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≪第12回大会 奨励賞≫
ディーゼル排気粒子の構成成分がラットの肺胞マクロファージと末梢血単球のIa, B7分子の発現に及ぼす影響
Organic extract of diesel exhaust particles stimulates Ia and B7 molecules in rat alveolar macrophages and peripheral blood monocytes. |
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青柳 元1、小池英子2、小林隆弘3
1筑波大学大学院 バイオシステム研究科
2独立行政法人 国立環境研究所 PM2.5・DEP研究プロジェクト
3独立行政法人 国立環境研究所 環境健康研究領域 |
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近年、鼻炎や気管支喘息、花粉症といった呼吸性アレルギー疾患の罹患率は多くの工業先進国において急激に増加している。特に、産業の発展による自動車保有台数・自動車交通量の増加から、窒素酸化物(NOx)や浮遊粒子状物質(Suspended particulate matter:SPM)などによる汚染が、大きな問題となっている。ある調査によると、主要幹線道路沿道付近のSPM中に含まれるディーゼル排気粒子(Diesel exhaust particle:DEP)の割合は約44〜73%に達することが報告されており、都市部における大気汚染の主要な原因の一つには、ディーゼルエンジンから発生するDEPが関連していると考えられる。このことから、DEPが生体に与える影響を検討することは重要である。
DEPは、ヒトや実験動物において、気道での炎症を引き起こすことや、喘息様病態、鼻炎といったアレルギー症状を増悪させることが示唆されている。またDEPは、アジュバント作用を有し、抗原特異的IgE、IgG1抗体の産生増加やIL-4、-5、-6、-8、-10、-13といったTh2型サイトカインの産生増加、気道や気管支における好酸球や好中球の浸潤を誘導することが多くの研究で報告されている。
DEPは、炭素粒子を核とし、そこに付着する複雑な有機成分等で構成されている。有機成分中には、多環芳香族炭化水素(PAH)や複素環有機化合物、脂肪族炭化水素、アルデヒド、また、キノンなどの多くの酸化能を有する物質を含んでいる。DEPは、粘液で覆われた気管や気管支に沈着し、有機成分はそこで溶出すると考えられる。また特に、粒径の小さいものでは肺の奥深くまで達することが示されている。これまでに、DEPに含まれる有機成分が、アレルギー増悪の一要因であることが示唆されており、マウスを用いた研究では、DEPのジクロロメタン抽出物及び、PAHが抗原特異的IgE、IgG1抗体産生を
促進させることを見出している。また、ヒト鼻粘膜上皮細胞やヒト鼻粘膜内皮細胞においてDEPのジクロロメタン抽出物がヒスタミンレセプターのmRNA発現量やヒスタミン誘導性サイトカインのIL-8、GM-CSF産生を増加させることも報告されている。これらの報告は、DEPの構成成分がT細胞をTH2タイプへシフトさせ、様々なアレルギー症状を誘発する可能性を持っていることを示している。
アレルギー増悪の過程には様々な要因があると考えられるが、抗原提示細胞による抗原提示の促進と、それによるT細胞の活性化は重要な要因の一つである。我々はこれまでに、ディーゼル排気吸入装置の希釈トンネルから採取したDEP(T-DEP)のジクロロメタン抽出物が、末梢血単球(PBM)の抗原提示に関わる細胞表面分子(Ia、B7.1、B7.2分子)の発現及び抗原提示機能を増加させることを報告している。しかし、そのDEP抽出物に含まれるどのような成分がIa,、B7分子の発現や抗原提示機能の増加に関与しているかは未解明である。本研究では、実際に大気中に放出されるDEPに近づけるため、フィルター捕集(F-DEP)により新鮮な粒子を採取し、T-DEPと比較すると共に、F-DEPの有機成分をさらに分画し、各画分によるIa、B7.1、B7.2分子の発現及び抗原提示機能への影響を検討した。
有機成分は、T-DEP及びF-DEPからジクロロメタンにより抽出し、全抽出物(whole extract:WE)とした。細胞は、8 〜 10週齢の雄性Wistarラットから肺胞マクロファージ(AM)とPBMを採取し、T-DEP WE及びF-DEP WE(3, 30, 100μg/ml)に24時間曝露した。曝露後、Ia、B7分子の発現をフローサイトメーターで解析した。また、F-DEPをさらにヘキサン分画し、得られたヘキサン可溶画分(hexane soluble fraction:HS)とヘキサン不溶画分(hexane insoluble fraction:HI)ついて、1〜 100μg/mlの濃度で曝露を行い、Ia、B7分子発現及び抗原提示機能について検討した。抗原提示機能は、OVA感作T細胞とDEP曝露したAM又はPBMをOVA存在下で混合培養し、T細胞の増殖を指標に検討した。
T-DEP及びF-DEPがIa、B7分子発現に与える影響を比較したところ、T-DEP WE曝露は、AM、PBM共に30 〜100μg/mlの濃度でIa、B7分子の発現を濃度依存的に増加させた。F-DEP WEはAMのIa、B7分子の発現には影響を及ぼさなかったが、100μg/mlの濃度でPBMのそれらの発現を有意に増加させた。また、F-DEP WEをヘキサン分画した各画分の影響を検討した結果、F-DEP HS曝露ではAM及びPBMのIa、B7分子の発現に影響を及ぼさなかったが、100μg/mlのF-DEP HIはAM及びPBMのそれらの発現を有意に増加させることが見出された。一方、100μg/mlのF-DEP WEとF-DEP HS及び30μg/ml、100
μg/mlのF-DEP HIでは有意な抗原提示機能の低下が見られた。しかしながら、低濃度曝露の場合、F-DEP HIは1μg/mlの濃度で有意に抗原提示機能を亢進し、F-DEP WEとF-DEP HSでは10μg/mlの濃度でその増加が観察された。
本研究より、DEP中の有機成分のうち、特にHIに含まれる物質がIa、B7分子の発現及び抗原提示能を増加させる活性が強いことが示唆された。さらに、F-DEP WE中のHS:HIの割合はおよそ8:2〜9:1であることから、より低濃度で抗原提示機能を亢進する作用を示したHIは、実際にDEPがアレルギー症状を増悪させる際に大きな影響を及ぼしている可能性がある。
今後、F-DEP HI中の構成成分についての詳細な検討が必要である。抗原提示機能を増加させる原因物質を追究することが、DEPによるアレルギー増悪の機構を解明する一つの足がかりになることを期待している。
「奨励賞受賞に対するコメント」
このたびの受賞につきまして、他の多くのすばらしい研究発表の中で私の研究を評価して頂き、大変光栄に思っております。DEPがアレルギー疾患の増悪に及ぼす影響の機構については、まだ未解明な部分が多く、詳細な原因究明が急がれています。私の行っている研究が少しでもその原因究明に貢献し、大気環境の改善や人間が快適に暮らすことのできる環境の創造に役立つことを期待しています。今後はこの賞を励みに、これからの研究に邁進していきたいと思います。 |
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