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≪第18回大会 年会賞≫
長期外用ステロイド誘発性の新規マウス掻痒モデルの作成 |
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山浦 克典、土居 亮介
諏訪映里子、上野 光一
(千葉大学大学院薬学研究院高齢者薬剤学研究室) |
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目的
外用ステロイド療法はアトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などの難治で慢性化しやすい湿疹・皮膚炎における第一選択薬として用いられ、しばしば長期にわたり使用される。外用ステロイドは局所での強力な抗炎症作用や全身性の副作用の少なさが利点であるが、一方で長期使用に伴い、皮膚萎縮や感染防御能の低下を招く。一般的にステロイド外用薬は痒みの軽減をも期待して使用されるが、抗掻痒作用に関する明確なエビデンスはない。更に、ステロイド外用薬の添付文書に、使用に伴う副作用発現症例として「掻痒」をあげている品目もある。我が国のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインに記載されているステロイド外用薬30品目中11品目の添付文書に副作用発現症例として「掻痒」が記載されている。近年、マウスの急性皮膚炎モデルに対する外用ステロイドが、痒み因子であるサブスタンスPや神経成長因子(Nerve growth
factor: NGF)を増加させ、掻痒を悪化させることが報告されたが(Fujii et al., 2010)、未だ慢性皮膚炎に対する長期ステロイド外用による掻痒悪化の報告はない。そこで本研究では、ハプテン誘発の慢性接触皮膚炎モデルマウスを用い、デキサメタゾンを長期間反復塗布することで掻痒を増強する、ステロイド誘発性の新規掻痒モデルの作成を試みた。更に、掻痒増強機構に関する検討も試みた。
方法
マウスは6 週齢の雌性BALB/cを使用した。ハプテンとして1.0%の2, 4, 6-trinitro-1-chlorobenzene(TNCB)をacetonに溶解して感作し、感作1 週間後より週3 回マウスの両耳介に1.0% TNCB溶液を塗布することで慢性接触皮膚炎を惹起した。反応惹起の2 週後から、3 週間にわたり0.03%のデキサメタゾンを両耳介に連日塗布した。マイクロメーターを用いてマウスの耳介腫脹を、また掻痒測定装置MicroActを用いて掻破回数をそれぞれ測定することで、デキサメタゾンの皮膚炎及び掻痒反応に対する作用を評価した。また、実験最終日の血清を用いて、ELISA法にて血清中IgE濃度を測定した。更に、採取した
耳介を用い、各種サイトカインやNGF、ヒスタミンH4受容体mRNA発現量をRealtime-PCR法にて定量した。
結果
1 )長期デキサメタゾン塗布の耳介腫脹への影響
TNCBの反復塗布により、著しい耳介腫脹を伴う慢性接触皮膚炎が発症した。本モデルにデキサメタゾンを長期塗布することで、耳介腫脹は有意に改善したが、塗布を中断すると耳介腫脹は再び悪化した。
2 )長期デキサメタゾン塗布の掻破回数への影響
TNCBの反復塗布により、痒みの程度を表す掻破回数は増加し、本モデルにデキサメタゾンを長期塗布すると、掻破回数が減少することなく、むしろ経日的に更に増加した(図1 )。一方、デキサメタゾンの塗布を中断することで掻破回数の増悪は消失した。
図1 |
長期デキサメタゾン塗布の掻破回数への影響
Nil, non-application of TNCB; Dex, dexamethasone; WD,
withdrawal of dexamethasone. Values represent the
mean±SEM for 7 mice.
*p<0.05 vsVehicle (Dunnett's multiple comparisons). |
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3 )マウス耳介組織のTh1及びTh2サイトカインmRNA発現量
Th1サイトカインであるIFN-γ及びTh2サイトカインであるIL-4 mRNA発現量はTNCBの反復塗布により増加し、本モデルにデキサメタゾンを長期塗布することでIL-4 mRNA発現の増加は抑制された。更に、デキサメタゾン塗布を中断することで抑制が解除され、IL-4 mRNA発現量は有意に増加した。
4 )マウス血清中IgE濃度
血清中のIgE濃度はTNCBの反復塗布により増加し、デキサメタゾンの長期塗布はこれを有意に抑制した。一方、デキサメタゾン塗布を中断することで血清IgEの抑制は解除され、対照群レベルまで増加した。
5 )マウス耳介組織のNGF mRNA発現量
NGF mRNA発現量はTNCBの反復塗布により増加しなかったものの、デキサメタゾンを長期塗布することで増加した。また、デキサメタゾン塗布の中断によってもNGF mRNA発現量の増加は解除されず、高値を示した。
6 )マウス耳介組織のH4受容体 mRNA発現量
H4受容体mRNA発現量はTNCBの反復塗布により増加し、本モデルにデキサメタゾンを長期塗布することで更に増加した。また、デキサメタゾン塗布の中断によってもH4受容体mRNA発現量の増加は解除されず、高値を維持した。
考察
今回、我々は慢性接触皮膚炎モデルマウスにステロイド外用薬であるデキサメタゾンを長期間反復塗布することで掻痒を惹起する新規掻痒モデルを作成した。デキサメタゾン塗布開始後、経日的に掻痒は増強し、塗布を中断することにより本増強が消失したことから、デキサメタゾン塗布による掻痒反応の亢進がデキサメタゾンに起因すること、及び本掻痒が可逆的であることを確認した。
アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎の患者の皮膚においては、マスト細胞表面のIgEと抗原の架橋により、IL-4などの炎症性サイトカインの分泌や脱顆粒に伴うヒスタミン、トリプターゼなどの痒みメディエーターの放出が誘導される。本検討においては、血清中のIgE濃度やIL-4mRNA発現量が耳介腫脹とよく相関していた。マスト細胞から放出されたヒスタミンが末梢知覚神経のヒスタミンH1受容体に結合すると、中枢神経に痒み感覚を伝達する。近年、H4受容体の掻痒への関与が数多く報告されており、当研究室においても急性掻痒モデルおよびアトピー性皮膚炎様モデルに対するH4受容体拮抗薬の抗掻痒作用を報告してきた(文献1 、2 )。本検討においてデキサメタゾン長期塗布によりH4受容体mRNA発現量が増加したことから、これに伴うヒスタミン感受性の増加により掻痒反応が亢進した可能性が示唆された。
主にケラチノサイトが産生するNGFは末梢知覚神経を真皮から表皮へと伸長させ、その結果痒みの閾値を下げ、痒み過敏を引き起こすことが知られており、そのためNGF産生量の亢進が痒みの悪化を引き起すと考えられている。本検討においてデキサメタゾン長期塗布によりNGF mRNA発現量が増加したことから、末梢知覚神経伸長により掻痒反応が亢進した可能性が考えられた。しかし、デキサメタゾン塗布を中断することにより掻痒反応が減弱したにも関わらず、H4受容体及びNGF mRNA発現量に関しては亢進した発現量が減弱することはなかった。これに関し我々は、デキサメタゾン塗布中断により、生体内に備わる掻痒抑制機構が回復し、これが亢進した掻痒反応を抑制したという仮説を立て、現在検討を行っている。
今回我々が作成したステロイド誘発性の新規掻痒モデルの活用により、臨床における長期ステロイド外用療法に伴うリバウンド現象の解明及び、より効果的で安全なステロイド外用療法の確立が期待される(文献3 )。
謝辞
この度、私共の研究発表が第18回日本免疫毒性学会の年会賞に選ばれましたことを大変名誉に思い、選考委員長の荒川泰昭先生をはじめ選考委員の諸先生方に心より
感謝申し上げます。今回頂きました賞を励みに、免疫毒性学の研究分野および日本免疫毒性学会の発展に貢献すべく、益々努力を重ねて参りたいと存じますので、今後も会員の先生方のご指導、ご鞭撻を賜ります様宜しくお願い申し上げます。
引用文献
- Yamaura K, Oda M, Suwa E, Suzuki M, Sato H, Ueno
K. Expression of histamine H4 receptor in human
epidermal tissues and attenuation of experimental
pruritus using H4 receptor antagonist. J Toxicol Sci,
34:427-31 (2009).
- Suwa E, Yamaura K, Oda M, Namiki T, Ueno K.
Histamine H4 receptor antagonist reduces dermal
inflammation and pruritus in a hapten-induced
experimental model. Eur J Pharmacol. 667:383-8 (2011).
- Yamaura K, Doi R, Suwa E, Ueno K. A novel animal
model of pruritus induced by successive application of
glucocorticoid to mouse skin. J Toxicol Sci, 36:395-401
(2011).
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