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米中カドミウムの危機管理への努力
自治医科大学地域医療学センター
香山不二雄

 カドミウムの米中許容濃度の話題が国内外で高まっている。平成17年4月下旬に開催されたコーデックス委員会(CCFAC)で、精米中カドミウム濃度0.4 ppmで議論が進みつつある。世界基準が定まれば、その基準またはそれ以下しか日本の消費者は受け入れないのではないか。米を海外にほとんど輸出していないのだから、国内基準は現状に合わせればいいのではと、思うのは農林水産省や農業団体であろう。米は日本人の主食であるとともに、日本農業の根幹を支えている農作物であることを考えたら政治的決断が必要であるという農林族もいらっしゃる。実際、日本の土壌のバックグラウンド・レベルは高く、汚染地域でなくともある程度のカドミウム曝露はある。また、海産物のカドミウムも多いので、海産物をよく食べる日本人は、世界的平均値と比較すれば、カドミウム高濃度曝露集団である。
 
 富山県神通川流域では上流の鉱山からの汚染のため米が汚染され、それを食べた農家の女性に重篤な腎機能や骨組織に影響を与えイタイイタイ病を起こした原因物質としてカドミウムは大変有名である。しかし、その当時の米中カドミウムだけが原因ではなく、川の水を飲料水として利用したため水からのカドミウム摂取も大きく、より大きな負荷がかかり神通川流域のみでイタイイタイ病が発症したのではないかと考える研究者がいる。そうでないと、他の地域で見つかったカドミウム汚染米の濃度でイタイイタイ病が発症していないのが説明できないのである。このように基準を定めるにも専門家の意見はいろいろがあり、それをまとめる作業は大変である。
 
 食の安全・安心は、国民の健康を守るためには妥協できない部分である。重金属濃度の測定は原子吸光分析計やICPが公定法となっている。しかし測定機器が高価であり、前処理も時間と手間がかかり、処理検体数が限られている。米中カドミウム濃度の許容基準が決まったとしても、どのように管理するかは大変難しい問題であり、ある程度の汚染の存在する地域の米を出荷前にスクリーニングしていたらとても出荷までに、時間的にも経済的にも成り立たない。
 
 2年前から関西電力とそのグループ企業との共同研究で、カドミウム特異的抗体とイムノクロマトを用いて米中のカドミウム迅速測定法の開発およびフィールド実証試験を行ってきた。このような迅速測定の応用が成功すれば、生産途中から立毛中のカドミウムを測定し、収穫の前に栽培指導したり、米の出荷時点で基準以上の米をスクリーニングすることができる。そのような生産管理から商品品質管理の一連の地道な努力が日本の農業を支え、さらに国民の健康度を上げて行くことにつながると思う。
 
 ただし、現在でも日本人は世界一の長寿国であるが、カドミウムの曝露量をさらに下げることができれば、さらに寿命は延びるのだろうか。それとも、微量な毒物の摂取は、放射線ホルミシスと同様な機序で種々の生体機能を高めているのだろうか。サイエンスも政治もクリア・カットであれば話は簡単なのであるが、この疑問は証明の方法も難しく、底なしの深淵であるが、現実の危機管理や安心のためには、このカドミウム・イムノクロマト測定法の研究成果は、社会に有用な方法を提案していると。

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