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≪第17回大会 年会賞≫
粒子状化学物質による自然免疫の活性化とII型免疫反応の誘導
黒田 悦史1、森本 泰夫2
1産業医科大学医学部免疫学寄生虫学教室、
2産業医科大学産業生態科学研究所呼吸病態学)

背景
 産業の発達とともに様々な粒子状化学物質が生み出されている。粒子状化学物質は工場から排出される煤塵やディーゼル粒子、化学反応で用いる触媒や産業界で注目されているナノマテリアル、さらに東アジア内陸部から飛来する黄砂などがある。これらの粒子状化学物質は呼吸時に吸入され、気管支や肺の炎症を誘導することが示唆されているが、最近ではアレルギー性炎症の増悪因子としても注目されている。粒子状化学物質がどのような機構で免疫系を刺激し、炎症反応を惹起するのかについては明らかにされていなかったが、最近、粒子状化学物質であるアスベストやシリカが肺に常在する貪食細胞であるマクロファージを刺激し、細胞内の炎症シグナル複合体であるインフラマソームを活性化することが報告された(文献1、2)。さらにこのインフラマソームが誘導されないマウスではアスベストによる肺の炎症反応が有意に低下することも報告され(文献3)、インフラマソームが粒子状化学物質によって誘導される炎症の「危険信号」であることが明らかとなった。
 インフラマソームとは細胞内に存在する細胞内病原体センサーであり、Nod様受容体、アダプタータンパクであるASCおよびカスパーゼ1の3種類のタンパク質により構成されている。アスベストやシリカによりインフラマソームが活性化されるとカスパーゼ1の活性化を介して炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-18が誘導される。このように、ある種の粒子状化学物質はインフラマソーム活性化を介して炎症性サイトカイン誘導し、炎症反応を引き起こすと考えられる。
 さらに本研究においてわれわれは粒子状化学物質がインフラマソーム非依存的に脂質メディエーターを誘導し、免疫反応を活性化することを見いだした。

実験方法
 マウスは7〜10週齢のC57BL/6、BALB/cまたは各種遺伝子欠損マウス(C57BL/6背景)を使用した。マクロファージは、チオグリコール酸によって誘導された腹腔マクロファージ、またはマウス骨髄細胞からM-CSFにて分化誘導した骨髄由来マクロファージを用いた。得られたマクロファージを1ng/mlのLPSにて2時間刺激し(プライミング)、その後種々の粒子状化学物質にて2〜18時間刺激した。刺激には、シリカ(Min-U-Sil 5)、水酸化アルミニウム(LSL社)、酸化ニッケル(Vacuum Metallurgical社)、二酸化チタン(Wako Chemical社)、非晶質シリカ(日本エアロジル)を用い、20〜50 μg/cm2の濃度で刺激した。刺激後、培養上清を回収し、ELISA法にて培養液中のIL-1βとプロスタグランジン(PG)E2の量を測定した。In vivoの実験として、mPGES-1欠損マウスおよびコントロールマウスに0.5 mgのシリカまたは2 mgの水酸化アルミニウムを100 μgのOVAとともに腹腔内投与により免疫した。7日後に再度腹腔内投与を行い、さらに10日後に心臓穿刺により採血し、血清を回収した。血清中の抗原特異的IgEはELISAキット(DSファーマメディカル)にて測定した。

実験結果
1. シリカはインフラマソームの活性化とともにプロスタグランジン産生も誘導する
 DostertおよびHornungらはマクロファージを低濃度のLPSでプライミングした後にシリカやアスベストで刺激することによりインフラマソームが活性化され、IL-1βおよびIL-18が産生されることを報告している(文献1、2)。われわれも同様の実験を行ったところ、シリカの刺激によりマクロファージからのIL-1βの産生が認められた。また、興味深いことに脂質メディエーターであるプロスタグランジンE2(PGE2)がIL-1βと同様にシリカの刺激により誘導された。同様な結果が水酸化アルミニウムや非晶質シリカによる刺激において認められた。しかしながら、炎症誘導能が低い二酸化チタン粒子ではIL-1βもPGE2も誘導しなかった。これらの結果からある種の粒子状化学物質はインフラマソームを活性化するとともにPGE2の産生を誘導することが明らかとなった。

2. シリカによるプロスタグランジン産生誘導はインフラマソーム非依存性である
 われわれはシリカによるPGE2産生誘導がインフラマソーム依存性か否かについて検討するため、インフラマソームの構成成分であるNALP3、ASCおよびカスパーゼ1欠損マウス由来のマクロファージを用いて解析を行った。遺伝子欠損マウス由来のマクロファージはインフラマソームが活性化されないため、シリカ刺激によるIL-1β産生誘導は認められなかったが、PGE2産生に関しては野生型マクロファージと同程度の産生量が認められた。この結果より、シリカにより誘導されるPGE2産生はインフラマソームに非依存性であることが明らかとなった。

3. シリカにより誘導されたPGE2は抗原特異的なIgEの産生を制御する
 Hornung およびCasselらは、シリカにより誘導されるインフラマソーム依存性のIL-1βが好中球を主体とした炎症反応の誘導に関与することを報告している(文献2、3)。そこでわれわれはシリカにより誘導されるPGE2がどのような役割を担っているのかを検討するため、膜結合型PGE合成酵素(mPGES-1)欠損マウスを用いて実験を行った。mPGES-1はPGE2生成における最終酵素であり、mPGES-1欠損マウス由来のマクロファージはシリカによるPGE2産生が認められない。このmPGES-1欠損マウスに、シリカまたは水酸化アルミニウムを卵白アルブミン(OVA)とともに腹腔内投与により免疫し、2週間後の血清中のOVA特異的IgE産生について解析した。興味深いことに、mPGES-1欠損マウスでは野生型マウスに比してOVA特異的なIgE抗体が有意に低下していた。

おわりに
 本研究でわれわれは、ある種の粒子状物質が自然免疫を司るマクロファージを活性化し、インフラマソーム依存性および非依存性に免疫反応を活性化することを明らかにした。特にインフラマソーム非依存性に産生されるPGE2はIgE抗体産生に関与しており、粒子状化学物質によるアレルギー性炎症の誘導にPGE2を含めた脂質メディエーターの関与が示唆された(図1)。最近、IL-1βとPGE2が炎症性ヘルパーT細胞サブセットであるTh17の増殖を促進することが報告された(文献4)。このように、シリカをはじめとする粒子状化学物質は自然免疫を活性化することにより様々な段階で炎症反応を惹起すると考えられる。その詳細な分子メカニズムを解明することが、粒子状化学物質により誘導される炎症反応の人為的制御や治療法へと発展すると期待している。

図1 粒子状化学物質によるマクロファージの活性化と急性炎症およびアレルギー性炎症の誘導モデル

謝辞
 今回初めて参加させていただきました第17回免疫毒性学会にて年会長賞を賜り、大変光栄に思います。アスベストやシリカをはじめとする粒子状化学物質がどのような機序で免疫反応を惹起しているかについては免疫毒性の分野のみならず、一般免疫学の分野においても注目されているトピックスでありますが、未だその全体像は明らかにされておりません。私の研究でもまだ明らかにされていない点が数多く残されております。今後も粒子状化学物質と免疫反応という観点で研究に取り込みたく存じます。今後とも皆様のご指導・ご鞭撻をいただければ幸甚に存じます。
 また、本研究におきまして遺伝子欠損マウスを提供していただきました医薬基盤研究所の石井健博士、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの審良静男博士、植松智博士に深謝いたします。

参考文献
1. Dostert, C. et al. Innate immune activation through Nalp3 inflammasome sensing of asbestos and silica. Science 320, 674-677 (2008).
2. Hornung, V. et al. Silica crystals and aluminum salts activate the NALP3 inflammasome through phagosomal destabilization. Nat Immunol 9, 847-856 (2008).
3. Cassel, S. et al. The Nalp3 inflammasome is essential for the development of silicosis. Proc Natl Acad Sci U S A 105, 9035-9040 (2008).
4. Yao, C. et al. ProstaglandinE2-EP4 signaling promotes immune inflammation though TH1 cell differentiation and TH17 cell expansion. Nat Immunol 15, 633-641 (2009).
 
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