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「障害者」という言葉
北海道医学誌2006年冬号 編集後記
旭川医科大学医学部健康科学講座 吉田貴彦

 本年(2006年)3月発行の本誌の編集後記で、宮本顕二先生が「障害者」の言葉から始めて医学・医療にかかわる言葉を中心に興味のある文章をお書きになっている。大変興味深く読ませていただき、学識の深さに敬服した次第である。小生もこのところ「障害者」にかかわる活動をしており、同じく「障害者」の言葉について考えることがあったので、学識の浅さが露呈することを恥ずかしく思いながらも書かせていただこうと思う。

 平成18年度のサービス産業創出支援事業(観光・集客交流サービス分野)という経済産業省の委託事業を旭川圏域での産官学コンソーシアムで受けたことがそのきっかけである。どうして医学部に所属する者が、観光・集客交流サービス分野の仕事なのかと御不審に思われるのもごもっともである。実際に「障害者に旭川まで旅行して来てもらい冬の体験(スポーツやイベント)を組込んだパック旅行商品を開発提供し楽しんでもらおう」という趣旨の事業であり医学と無関連と思われるかもしれないが、旅行に不安を持つ障害者に対して医学・介護の視点から安心・安全を担保するところに接点を作っている。コンソに加わっているのは、小生が旭川医大に赴任した後、2003年頃より「健康」を切り口とした旭川圏域の産官学の取組みに関わり各種の補助金獲得をめざし街の活性化に貢献しようとした事に端を発している。そうした取組みの中で構想の発案・申請書作成に中心的にかかわってきた一環として今回の事業がある。

 申請の構想段階で集客の対象者を「障害者」に特化したまでは良いが、どうにもすっきりこない。我々のコンソには今年のトリノ・パラリンピックにアイススレッジホッケーのGKとして参加した永瀬充氏が加わっており、彼ら障害者が一緒に活動しているところに強みがある。障害者自身の事は障害者自身がもっとも良く理解できるだろうから、障害者の目線で旅行商品を企画することが良い物創りにつながるだろうとの発想である。「障害者」なる言葉は宜しくないということは聞いていたので、「あなた達の事を何と表現したらよいのだろうか」と問うと、「障害当事者かな」との返事である。そこで、「障害当事者プロデュースによるユニバーサルな・・・」までネーミングがすすみ、最後に永瀬氏がポツリと発した言葉を加えて、『障害当事者プロデュースによるユニバーサルな雪と氷の世界』という幻想的な事業名が完成したのである。そしてコンソーシアム名は『雪の中でもてなし隊・大雪』となった。これらの名称は、審査委員にたいそう評判が良かったようで、めでたく委託事業に採択されたのである。他者に何かをアピールする際のネーミングの重要性を痛切に感じた。さて、契約締結に向けての実施計画書の作成に精を出す事になったが、地元でプロデュースする障害当事者に対して、お客様となって旭川に来てもらう障害者を何と表現するかが問題となった。「障害当事者」の言葉は「障害者」をやや柔らかく表現したものだそうだが、我々はもてなし側の一員としての意味をも持たせて使っているので区別をしたかったのである。最終的に「障害のある人(たち)」を用いることで落着いた。しかし、改めて宮本先生の文章を見直して心配になったこともあり、インターネットで様々なHPを検索すると、「障害のある人」、「障がいのある人」のどちらも使われており、両方が混在するものも少なくない。中には「障害者」まで混在するところすらある。政府や地方の行政機関も、障害者関連団体も然りであり、それほどこだわる必要も無いかと一安心した。

 来年(2007年)2月にかけて、障害者スポーツのイベントや、「旭川冬まつり」、「あさひかわ雪あかり」に合わせて実施するトライアルツアーなどの一連の取組みが続く。地元の障害当事者と、何が健常かわからない我々コンソーシアムメンバーが力を合わせて、旭川を訪れる障害のある人たちと交流を深め、共に「ユニバーサルな雪と氷の世界」を築きたいと願っている。


 本文は、北海道医学雑誌という、北海道の3医系大学で医学博士号を取る方の論文を主に掲載する医学系雑誌の編集後記として書いたものである。
 
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