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バルセロナの青い空とマドリードの王宮
−「医学生物学における金属イオン」国際シンポジウムに参加して− 


1996; No.3, p2


日下幸則
福井医科大学・環境保健学講座

1. 微量元素と金属,その免疫,そして健康との関わり

 我が国では,このテーマを扱う学会は幾つかある。日本衛生学会,日本微量元素学会,日本毒科学会,日本臨床免疫学会などである。私の専門もこれである。従って,私にとって,この免疫毒性研究会がこれら関連学会の境界を埋める学問領域として発展することを望んでいる。

2. 「医学生物学における金属イオン」国際シンポジウムの第四回目

 国際的にも,このような関連学会,境界領域を橋渡しする学会,国際シンポジウムが幾つかある。その一つが「医学生物学における金属イオン」国際シンポジウムである。その第四回目が,スペイン,バルセロナで本年五月に開催された。私は,「疫学,産業保健と環境保健における金属イオン」分科会の基調講演を依頼され,初めてスペインに渡った。

3.コバルト,ニッケル,クロム,バナジウムなどの呼吸器免疫毒性

 これら感作性金属は,同時に発ガン性も有していて,呼吸器免疫毒性学上,極めて興味の持たれる金属である。依然として,これら金属による環境汚染は後を絶たないし,地球レベルで見ても,拡散を続けている。

 最新の分子生物学的技法を用いて,この発ガンのメカニズム研究成果が特別講演で披露された。と同時に,リスクアセスメント,環境濃度設定の資料という方向でも学問の進歩が語られた。

4. スポーツ医学,健康増進

 亜鉛,鉄などの必須微量元素・金属についても,その免疫系における役割が,一層明らかにされた。食物,栄養という形で,これら学問の知見がフィードバックされつつある。本国際シンポジウムが,栄養食品産業,薬品産業などによる生産活動を介して,疾病の治療,健康増進に貢献しているのも特徴であろう。

5. バンケット

 これら勉強の話はこれ位にする。いつもながら羨ましかったのは,バンケットのホスト,ホステスとしてバルセロナ大学教授ドミンゴ博士が,奥様,お嬢さんを伴っておられたことである。高い航空運賃を払ってやって来る私達日本人には,なかなか出来ることではない。愛嬌を振りまいての会話も,学会の楽しみの一つである。スペインが,言語学的,文化的にも異なる五つの国からなるという,ドミンゴ教授の話も大変おもしろかった。なんと20年前に,憲法で以て,元々はマドリードを中心とするバレンシアの地方語であった言葉,いわゆるスペイン語を国語に定めたと云う。スコットランドで二年暮らし,ケルト語の洗礼を受けた私は,人類の多様性を再び感ずるお話であった。



6. バルセロナの青い空とマドリードの王宮

 このバルセロナは,地中海に面した国の首都であるが,一方マドリードは内陸の首都である。マドリードにあるハプスブルク王朝の栄華を極めた王宮は,小振りながら,やはり賛嘆に値するものであった。折しも,ゴヤ生誕250年祭の美術展が催されていた。着衣のラマ,裸のラマが,広間の対局に向かい合って陳列されていて,双方を代わる代わる見比べるのに,首が疲れたが,やはり裸のラマに見入る時間が多かっただろう。ゴヤの作品に,人間の暗黒面を扱ったものがあることを知ったのも,収穫であった。深夜に及ぶフラメンコの,熱く,しかし時には暗い全身全霊の踊りに見入り,再び訪れたい国と思わされた。