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第2回日本免疫毒性学会奨励賞 受賞に際して
西村 泰光
(川崎医科大学衛生学)

 このたび、日本免疫毒性学会より奨励賞を賜り、ご推薦頂きました先生、選考下さいました諸先生方に厚く御礼申し上げます。

 奨励賞は「免疫学的所見に基づくアスベスト曝露者の病態解析と診断指標構築の試み」に対して授賞して頂きました。そもそも自分自身が免疫学を志すきっかけは、母校、京都教育大学の恩師、細川友秀先生(現、京都教育大学副学長)との出会いからでした。細川先生は、京都大学理学部の村松繁先生に師事された方で、樹状細胞で有名な稲葉カヨ先生等と同門で、免疫学に精通しておられ、講義は自分にとって大変刺激的でした。先生の下、卒業研究を始めることとなり、課された課題は「老化促進モデルマウス脾細胞における抗体産生反応のノルアドレナリンによる制御」というものでした。老化促進モデルマウス(Senescence Accelerated Mice, SAM)は、旧京都大学胸部疾患研究所において1970年代に竹田俊男先生(現、SAM研究協議会会長、京都大学名誉教授)により開発されたマウスです。修士までの間、細川先生から免疫学的研究のイロハを教えて頂き、現在の自分自身が持つ免疫学的思考の基礎はこの間に養われました。

 その後、京大大学院医学研究科に進学し、SAMマウスの研究拠点であった京大胸部研・老化生物学分野で細川昌則先生(現、愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所長)の下、引き続き免疫老化研究を行い学位を取得しました。その時に、京大公衆衛生ご出身であった井口弘教授からお話しを頂き、2002年10月より兵庫医科大学衛生学(現、環境予防)助手に着任し、アスベスト(石綿)と出会いました。しかし、はじめ、石綿には全く興味が湧きませんでした。石綿と言われても石ころ?程度にしか思えなかったのです。しかし、結果が出始めると次第に面白いと思うようになりました。幾つかの実験の結果、AMは他の細胞の存在やアポトーシスの関わりなく石綿曝露により高いTGF-β産生能を獲得し、Bcl-2/Bcl-xLが亢進し長期間生存することが明らかとなり、AMの肺線維化におけるより積極的な寄与を示す事ができました。そしてこの内容について、初めて参加した免疫毒性学会で発表し、初めてのアワードである年会賞を頂き、心躍ったことは今でも鮮明に覚えています。

 その間の研究を認めて頂き、2005年4 月より大槻教授の下、本学衛生学に着任することとなり、現在に至る研究活動が始まりました。その年の6 月には、所謂、クボタ・ショックがあり、石綿に関わる研究が俄に注目されるようになり、以後、同僚等と共に大きく研究成果を発展させることが出来ました。本学衛生学では、植木絢子前教授の頃から免疫担当細胞への粉塵曝露影響に関する研究が進められ、大槻教授が更に発展されたことは、皆様ご存じの所かと思います。そして、私自身、現在に至る間に研究の幾つかに関わり、主にはNK細胞機能に対する曝露影響について幾つかの事を明らかにすることが出来ました。その結果、石綿曝露が一部のNK細胞活性化受容体低下を伴う細胞傷害性低下を引き起こす事、活性化受容体NKp46の発現量低下を伴う細胞傷害性低下が悪性中皮腫患者NK細胞および石綿曝露下PBMC培養時NK細胞に見られることを明らかにすることが出来ました。最近では特に患者検体の試料を用いた免疫機能の包括的機能解析に取り組んでおり、少しずつ成果が現れ始めています。それらの知見は、石綿曝露による抗腫瘍免疫機能低下の存在を示し、その悪性中皮腫との関わりを示唆すると共に、免疫機能解析に基づく悪性中皮腫の診断指標構築の可能性を示唆しています。

 このような成果を挙げることが出来たのも、素晴らしい恩師に出会い、素晴らしい同僚に囲まれ、素晴らしい上司の下で研究ができているからこそと思います。免疫学とは面白く、細胞や分子が決して単独では機能しないことを教えてくれ、それは人生の縮図にも見えます。免疫機能への環境影響という素晴らしい研究課題に関われることを幸せに思い、その成果が社会に寄与するよう最大限の努力を惜しまず、さらには生物の何たるかを日々考えながら、多くの免疫毒性学の先人に追いつけるように、今後とも日々弛まず精進を続けたいと思います。改めまして、この度の授賞に感謝を申し上げます。有り難う御座いました。
 
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