≪免疫毒性試験の国際動向≫ ≪ICHガイドライン≫

ICH S8(免疫毒性)ガイドラインについて


2005; 10(2), 8-9


澤田純一(国立医薬品食品衛生研究所) 
笛木 修,山口光峰(医薬品医療機器総合機構)
中村和市(塩野義製薬)
筒井尚久(三菱ウエルファーマ)
久田 茂(あすか製薬)

1.はじめに 

2003年11月に免疫毒性がICH(日米欧医薬品規制調和国際会議)のトピックS8として採用されて以来,ICH S8(免疫毒性)の専門家作業部会(EWG)において,医薬品の免疫毒性データの調査を行うと同時に,ICHガイドライン案の作成作業が進められてきた。2004年11月に開催された横浜会議において,Step 2ガイドライン案が作成され,次いでパブリックコメントの募集が行われた。2005年5月のブリュッセル会議でStep 4ドラフトとされ,8月にEWGの最終合意案が作成された。本案は9月の運営委員会で承認され,Step 4に到達した。今後,英文ガイドラインの和訳及び厚生労働省からの告示の作業が進められることとなろう。 

ICH S8ガイドライン(Step 4)は,既にICHのホームページ(http://www.ich.org/MediaServer.jser?@_ID=1706&@_MODE=GLB)で公開されているので,ダウンロード頂きたい。今回は,その概略を簡単に紹介したい。

2.ガイドラインについて

2.1 適用範囲,一般原則など 

今回最終化されたICHガイドラインにおける免疫毒性の範囲は,化学薬品の非意図的な免疫抑制及び亢進に限定されている。また,追加の免疫毒性試験を行う必要性は,下記6項目に関する情報の重要性に基づく評価(weight-of-evidence review)により,決定することとされた。

2.2 追加免疫毒性試験の必要性の評価 

追加の免疫毒性試験の必要性を評価するに当たって,検討すべき項目は以下のとおりである。

(1)
標準的な毒性試験(反復投与毒性試験)で得られた知見
  1) 血液学的所見,2) 免疫系臓器の重量及び病理組織学的所見,3) 血清グロブリン値,4) 感染発生率の増加,5) 腫瘍発生率の増加(増加の原因が明らかでないとき)

(2) 薬物の薬理学的性質 

(3) 適用の対象となる患者集団 

(4) 既知の免疫毒性化合物との構造類似性 

(5) 薬剤の分布 

(6) 臨床所見 

上記6項目の情報の中から,懸念事項の有無を検討した結果,免疫毒性の懸念が認められる場合には,免疫毒性試験を実施する必要がある。

2.3 追加免疫毒性試験の実施及びその結果の評価 

追加免疫毒性試験においては,T細胞依存性抗原に対する抗体産生系(TDAR)のような機能的な試験を一つ行う必要がある。免疫毒性の標的細胞がTDARに関与しない場合には,その標的細胞の機能を測定する試験を行うことができる。免疫毒性の標的細胞が不明な場合は,T細胞依存性抗原に対する抗体産生系を用いる試験が推奨されている。また,オプションとしてのフェノタイピングの有用性も記載されている。 

免疫毒性の評価には,げっ歯類では,28日反復投与試験が一般に用いられる。可能であれば,追加免疫毒性試験における動物種,投与期間,用量及び投与経路は,免疫毒性所見の認められた標準的毒性試験と同一とすることが望まれている。 

追加免疫毒性試験で免疫毒性のリスクが示されなかった場合は,さらに追加の免疫毒性試験を実施する必要はない。免疫毒性のリスクが示された場合には,リスクーベネフィットや臨床におけるリスク管理等を考慮して,さらに追加の免疫毒性試験を行うか否かを決定する。

2.4 追加免疫毒性試験の実施時期 

追加免疫毒性試験を実施する場合は,多数の患者集団に投与される前までに(通常,第3相臨床試験の前までに)行うことが必要とされる。

3.免疫毒性試験法 

別紙には,標準的毒性試験における免疫毒性関連検査項目,T細胞依存性抗体産生,フェノタイピング,NK細胞活性,宿主抵抗性,マクロファージや好中球の機能,細胞性免疫等の試験に関する説明及び実施上の留意点が述べられている。