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平成25年度日本免疫毒性学会奨励賞を受賞して
吉岡 靖雄
(大阪大学大学院薬学研究科毒性学分野)

 この度は、日本免疫毒性学会ニュースレターに執筆する機会を与えて頂き有難うございます。2013年9 月に「ナノマテリアルの安全性確保に資する微粒子の免疫毒性評価」で平成25年度日本免疫毒性学会奨励賞を頂戴いたしました。この場をお借りしまして、簡単ではございますが、私の研究内容をご紹介させていただきます。

 近年、サブミクロンサイズ( 100 nm以上)の従来素材と比較して、圧倒的に優れた有用機能を有するナノマテリアル(少なくとも一次元の大きさが 100 nm以下であり、ウイルスよりも小さい)が続々と開発・実用化されています。一方で、ナノマテリアルの革新的機能が逆に、想定外の負の生体影響を誘導することが危惧され始めています。本観点から私は、ナノマテリアルのリスク解析や安全なナノマテリアルの創製に資するナノ安全科学研究を推進しています。特に近年、NLRP3インフラマソームなどの微粒子センサーとも言うべき新たな微粒子認識機構が明らかとされつつある一方で、生体免疫系によるナノマテリアル認識機構については未だ不明な点が多いのが現状です。そこで私は、ナノマテリアルの免疫毒性に関して、食品・化粧品領域で汎用される非晶質シリカを主に用い、自然免疫、獲得免疫に及ぼす影響を包括的に評価してきました。その結果、粒子径の違いにより自然免疫活性化メカニズムが異なること、表面電荷の最適化によりナノマテリアルの安全性を高度に担保できることを明らかとしました。またこれまでに、ナノシリカが経皮・吸入・経口吸収され、全身循環血中にまで移行・組織分布することを明らかとしており、特に、ナノシリカが化粧品基材として汎用されていることを考慮すると、皮膚免疫系への影響評価は急務と考えられています。そこで私は、ナノシリカの皮膚内投与や、皮膚塗布後の抗原感作への影響を解析しました。その結果、ナノシリカと抗原を皮膚に共塗布することで、アレルギー発症要因である抗原特異的IgEの産生には影響を与えないものの、その阻害に働く抗原特異的IgGの産生が抑制されることを見出しました。さらに、抗原特異的IgGの産生低下により、IgE性アレルギー発症が促進されることを明らかとしました。一般に、IgGとIgEの産生はパラレルに起こると考えられていますが、本知見は、IgGとIgEの産生メカニズムが異なることを示すと共に、ナノシリカの獲得免疫撹乱作用がアレルギー発症を促進するという概念を提唱するものと考えています。また上記以外にも、免疫毒性学的観点から、胎仔・乳幼児・新生仔といった脆弱な個体に対するナノマテリアルの影響評価など、幅広い視点から免疫毒性研究を推進しています。生体内にはアミロイドや尿酸結晶といった数多くの生体微粒子が存在し、様々な疾患を誘発していることを鑑みると、これらの研究は、生体内外の微粒子の生体影響を考えるうえで貴重な知見を提供するものであり、微粒子免疫毒性ともいうべき研究に発展するものと確信しています。

 今後も、ナノ安全科学・ナノ最適デザインの観点から、免疫毒性学領域の発展に寄与したいと念じております。日本免疫毒性学会の諸先生方におかれましては、今後ともご指導、ご鞭撻のほど、何卒宜しくお願いいたします。

 この度の受賞において、自らの研究成果を評価していただけたことは、今後の研究活動における大きな活力となりました。今後も更なる飛躍を目指して激烈に努力していく所存でありますので、変わらぬご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。最後になりましたが、本研究の遂行に際し終始温かいご指導・ご鞭撻を賜りました大阪大学大学院薬学研究科・教授 堤 康央先生をはじめとする諸先生方に心より感謝申し上げます。

 
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