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≪第11回大会 年会賞≫
3才児の食物並びに吸入アレルゲン特異的
IgE抗体の実態調査
手島 玲子1、高木加代子1、奥貫 晴代1
中村 亮介1、蜂須賀暁子1、澤田 純一1
小島 幸一2、大沢 基保3、吉田 貴彦4

1国立医薬品食品衛生研究所、2食品薬品安全センター
3帝京大学薬学部、4旭川医大

目的
  小児での生活環境リスク評価のための免疫影響指標開発の一環として、3歳児健診において得た血清中総IgE値及びアレルゲン(抗原)特異的IgE抗体の測定を行った。本研究は、厚生労働科学研究費補助金「生活環境汚染物質による小児の毒性評価のための免疫指標の開発に関する研究」(平成13-15年、主任研究者;吉田貴彦)の一環で、行ったものである1)。本研究で用いた検査項目は、先行厚生省委託研究で免疫指標について動物実験で検討した結果を踏まえ、人、特に小児での健康影響調査において有用と思われる指標として選択された項目であり、先行して行った1年間を含め2)、4年間にわたって行った調査研究をまとめたものである。血清中IgE濃度はアトピー性アレルギー患者において有意に高値を示すので、気管支喘息、皮膚炎、鼻炎などの場合、アトピー要素の有無を調べるためにも用いられている。胎児のIgE産生量は微量で、母体のIgEは胎盤を通過しないといわれており、生まれた直後は極めて低い値を示すが、健常な小児では年齢とともに総IgE値は上昇し、10-15歳位に健常成人と同じ値を示すようになる3)。血清中総IgE値が非特異的IgE値と言われるのに対し、アレルゲン(抗原)に特異的なIgEを検出する特異的IgE検査法がある。アレルギー性疾患が疑われる場合は、総IgE値が基準値の範囲内であっても、アレルゲンに特異的なIgEの存在が確認されることもある。試料となる血清は、2000年度から2003年度にかけて、関東地区の3地点、東京都東久留米
市、多摩市、神奈川県横浜市旭区、および北海道旭川市の4地点において、保健所・保健センターにおける3歳児健診の機会を利用し、保護者の同意を得た上で、満3歳に達した総計612人から採血して調製された。採血はいずれの年度も10月から翌年1月にかけて行い、同時にアレルギー性疾患による受診歴、自覚症状等についてアンケート調査も実施した。

方法
 総IgE値については、蛍光酵素免疫測定法(FEIA)で定量し、アレルゲン特異的IgE抗体価は、食物アレルゲン4種(卵白、牛乳、大豆、小麦)及び室内吸入アレルゲン3種(ネコ上皮、コナヒョウヒダニ、ハウスダスト)に対する特異的IgE抗体価につき、ELISAで半定量測定を行った。室外吸入アレルゲンは、関東地区(東久留米市、多摩市、横浜市)ではスギ、旭川市ではシラカバにつき、ELISA並びにAlaSTATで定量を行い、さらに総IgE抗体値との関連について検討した。

結果
 総IgE抗体値を測定することができた3歳児血清は、平成13年度187検体、平成14年度204検体、平成15年度147検体であり、予備的調査を行った平成12年度74検体を合わせると総数612検体であった。これら血清につき、抗原特異的IgE抗体の測定も行い、これらの調査結果とアンケート結果をもとに、総IgE抗体値と個々の抗原別IgE抗体価あるいは症状との関係、地域による違い、年度による推移等を解析した。総IgE抗体値は全体では34.7IU/ml、関東地区で44.7 IU/ml、旭川市が22.5 IU/mlであり、旭川市の方が幾分低い傾向が得られた(幾何平均)。また、図1に、関東地区と、旭川地区の3歳児の総IgE値のヒストグラム(横軸:総IgE値対数目盛、縦軸:人数%)を示すが、旭川地区では、総IgE値10以下の人数の割合が高いことがわかった。特異的IgE抗体陽性率は、旭川25.7%(58/226)、東久留米27.0%(54/200)、多摩33.3%(10/30)、横浜33.3%(52/156)、全体では28.4%(174/612)であり、食物アレルギー陽性者の割合は、旭川3.5%(8/226)、東久留米7.0%(14/200)、多摩13.3%(4/30)、横浜9.6%(15/156)、全体では6.7%(41/612)で、室内吸入アレルギー陽性者の割合は、旭川25.7%(58/226)、東久留米22.5%(45/200)、多摩23.3%(7/30)、横浜30.8%(48/156)、全体では25.8%(158/612)であった。また、総IgE値が80 IU/ml以上の群では何らかのアレルゲン特異的IgE抗体を有する者が67.6%(123/182)と高い値を示した一方、総IgE値が40 IU/ml未満の群では6.6%(21/320)であったことから、総IgE値はアレルギー状況のよい指標であることが確認された。食物アレルゲン特異的IgE抗体陽性者率の内訳は、卵白5.6%、牛乳2.1%、大豆1.0%、小麦0.2%の順であった。室内吸入アレルゲン特異的IgE抗体陽性者率の内訳は、ダニ23.2%、ハウスダスト10.6%、ネコ上皮6.0%であった。また、アレルゲン特異的IgE抗体陽性者数の年度別推移を図2に示すが、年度による陽性者数に大きな違いはみられなかった。室外吸入アレルゲンでは、旭川の試料の内の高IgE群の50名中8名が陽性(シラカバ)と判定され、陽性率は16.0%であった。また、精製したスギ花粉抗原を用いて関東地区全員を対象としたELISA法による抗原特異的IgE陽性者は15.6%であった。以上、食物抗原、室内型吸入抗原に対するIgE抗体ばかりでなく、3歳児においても室外型の吸入抗原に対するIgE抗体の産生のみられることが判明し、総IgE抗体値及び吸入アレルゲン特異的IgE抗体価が、環境リスクを評価する指標となることが示された。なお、東京と旭川で、特異的IgE抗体陽性率には大きな違いは見られなかった。
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図1 関東地区と旭川の3歳児の総IgE値のヒストグラム

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図2 抗原特異的IgE陽性者率の年度別推移

考察
 今回用いた総IgE値及びアレルゲン特異的IgE抗体価の2つのアレルギー指標は、地域住民への環境リスク評価のための予見的アプローチ手段として、実用面において有効性が示された。また、Kuligらによればドイツにおける3歳児のカンバおよび草花粉による感作率が6-7%、発症率が3%であるが4)、今回の調査において、わが国においても室外吸入アレルゲンに、3歳児ですでに陽性となる例が、関東、旭川ともにみられ、室外抗原陽性の低年齢化がすすんでいるというデータを示すことができた。一般児、特に低年齢児を対象とする採血を伴う調査は日本ではあまり例がないため、本研究で得られた結果は、現時点における小児のアレルギー傾向を知る上で貴重な資料であると考えられる。

参考文献
1) 吉田貴彦(2004):一般人集団に適応する免疫指標を用いた環境リスク検出の試み、ImmunoTox Letter 9(1)、5-7
2) 環境基本計画推進調査事業「環境リスク対策における予見的アプローチに関する調査研究(免疫影響)」平成12年度委託事業結果報告書 主任研究者 大沢基保:
3) 森川利夫(2001):血清IgE値の基準値の検討、日本小児アレルギー学会誌15(5)、546-5524) Kulig, M., Klettke, U., Wahn, V., Forster, J., Bauer, CP.,Wahn, U(2000): Development of seasonal allergicrhinitis during the first 7 years of life. J.Allergy Clin. Immunol., 106, 832-839
 
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