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第1回日本免疫毒性学会学会賞受賞に際して
吉田 武美
(前職 昭和大学薬学部毒物学教室
現職 公益社団法人薬剤師認定制度認証機構理事
昭和大学名誉教授)

 この度日本免疫毒性学会の学会賞を受賞できましたことを光栄に存じます。

 牧選考委員長、澤田理事長、ご推薦いただいた堀井郁夫氏はじめ関係各位に深く感謝申し上げます。

 本学会とは、黒岩幸雄名誉会員が昭和大学教授の頃、第19回日本毒科学会(1992年)を主催された時のサテライトシンポジウムに免疫毒性を取り上げたことを契機に、研究会、学会へと展開している今日までのお付き合いです。

 今回の賞は「免疫学的機序に基づく薬物代謝酵素およびストレス応答酵素系の発現調節」ということで、直接的な免疫毒性といえませんが、薬毒物の免疫系への作用や免疫系の基本的なプレーヤーであるサイトカインを介して薬物代謝やヘム代謝酵素など生体機能への影響が生じるという点で意義はあろうと考えます。実際には、1 )免疫賦活剤の作用、2 )コカインの肝毒性と免疫系との関連、3 )メタクリル酸誘導体と遅延型アレルギー、4 )サイトカイン欠損動物やヒト慢性関節炎モデル動物における薬物代謝酵素及びストレス応答系の変動、5 )LPSによるマクロファージiNOSとHO-1誘導の相互調節、6 )IL-1によるコレステロール7α水酸化酵素の調節機序、7 )LPS中枢適用による炎症に伴う記憶・学習系障害とサイトカインの関連、などを検討してきました。研究内容は、生体内外からの各種の侵襲により、免疫機能に何らかの影響が生じ、サイトカインの量的あるいは質的な変動が起こると、その応答として薬物代謝酵素やストレス応答性の酵素やタンパク質の変動につながることになりうると概括できます。

 各種のサイトカインは、シトクロムP450やヘム分解の律速酵素HO-1さらにメタロチオネインなどの変動を調節し、生体機能を防御しています。薬毒物の免疫組織への毒性学的作用は、明らかに負の作用であるが、引き起こされる生体応答は、結果的に防御応答につながっていることになります。結局は、薬毒物による生体侵襲と防御応答のしのぎ合いの中で、細胞や組織の生存が決まるのであろう。毒性学的には、科学技術の発展に伴い、薬毒物による毒性発現現象の把握から、生化学的そして分子毒性学的な機序解明へとつながってきている。しかし、これまで多くの薬毒物で、多様な事象を調べたが、肝心要の薬毒物は一体細胞内のどこで何をしているのかは未だ不明なことが多い。勿論受容体や酵素など標的タンパク質が明確な医薬品やトキシン類、あるいは有機リン系殺虫剤や青酸ガスなど典型的な物質は除いてのことである。多くの薬毒物は、毒作用は判明していても、発現機構に至るその物質の実態は明確でないことが多い。この点は、本学会の取り組む課題としても重要であろうと思われます。一方、生体機能を解明する上で、毒物暴露が契機になる例も少なくない。言い変えると、ある毒性が出現して、その理由を解明している間に、薬毒物による作用によることが判明し、その機序が解明されるということである。例えば、パーキンソン病様症状を発症する麻薬ペチジン混入物であったMPTPであり、記憶喪失性貝毒ドウモイ酸がある。このような事実を基に、病気の発症機構や記憶などを司る責任部位の認識につながる。薬毒物による免疫毒性を明らかにしていく過程で、新たな生物現象の発見があることは、本会員は日頃経験されていることでしょう。科学的な興味から進められ、蓄積されていく研究成果が、最終的には人のため、社会のために、どのように調和されつつ生かされていくのかが重要であろうと思います。

 日本免疫毒性学会は、若手の研究者が育っていることが感じられますので、今後の大きな発展を期待いたしております。
 
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