりとして発現メカニズムの解明につながる研究を行いたいと考えております。上記HLA型と発症との相関は完全ではなく、HLA型の他、発現に至るメカニズム中に、発症の有無の個人差に関与する因子が存在すると推測しております。その因子の発見はヒトにおける重症薬疹の発症予測に必須であると確信しておりますので、是非解明を進めたいと存じます。この他、薬物性肝障害に関しても、発症例の約半数はアレルギー性と考えられており、発症と相関する遺伝子多型・HLA型の探索や発症機構の解明を進めたいと考えております。

 また医薬品に関しては、ヒトに投与する段階である臨床試験以後に重篤な副作用を起こして開発中止や市販後の撤退に至らぬよう、前臨床試験段階で可能な限り副作用を予測しうる試験系を開発することが重要です。上記、重症薬疹研究もその一環ですが、この他、最近、バイオ医薬品の免疫原性やインフュージョン反応等にも注目しております。抗体医薬品等のバイオ医薬品は今後もそのシェアを伸ばすと考えられていますが、化学医薬品と異なり、品質を完全に一様にすることは困難な場合があります。また高分子量であることから、品質不良がそのままIgE抗体の産生など副作用発現につながる懸念もあります。一方で、アミノ酸配列等はヒト化しているため、動物実験においてヒトにおける反応を予測できない場合も多く、TGN1412のように、ヒトに投与されて初めて重篤な反応が認められるケースもあります。このようなバイオ医薬品の免疫原性やインフュージョン反応等の予測には、ヒト細胞を用いたin vitro試験が有用と考えており、是非、研究を進めて行きたいと存じます。

 以上のように、ヒトに投与する際に問題となる医薬品の副作用には、免疫系が関与している場合があり、その予測には免疫毒性学分野のさらなる発展が重要であることは言うまでもなく、本学会が果たす役割は大きいと考えます。本学会の発展に少しでも貢献できますよう努力して参りますので、皆様のご指導・ご鞭撻を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
 
index_footer.jpg