≪免疫毒性試験の国際動向≫ ≪ICHガイドライン≫

医薬品の免疫毒性試験に関する国際的動向


2001; 6(1), 4-5


中村 和市
日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会 免疫毒性ワーキンググループ長

 医薬品の免疫毒性試験ガイダンス/ガイドラインに関する動きが活発である。欧州医薬品審査庁(EMEA) の医薬品委員会 (CPMP) は,1999年12月16日付で免疫毒性ガイダンスを含んだ反復投与毒性試験ガイダンスの改定案を公表,各方面からコメントを求めたのち2000年7月27日付で同ガイダンスを最終化している。最終化されたEMEAの免疫毒性ガイダンスでは,全ての新規医薬品の免疫毒性について血液・病理学的検査以外に骨髄細胞数,リンパ球サブセットの分布およびNK細胞活性の検討,あるいはT細胞依存性抗原に対する1次抗体産生能を調べることが盛り込まれている (案の段階では,骨髄細胞数とT細胞依存性抗原に対する1次抗体産生能の検討)。米国食品医薬品庁 (FDA) の医薬品評価研究センター (CDER) は未だガイダンス案を公表していないが,第2回アジア・トキシコロジー学会 (会期:2000年8月23〜25日) では通常行われている反復投与毒性試験において免疫抑制が疑われる所見が認められた場合にヒツジ赤血球に対する抗体産生能とリンパ球サブセットの分布を検討することを提案している。しかし,FDAの内部調整を経て,最終的にどのようなガイダンス案となるか不透明なところがある。製薬協 医薬品評価委員会,基礎研究部会は,これまで医薬品の免疫毒性評価に対して積極的な取り組みを行ってきた。今期,同部会の第2分科会 (臨床病理,毒性病理,免疫毒性の3ワーキンググループ) は化学物質等安全性試験受託機関協議会所属各社にも呼びかけ医薬品の免疫毒性評価手順を検討するための共同研究を行った。その内容については,第7回免疫毒性研究会 (会期:2000年9月25〜26日)のワークショップでも取り上げていただいた。なお,共同研究の第1回連絡会は,奇しくもEMEAのCPMPが免疫毒性ガイダンス案を公表した1999年12月16日に開かれている。現在,最終とりまとめを行っており,製薬協としての考え方もまとまりつつある。

 日・米・欧がそれぞれに医薬品の免疫毒性評価手順を検討している状況を考え,製薬協 基礎研究部会は各極で将来異なった内容のガイダンス/ガイドラインが出来上がってくることを予想した。そこで,ICH (International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use) の新規トピックとして免疫毒性試験を厚生省(当時) と共同提案することを決め,コンセプト・ペーパー案を作成した。コンセプト・ペーパー案では,各極における免疫毒性ガイダンスの動向,皮膚感作性試験におけるlocal lymph node assayの位置付けなどについて述べ,今後医薬品の免疫毒性評価方法に関する国際的調和を図るべきであると記載した。そして,2000年11月7日のICHの運営会議において厚生省とともにICH新規トピックとして免疫毒性試験を共同提案するに至った。ところで,ICHにおける医薬品承認申請用のCTD (Common Technical Document) のガイドライン (当時は案の段階であったが,現在は最終化されている) では,毒性試験の概要文において局所刺激性試験 (皮膚感作性試験が含まれる),抗原性試験および免疫毒性試験の記載順序が示されている。CTDのガイドラインでは承認申請の際に要求される試験が書かれているわけではないが,運営会議においては,コンセプト・ペーパー案の内容とともに,既存のICHガイドラインがこれらの試験を網羅していない点についても述べた。結果的には,FDAのガイダンス案が未公表であったことから,新規トピックとしての採用決定は持ち越された。しかし,FDAはガイダンス案を近く公表すると明言し,同ガイダンス案を考慮に入れて2001年5月に予定されているICH運営会議において再度審議されることになった。今後,時期については微妙なところがあるが,いずれ免疫毒性試験がICHのトピックになる可能性は高いのではなかろうか。

 医薬品の皮膚感作性試験に関しても大きな動きがある。FDAは1999年12月28日付でモルモットを用いた皮膚感作性試験 (maximization testなど) の代替法としてマウスlocal lymph node assay (LLNA) を認知した。一方EMEAのCPMPは,2000年9月21日付で局所刺激性試験ガイダンスの改定案を提示したが,その中で皮膚感作試験においてモルモットを用いた方法に加えてマウスLLNAが記載されていた。話は前後するが,LLNAの原法については,ラジオアイソトープ(RI) が用いられることから,実施の難しい製薬企業の施設が多かった。そこで,製薬協の免疫毒性ワーキンググループでは1999年4月から,それまでに論文になっていたRIを用いない種々の方法の比較検討を開始した。その内容については,第7回免疫毒性研究会で発表させていただいた通りである。この成果をもとに,製薬協 基礎研究部会は,2000年12月15日付でEMEAのCPMP宛に非RI法のLLNAについても認めるようコメントを送付した。その結果,2001年3月1日付で最終化されたガイダンスには以下の1文が加わった。'The use of non-radioisotope endpoint assays assessing cell proliferation may be acceptable provided they give reproducible and reliable results.' 適当な陽性対照物質をおくことによって,非RI法のLLNAのデータも受け入れられると解釈してよいだろう。

 2001年4月以降,国立医薬品食品衛生研究所の澤田純一機能生化学部長を中心としたICHに対応するための研究班が編成される予定であり,日本でも医薬品の免疫毒性試験に関する検討が本格化するものと思われる。今後とも,日本免疫毒性学会において,活発な御議論を御願いしたいと考えております。                            (2001年3月30日)