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J. Immunotoxicology編集長Michel Cohen博士を学術大会にお迎えして


2005; 10(2), 9-10


野原恵子
独立行政法人国立環境研究所

Journal of Immunotoxicologyの編集長でニューヨーク大学医学部Assistant ProfessorであるMichel Cohen博士が,雑誌を広く知ってもらうために来日され9月の本学会学術大会に参加されました。Cohen博士は日本の免疫毒性学会にあたると考えられる米国毒性学会(SOT) Immunotoxicology Specialty Section (免疫毒性専門部会,IMTOX SS)のVice Presidentでもあり,来年5月からはPresidentに就任されます。 

Journal of Immunotoxicologyは,免疫毒性学分野がこの10年間に急速に発展したのにも関わらず免疫毒性学専門の雑誌がなかったという問題を解消するために,Cohen博士が編集長となって2004年1月に刊行されました。日本からも本学会会員である中村和市博士(塩野義製薬)がAssociate Editorに,また吉田貴彦(旭川医科大学),海老野耕一(残留農薬研究所)両博士と筆者,学会員以外で原田喜男博士(ハラダアソシエーツ)がEditorial Boardメンバーになっています。日本の免疫毒性研究の論文投稿と日本での定期購読を増やすためにCohen博士が本学会に参加されることになり,学会長の大沢先生のお取りはからいで“Trends in Immunotoxicology Research in USA” というCohen博士の講演が実現しました。 



以下にその講演の概要と,博士にお聞きしたIMTOX SSの活動状況をお知らせします。

米国での免疫毒性研究の動向−講演のあらすじ 

Cohen博士ははじめに,この学術大会に出席して米国でも日本でも同じようなトピックスが研究されていることがわかって興味深かかったと前置きをされて,現在米国で活発に研究されている分野を紹介されました。論文数や2002年から2005年に開かれた学会数をもとにして選んだという分野は,1)Developmental Immunotoxicology,2)代替動物種の使用,3)ナノテク・ナノ粒子,4)ワクチン,5)Neuroimmunology/ Neuro-endocrine-immunology,6)たんぱく質治療,7)Local Lymph Node Assay,8)Altered Iron Homeostasis (AIH),9)ゲノミクス・プロテオミクス・マイクロアレイの利用,の9つでした。 

1)のDevelopmental Immunotoxicologyに関連する因子としては喫煙,ダイオキシン,塩化水銀,鉛,diethylstilbestrolについての研究が,3)ナノテク・ナノ粒子では核酸由来のナノ粒子,インフルエンザウイルス抗原やアレルゲンを付加したナノ粒子,セラミックや金属性のナノ粒子の免疫系への影響に関する研究が紹介されました。6)たんぱく質治療では,治療に用いるたんぱく質の抗原性を低下させることが課題であり,またCohen博士の専門分野である金属の吸入毒性に関連して,8)のAIHが粒子状物質の吸入毒性の原因となるという研究等が紹介されました。これらの研究の中で将来免疫毒性研究のトレンドとなるものとしてCohen博士がピックアップしたのは,1)Developmental Immunotoxicology,3)ナノテク・ナノ粒子,4 /6)ワクチン・たんぱく質治療,8)AIH,9)ゲノミクス・プロテオミクス・マイクロアレイの利用,でした。 

そして最後に,Journal of Immunotoxicologyの表紙に「日本からの積極的な投稿をお待ちしています」と書かれたスライドで話を締めくくられました。

SOT免疫毒性専門部会の活動−Cohen博士へのインタビュー  

米国SOTはアメリカばかりでなく,カナダ,メキシコ,オーストラリアやヨーロッパ,アジアからの会員を含め会員数約6000人の学会です。その中でIMTOX SSは,会員数(330名)ではRegulatory SS,Risk Assessment SSに次ぐ3番目に大きな専門部会です。 

が,それ以上に特筆すべきことが2つあり,1つはIMTOX SSがSOTの年会においてシンポジウムやワークショップの枠の獲得率が高いということです。時には他のSSにもチャンスを与えるために,それらの枠を返還することもあるということです。 

またもうひとつの特徴は,IMTOX SSがよく組織化されており,全ての会員に最新の情報を届けることができるシステムになっているということで,SOTの中でも会員集めに苦労しているほかのSSのお手本とされるそうです。この点に関しては,Cohen博士のIMTOX SSにおける役割をお聞きしたところ,これまでに評議員や委員会の議長を歴任されたことのほかに,1997年にIMTOX SSディレクトリーを作られたことと,現在もe-mailリストのアップデートをしていることを挙げてくださいました。e-mailリストの管理は人々を追い詰めていく昔ながらの探偵のような作業が必要で大変な仕事だ,というお話でしたが,このようなCohen博士の作業がIMTOX SSをお手本となるような専門部会にすることに大きく貢献していると思います。ちなみに吉田貴彦先生も,学会に出席したときにCohen博士が名簿の日本人不明者を探していたのが縁で知り合いになったというお話です。 

今回のCohen博士の本学術大会参加が,日本免疫毒性学会会員と世界の免疫毒性研究者との交流をますます盛んにし,日本からの研究成果の発信がさらに活発になる端緒となることを期待したいと思います。 

本会学術大会の後,Cohen博士は中村和市先生と関西にむかわれました。「サイエンスの上からも,観光客としても,今回の旅は非常に魅力的だった。日本は大変に美しい国で,またあまりに多くのことがあり8日間ではとても全てを理解できない」というCohen博士の感想には,熱心なホストであった中村先生の貢献が大きかったことが想像されます。