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第48回SOTにシンポジウムチェアパーソンとして参加して
野原恵子
(独立行政法人 国立環境研究所)

 米国東海岸のBaltimoreで2009年3月15日から19日まで開催されたSociety of Toxicology (SOT)の年会に参加してきました。今年も大変に盛会で、参加登録者が6750人、セッションの数が190、発表が2300件以上あったということです。今回は、SOTの免疫毒性分科会との交流の一環として、日本免疫毒性学会(本会)からの派遣者がシンポジウムの企画に参加するという試みが行われましたので、その経過についてご報告したいと思います。

 本会では、2005年からSOT免疫毒性分科会との交流がすすめられてきました。毎年SOT年会の時に開かれる免疫毒性分科会総会で、2006年3月に中村和市先生(塩野義製薬)が本会からの派遣者としてはじめてスピーチをされ、また2008年3月には香山不二雄先生(自治医科大学)が本会の歴史についてプレゼンをされています。お二人とも英語が非常に堪能で、それは堂々とした立派な発表をされました。私が中村先生から本会からの派遣者に推薦していただいた時には、免疫毒性分科会でのスピーチは2年に1回なので2009年にはスピーチはしなくていい、という暗黙の了解( ? )があったように思います。がその後になって、当時の分科会長で2005年に本会の東京での年会に参加されたDr Mitchell Cohen(New York University) の取り計らいで、本会からの派遣者を免疫毒性分科会プログラム委員会のメンバーとしてプログラム作りにも参加させる、ということが試みられることになったようです。
 プログラム作りに関する具体的な活動は、2007年10月から始まりました。免疫毒性分科会プログラム委員会が2009年年会プログラム案の募集をアナウンスしたのです。そこで何かをださなくてはと思いセッションのタイトルを考えて、プログラム委員長のDr Jean Regal(Minnesota University)に送りました。ちなみにDr Regalは本会の招へいで2006年の倉敷の年会に参加されています。するとDr Regalから助言があり、もう一人のチェアパーソンを決め、セッション要旨を作り、同時に演者を決める、というプロセスを進行することになりました。今回私の場合は、ダイオキシンの免疫毒性研究の第一人者であるDr Nancy Kerkvliet(Oregon State University)にチェアパーソンを引き受けていただくことができ、2008年2月の初めまでに提案の原案を完成させました。これらの提案は事前にメールでプログラム委員会メンバーに回覧され、意見交換や提案の修正依頼などがありました。私たちのセッションではその間に予定した演者に接触をはかって講演を依頼し、2月末までに要旨を提出してもらって提案の形を整え、そして2008年3月のSeattle年会での免疫毒性分科会プログラム委員会に臨むことになりました。
 Seattleのプログラム委員会では、まず提案について話し合いが行われるのかと思っていたところ、部屋に入るとDr Regalからシンポジウム7件の提案のタイトルを書いた紙を渡されました。そこに順位をつけるようにということで、委員たちもさっさと順位をつけ、順位が集計されました。私たちの提案タイトルには、2009年年会の主要テーマの一つであるエピジェネティクスというキーワードが入っていて、Dr Regalにもそれを前面に押し出して利用するようにといわれており、その甲斐あってか、結果的に免疫毒性分科会でシンポジウムの提案として一番に推薦をしてもらえることになりました。その後メカニズム分科会と分子生物学分科会の協賛もとりつけ、4月末にSOT本部のプログラム委員会に提案を送り、2008年10月中旬に正式採択となりました。
 この間、中村先生、Dr. Cohen, Dr. Regalをはじめとした人たちの励ましがあり、シンポジウムにたどりつくことができました。演者探しが難航しそうになり、年度末の各種締め切りにも追われて提案を取り下げたほうがいいかとも思い中村先生にメールをしてみると、絶対にやるべき、との予想外に熱いお返事をいただき、中村先生のこの交流に対する思い入れを感じたこともありました。また、Dr. CohenやDr. Regalは大変にめんどうみがよく、特にDr. Cohenには昔の日本人のようなめんどうみのよさを感じました。また演者への依頼では、依頼から要旨の締め切りまで一週間しか時間がなかったにもかかわらず、お願いした全員がすぐに快諾して期限内に要旨を送ってもらうことができ、SOTが優先度の高い学会として位置づけられているように感じました。

 さて私たちのシンポジウムは“Transcriptional changes in immunotoxicology: Transcription factors, signal transduction and epigenetics”というタイトルで、3月18日の午前に行われました。Dr Kerkvlietのセッション紹介の後、野原, Dr. Scott. Burchiel (The University of New Mexico), Dr Marc Pallardy (University Paris), Dr B. Paige Lawrence (University of Rochester), Rachel Miller (Columbia University) の順で免疫系に特徴的な転写因子やシグナルトランスダクション、またエピジェネティクスを介した作用メカニズムについて発表を行いました。ちょうど同じ時間にもう一つ免疫毒性分科会から提案されたシンポジウムが行われており、私たちのセッションの聴衆は100名くらいでしたが、演者は熱演し、また活発な質疑応答が行われました。私の質疑応答の時には、あなたの質問は---ということですか?と質問者に英語の確認をしていると、前の席でDr Burchielがそうだ、そうだ、と大きく首をふって合図を送ってくれたり、熱心な雰囲気の中にもなごやかにセッションは進行しました。会の終了後、話したことのない研究者からよいシンポジウムだったと声をかけられた時には、アメリカの通常のあいさつだったのかもしれませんが、そのようなあいさつがとてもよいものに感じられました。

 今回のシンポジウムは、大沢基保先生の理事長時代から進めてこられたSOT免疫毒性部会との交流が形となった成果のひとつと思います。また来年は、大槻剛己先生(川崎医科大学)がSalt Lake CityでのSOT年会でシンポジウムのチェアパーソンをされる予定となり、このような活動が続いていく道筋ができそうな見通しとなりました。私の場合はチェアパーソンをするだけで精いっぱいだったのですが、ゆくゆくは本会が学会として取り組む課題を提案したりすることによって、さらに交流が会員の身近なものになればと思います。

 なお、今回のSOT年会全体の様子に関しては、大槻先生が本会のホームページにエッセイと写真を掲載されていますので、どうぞご参照ください。


図1. シンポジウムが終了して. 左から Dr. Kerkvliet,
Dr. Miller, Dr. Burchiel, Dr. Lawrence, 野原, Dr.Pallardy.


図2. SOT免疫毒性分科会で. 左から 香山先生, 大槻先生,
Dr. Regal, Dr. Cohen, 野原
 
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