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≪第15回大会 奨励賞≫
日本人におけるスティーブンス・ジョンソン症候群及び中毒性表皮壊死症と相関するHLAタイプの探索(第一報)
斎藤嘉朗、頭金正博、黒瀬光一、澤田純一、
長谷川隆一、外園千恵、木下茂、
  高橋幸利、古谷博和、村松正明、松永佳世子、
相原道子、池澤善郎、鹿庭なほ子

  (国立医薬品食品衛生研究所、SJS/TEN遺伝子多型研究班)

 皮膚・粘膜の障害を主症状とするスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)及び中毒性表皮壊死症(TEN)は、致死率も5〜30%と高く、眼などに重い後遺症が残ることがあり、薬物による重篤な副作用のひとつである。SJS/TENは、発症率こそ年間約500人と低いものの、100種以上の医薬品が発症原因と成り得ることが知られており、現在のところ発症の予測は不可能である。医薬品の副作用被害救済の上位に毎年挙げられており、従ってSJS/TENを発症しやすい高リスク体質(特異体質)の患者を予め識別し、当該医薬品の投与を避けることにより未然に防ぐことが望ましい。
 近年、SJS/TENと、HLA(ヒト主要組織適合性複合体)の特定のタイプ(遺伝子多型の組合せで規定される)との強い関連が明らかになってきた。すなわち、台湾の漢民族において、抗てんかん薬カルバマゼピン誘因性のSJS/TEN発症にはHLA-B*1502 の関与(オッズ比1357)が、高尿酸血症治療薬アロプリノール誘因性の重症薬疹発症にはHLA-B*5801 の関与(オッズ比580)が、それぞれ示唆された。しかし、この薬物特異的な強い相関は、民族にも依存していることが明らかになってきた。現在のところ、カルバマゼピン誘因性SJS/TENとHLA-B*1502 との関連は漢民族とタイ人以外では確立されていない。また、アロプリノール誘因性SJS/TENとHLA-B*5801 との関連も白人では弱いと報告されている。
 そこで我々は、日本人においてSJS/TEN発症を予測しうる遺伝子マーカーを同定するため、探索研究を開始した。最も困難な点は、全国で(低頻度に)散発するSJS/TEN症例をいかに効率良く集積するかという点であるが、日本製薬団体連合会の協力を得て、本研究班へ任意で症例発生を報告するシステムを構築し、本システムと研究班員の所属する医療機関において症例を集積した。発表では確定診断された58例のHLAタイプを、シーケンシングにて解析した結果を報告した。原因医薬品に分類しない58例全体の解析では、HLA-DRB1*0901 が多重性補正後も有意なSJS/TEN発症との相関(Pc<0.01)を示したが、オッズ比は2倍強と比較的低く、直接の要因というよりも背景因子的な効果を有していると推定された。一方、医薬品別での解析では、アロプリノールを服用したSJS/TEN患者10例から、4例のHLA-B*5801 保有者が見いだされ、その相関はPc=0.003(オッズ比40.8)と有意であった。従って、日本人においても、HLA-B*5801 はリスク因子であることが示唆された。しかし相関の強度は白人と同程度であり、漢民族ほど強いものではなかった。一方、漢民族で、カルバマゼピン(及び芳香族系抗てんかん薬)によるSJS/TEN発症との相関が報告されたHLA-B*1502は、7例のカルバマゼピン及び11例のその他の芳香族系抗てんかん薬によるものを含め、全58症例で検出されなかった。これはもともと日本人におけるHLA-B*1502 の頻度が非常に低いためと推定され、日本人では、他のHLAタイプ等の遺伝要因がカルバマゼピンによる発症に関与していると考えられる。
 漢民族やタイ人で報告されたカルバマゼピンによるSJS/TEN発症とHLA-B*1502 との強い相関に関しては、米国及び日本の添付文書にも既に記載されており、また米国と台湾では規制当局により、HLA-B*1502 を対象としたカルバマゼピン治療開始前のスクリーニング試験が導入された。SJS/TEN発症を防ぐために、遺伝子マーカーを用いる個別化医療が既に始まっている。
 
(奨励賞受賞に対するコメント)
 この度は奨励賞にお選び頂き、心より御礼申し上げます。医薬品の副作用には、過度の薬効に基づくものと、その薬効に関連のないidiosyncraticなものがありますが、後者は免疫系が関与するアレルギー機序に基づくものが多いとされており、SJS/TENもこれに属すると考えられています。SJS/TENを含めアレルギー性のidiosyncraticな副作用に関して、その発症メカニズムを解明することは、発症回避や早期診断のために特に重要であると考えられます。今回、発表させて頂いた遺伝子マーカーとの相関解析に留まらず、得られた結果から発症メカニズムを推定し、これを実証する研究を行っていきたいと考えております。今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。最後に本研究へご協力頂きました全国の患者の皆様、またその主治医の先生方に、この場をお借り致しまして深く感謝申し上げます。
 
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