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≪第13回大会 奨励賞≫
薬剤によるアナフィラキシー様反応のインビトロ予測系
浜野宝子、泊泰三、岡田朱織、筒井尚久
(三菱ウェルファーマ株式会社 創薬研究本部 安全性研究所)

 即時型のアレルギー(I型アレルギー)には、IgE抗体が関与する反応およびIgEを介さない反応があり、それぞれ、アナフィラキシー反応およびアナフィラキシー様反応と呼ばれている。後者のアナフィラキシー様反応が薬剤によって誘発される場合、薬剤が肥満細胞や好塩基球へ直接作用するか、もしくは薬剤が補体受容体を介して肥満細胞等を活性化し種々のケミカルメディエーターの遊離が惹起されることが原因として考えられる。アナフィラキシー様反応を引き起こす薬剤としては、抗癌剤、造影剤およびリポソーム製剤が広く知られており、さらに、一部の医薬品添加物でも報告がある。本反応によって惹起されるアレルギー症状が重篤な場合には、アナフィラキーショックにより死に至ることもあり、新薬開発において本毒性の評価は重要である。本毒性は、通常、安全性試験において、薬物投与後の動物で観察される一般症状や外表の変化、あるいは血圧・心拍数の変動などで調べられている。しかしながら、探索早期の合成化合物で本毒性が認められ、類似の化学構造を有する化合物群の中で本毒性を有しない化合物を見出そうとする場合、動物を用いる評価系は必ずしもスループットは良くない。そこで、我々は細胞を用いて簡便に本毒性を予測する系の確立を試みた。
 細胞はヒト肥満細胞株HMC-1細胞を用いた。この細胞は、肥満細胞性の白血病患者より樹立された細胞株で、IgE抗体の受容体であるFcεレセプターを発現していない未分化の肥満細胞ではあるが、細胞内に多量のヒスタミンを含有し、さらに細胞表面には補体受容体が発現していることから、アナフィラキシー様反応の予測には適している細胞と考えられる。HMC-1細胞を48穴の平底プレートに1x104 /ウエルで播き、化合物を細胞毒性が認められない濃度範囲で加え、CO2インキュベーター内(37℃、5%CO2)で6時間培養した後に、細胞上清中に放出されたヒスタミン量をELISAキット(SPI-BIO社)測定した。
細胞培養からヒスタミン定量まで1日で実施することができ、少量の化合物を用いて多検体の評価が可能なことから、探索早期の毒性スクリーニングには適した系と言える。
 最初に、典型的なヒスタミン遊離物質であるcompound 48/80を用いて、本実験系の感度をヒト、イヌおよびラットの新鮮皮膚組織と比較した。新鮮皮膚組織のcompound 48/80に対する反応性は、ヒトとイヌの組織がほぼ同等で、これらよりもラット組織は感受性が低かったのに対し、HMC-1細胞ではヒトやイヌの皮膚組織と同じ濃度からヒスタミン遊離を認めた。次に、ヒトへの投与でヒスタミン遊離による皮膚症状やショックなどが報告されている抗癌剤を用いて、本実験系の特異性を調べた。薬剤が肥満細胞に直接作用しヒスタミン遊離を引き起こすことが知られている、つまりアナフィラキシー様反応を誘発するdoxorubicin、etoposideおよび5-fluorouracilではヒスタミン遊離が確認された。一方、ヒスタミン遊離に抗体が関与すると考えられているmethotrexateとcisplatinの曝露に対しては、細胞上清中のヒスタミン量に変動はみられなかった。さらに、ヒトでアナフィラキシー様反応の報告がある様々な薬効分野の薬剤についても検討を加えた。その結果、造影剤(amidortizoateおよびloxaglate)、神経−筋遮断剤(suxamethoniumおよびbenzylisoquinolinium)、抗菌剤(ofloxacin)および医薬品添加物(cremophor Elおよびpolysorbate 80)のいずれの化合物の曝露においてもHMC-1細胞からのヒスタミン遊離が認められた。
 このように、我々が今回検討したHMC-1細胞からのヒスタミン遊離を指標にしたインビトロ実験系は、薬剤によるアナフィラキシー様反応を予測する方法として有用であることが示唆された。本検討結果を踏まえて、弊社では種々の理由によるアナフィラキシー様反応を誘発する懸念のある探索早期の化合物に対し本実験系を適用し、効率的に本毒性のポテンシャルを持たない化合物をスクリーニングすることに成功している。

(奨励賞受賞に対するコメント)
 この度の受賞につきまして、私共の研究を評価して頂きましたことに感謝申し上げます。医薬品の免疫毒性試験については、本年4月に厚生労働省からガイドラインが通知され、すべての新医薬品を対象に免疫毒性の評価が求められるようになり、免疫毒性のリスクを評価する手段は整備されました。一方、医薬品開発の探索早期における免疫毒性スクリーニングの現状は、製薬企業各社がそれぞれ工夫こらして独自の方法で対応しているように思います。各社が免疫毒性のスクリーニング方法を考える上で、今回の私共の報告が何らかお役に立ちますと幸いです。
 
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