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第1回日本免疫毒性学会奨励賞受賞に際して
中村 亮介
(国立医薬品食品衛生研究所)

 このたび私は、「子どもの免疫に関してアレルギー並びに甲状腺機能影響に着目した試験法に関する研究」により、第1 回日本免疫毒性学会奨励賞を受賞いたしました。私どもの研究にこれほどのご評価をいただいたことを大変光栄に思うと同時に、身の引き締まる思いがいたします。緊張の授賞講演を終えて千葉から東京に戻った直後、学術編集委員長の藤巻先生より「ImmunoTox Letterに受賞に際しての学会への提言や感想を書いてくれ」とのお達しを受け、またもや緊張が走りましたが、「提言」などと大それたものではなく、感想程度のものを綴ってみたいと思います。

 本年度より「奨励賞」が新設されるということは存じておりましたが、私どもの研究はまだ端緒についたばかりで、奨励賞に応募するとしてももう少し先になるだろう、と当時は呑気に構えておりました。しかし、某先生より「応募せよ」との厳命が下り、締切り間際にバタバタと必要書類をまとめたことを思い出します。

 その直後に起こったのが東日本大震災でした。

 その被害の甚大さはご承知の通りです。町や車を飲み込んでいく黒々とした津波の映像の不気味さは忘れられません。その後、原発事故や都市部での物資買い占めなどの混乱を経つつ、事態は次第に沈静化していったかのように思われました。しかし被災地では、食糧不足が続く中、食物アレルギーの子どもたちが食べられる食事の供給が滞っている、という報道は4 月に入っても続いていました。やっと届いた食糧物資を目の前にして、それを食べることができない食物アレルギー患者やその家族の苦しみはいかばかりかと思ったものです。

 受賞のお知らせをいただいたのは、そんな時期でした。当時、国民の多くが、被災者のために何かできることはないかと考えていたと思います。そこで微力ながら自分ができることは何かと考えたとき、私どもの研究を通じ、食物アレルギー患者やその家族のQOLに少しでも貢献することではないか、と思われた次第です。そこで、受賞課題の内容には本来抗甲状腺作用を介する免疫影響に関する研究が含まれていたのですが、この時点で、「受賞講演では食物アレルギーの話に専念しよう」と決心いたしました。

 学会直前に次男が緊急入院したため、理事懇親会への御招待をお断りしなくてはならなくなったり、講演のスライドが当日朝にようやく出来上がったりと色々と不測の事態もございましたが、年会長の上野先生や事務局の山浦先生の励ましやご尽力のおかげで、かろうじて受賞講演の任は果たせたかと思っております。

 受賞講演には、「小児食物アレルギー試験の観点から」という副題を付けました。小児の食物アレルギーは、大半が加齢と共に寛解に至ります。もし、わが子のアレルギーを心配して支援物資の食糧を食べさせなかった親御さんが、実はその子がすでに寛解していたことに気付いていなかっただけだとしたらどうでしょう。現行の簡便な血清試験のみでアレルギーの診断を下し食物除去を続けていれば、そのような可能性はないとはいえません。

 私どもが開発中のin vitroアレルギー試験法「EXiLE法」が、より信頼性の高い手法として食物アレルギーの診断に貢献できるようになれば、そのような患者さんのQOL向上に少しでもお役に立てるのではないか、と期待しております。もちろん、そのためにはさらなる研究努力が必要でございますので、本学会の先生方におかれましては、どうぞ今後ともご指導、ご鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます。

 以上、簡単ではございますが、奨励賞受賞の感想と御礼のご挨拶とさせていただきます。
 
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